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北大西洋本鮪(クロマグロ)定置網事業その1

<事業概要>

あまり知られていないが、モロッコやスペイン、ポルトガル、イタリアのような地中海地域では古代ローマ時代からマグロ漁が盛んである。

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↑スペイン南西部のバルバテという町は古くから本鮪定置網漁が盛んで、漁期になると町をあげてマグロ祭りも行われ、レストランではマグロ料理も振舞われる。

地中海はタイセイヨウクロマグロの産卵場所になっており、毎年4月から6月にかけて大西洋にいるクロマグロが産卵のために一斉に地中海の中に押し寄せる。そこに定置網を仕掛けて一気に取り上げるのである。彼らの目的はその卵にあった。産卵に向け、エサをたらふく食べるため身に脂が乗るのが5月に入ってから。そして次第に卵が成熟するに従い、身の脂は抜けていく。栄養が卵に持っていかれてしまうのである。ちなみに栄養の抜けきったマグロを生け簀に入れてエサを与えたのが、スーパーなどでよく見られる蓄養マグロである。そして成熟した卵を塩漬けにしたのがいわゆるカラスミである。黄金色をしたボラのカラスミと違い、マグロのカラスミは濃い茶褐色をしている。カラスミはボッタルガという名前で地中海地域ではワインのツマミやパスタの材料として親しまれている高級食材であるがマグロのボッタルガは特に重宝されている。やはり人間は世界共通、魚卵が好きである。イクラ(鮭)然り、キャビア(チョウザメ)然り、カラスミ(ボラが一般的)然り、たらこ(スケソウダラ)然り、カズノコ(ニシン)然りである。

本来、卵を取ることが目的であったため取り上げのクオリティは低く、刺身で食べられるものではなく、ツナ缶の原料、もしくはスペインではモハマと呼ばれる塩漬けの原料になるかであった。ちなみにイタリアやスペインではこのクロマグロから作ったツナ缶がとても人気で、実際にツナ缶の概念が変わるほど衝撃的な美味しさである。

それを日本の商社が1980年代ごろから、刺身商材としてこの脂の乗ったマグロの買い付けを始めた。と言っても当初はとても刺身で食べらる代物でなかったであろう。ましてやモロッコ人やスペイン人を相手に改善を重ねて来られた先人たちの苦労を想像すると、頭が上がらないのである。私が初めて参加した2007年ごろでさえ、鮮度を良くするなんていう考えを微塵も持っていないと感じることが多々あった。

何せ2000年も続く伝統芸能である。彼らにもプライドがあり、なかなか話を聞き入れてくれない。網で魚は擦れるし魚をカギで突き刺したり、魚の上に魚を積み重ねるため、マグロがうっ血してシミが出来る。そうすると価値が下がる。

鮮度良く取り上げられるのは100匹まで。それ以降はマグロの体温が上昇し身が焼けてしまう(我々はヤケと呼ぶ)。こうなると身がボソボソになり魚の価値が一気に落ちてしまう。魚がヤケても買い付けの価格は変わらないため、ヤケが増えれば損失が出る。200匹あればヤケが100匹出ることになる。300匹いても400匹いてもお構いなしに一気に取り上げてしまう困った漁師たちなのである。1秒の予断も許されないまさにスピードとの闘い。つまり網に何匹入るか、そしていかに迅速に取り上げを行うかが重要なポイントである。

さて、先ほどは定置網を仕掛けてと簡単に述べたが、実はこの定置網、長さが50kmほどにもなる世界最大の定置網なのである。スケールが全然違う。私の記憶では1日で最高で約800匹のクロマグロが網にかかったことがある。モロッコに10数か所、スペインに4か所、ポルトガルに3か所の定置網が存在(イタリアは15年以上、現地消費のみで日本に搬入されていないので割愛)。マグロが入れば網の近くに冷凍加工船を着け、取り上げを作業を行う。年代により漁獲枠が変動するが、約2か月間をかけ1000~3000トン(5000~15000匹)ものマグロを取り上げる、途方もない事業である。1匹あたりの平均重量が200kg。ちなみに私がモロッコで出会った最大のマグロは480kgであった。牛のようであった。

↓の動画内の定置網には約250匹ほどのマグロが入っている。

地元漁師が取り上げたマグロを迅速に冷凍加工船に運び、そこでロインと呼ばれる四つ割り状に切るが、1匹あたり約5分という信じられないスピードで解体していく。それを急速冷凍室で約15時間冷凍。翌日、ロインが乾燥しないように氷でコーティングするグレージングという作業を行いー60℃の保管庫(魚層)に落とす。これが一連の作業であるが、ヤケを出さないために自ら網場で血抜きを行い、漁師たちに運搬の支持を行い、そしてしっかりと検品を行うことが主な任務であった。

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以上が私のキャリアそのものとも言っても過言ではないほど深く携わった事業の概要であるが、その2では若かりし頃のモロッコでの奮闘記と自身の意識の変化、そして漁師たちの意識の変化により10年の間に急成長を遂げた取り上げ技術について綴っていきたいと思う。












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