政治の分断が健康に害をおよぼすという論文
健康は単なる医療の問題や生活習慣の問題ではなく、経済、教育、医療へのアクセスなど複合的な社会的要因に影響を受ける。医療行為や個人的な生活習慣に留まらない社会的要因が、健康状態という形で顕現しているのだ。
2024年10月25日に公開された論文「Political polarization and health」( https://doi.org/10.1038/s41591-024-03307-w )は、コロナ禍をケーススタディとして、この問題を整理、分析している。
政治的分断は健康に影響を与えており、社会科学と医学との協力が必要としている。また、気候変動の健康に対する影響も大きいが見過ごされがちとしている。
概要
近年、経済や政治が健康に影響を与えるという認識が高まっている。政治的分断は公衆衛生において科学的知見に基づく議論ではなく、党派的な議論や感情に基づいて公衆衛生に関する施策が決定されることがある。たとえばアメリカにおける中絶問題などがある。
コロナ禍ではそれが顕著であった。パンデミック以前は、保健機関や専門家の情報やガイドを多くの人は信用していたが、コロナ禍ではソーシャル・ディスタンス、マスク着用、ワクチン接種などで分断、二極化が進んだ。こうした分断が激しい地域では初期段階でワクチンの接種率が低く、死亡率が高かった。
データ上ではこうした分断の公衆衛生への影響は確認できるものの、これまでの疫学モデルでは社会的要因を無視するか、タイムリーに社会的要因のデータにアクセスできなかった。そのため、政策に関する洞察は限定的となっている。今後の公衆衛生は政治的分断をのぞいて考えることは難しい。
感想
コロナ禍では「今回のパンデミックは政治的イベント」とよく言われていた(というか私が言っていた)ので、とても腑に落ちる論文でした。むしろ、こうした議論があまり行われていなかったことが不思議。
以前、このnoteに書いた「悪魔の処方箋と呼ばれた疾病地政学」( https://note.com/ichi_twnovel/n/n90ead793c6c4 )に書いた議論と重なる。デジタル影響工作を行うことで相手国にパンデミックを起こすことだってできる。現実に、疾病地政学できる可能性が見えてきたのは驚くべきことだ。
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