民主主義の現在 アジアのネット世論操作の現状 韓国編 Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases

Social Media, Disinformation and Democracy in Asia: Country Cases(Asia Democracy Research Network=ADRN、2020年10月)
http://www.adrnresearch.org/publications/list.php?at=view&idx=118

Asia Democracy Research Network(ADRN)がまとめた報告書でアジア14カ国におけるネット世論操作のケースタスディがまとめられている。取り上げられている国は、日本、モンゴル、韓国、台湾、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、バングラデシュ、インド、ネパール、パキスタン、スリランカである。全体で300ページの大作だ。
日本(https://note.com/ichi_twnovel/n/n74ff650210ab)モンゴル(https://note.com/ichi_twnovel/n/n55e4b64abbbe)の事例研究についてはすでにご紹介した。今回は韓国である。長かったのでざっとまとめました。

・韓国ではフェイスブックとYouTube
韓国はIT先進国として知られており、SNSの利用も進んでいる。KISDI STAT2019 (Korea Information Society Development Institute)によれば、2011年には16.8%だった利用者が2018年には48.2%にまで伸びている。利用されているのは、フェイスブック(34%)、Kakao Story(27%)、ツイッター(14%)、Naver Band(11.3%)、インスタグラム(10.8%)が多い。 20代の韓国人は1日平均67分間SNSを利用し、60代は1日平均42分を費やしていた。この調査ではYouTubeは対象となっていなかったが、他の調査では検索用途での利用で2位(1位はNaver)となっていた。韓国のインターネットユーザーの10人に6人がYouTubeを使っている計算だ。きわめて人気の高いアプリとなっている。政治的なシーンでの利用が多い。
East Asia Instituteが2020年に行った調査では韓国ではニュースを得る元としては3大テレビ局およびケーブルテレビが多く。それらのポータルサイトも同様によく利用されていた。
ただし、既存メディアとネットの境界はあいまいになっており、政治家やインフルエンサーのネット上の発言を既存メディアが取り上げることも多い。既存メディアでニュースを取得し、SNSで意見交換をするという使い分けになっているようだ。

・韓国におけるネット世論操作と分極化
多くの国がそうであるように韓国でもネット世論操作と分極化が進んでいる、として2つの事例を紹介している。ひとつは2012年の大統領選において、国家情報院(NIS)のスタッフが野党の大統領候補だった文在寅に20のIDで250回否定的なコメントを行っていたことがわかった。
もうひとつは、有名なブロガーがプログラムが2017年の大統領選においてプログラムで文在寅を支持するコメントを書き込んでいた事件である。この事件はその翌年に今度は文在寅を非難するコメントにいいねをつけまくっていたことから発覚した。犯人は昨年の選挙での協力の見返りを文在寅に要求して拒否されたことで復讐におよんだ。余談であるが、日本でも政治家から市長選の対立候補に対する中傷ビラの配布を依頼されて実行したのに報酬をもらえなかったことに腹を立てた犯人が依頼してきた政治家の自宅などに火焔瓶を投げ込んだ事件があったことを思い出す。
最近のポータルサイトの多くは自動的に不適切なトロールの書き込みを検知して削除する仕組みを備えていることが多い。

韓国で分極化は進んでいたが、文在寅政権になってそれが加速した。East Asia Instituteが2005年から2020年にかけて4回実施した韓国人のアイデンティティに関する調査では、40%以上の韓国人が自分自身を中間(右でも左でもない)と考えていた。しかし政治においては極右か極左に影響されることが多い。保守政権の時は極左が大統領を拒否することが多く、革新政権の時には極右のサポーターたちがあらゆる手段を使って妨害を行う
だが、現在の政権はこれまでの政権に比べて多数の議席を有している。ただし、議席数の差は実際の得た票数の差よりも大きくなっており、これが国会での議論と、国民の認識のギャップとなっている。このギャップによって、政治家のスキャンダルなどがSNSで話題になり、事件にまで発展したこともある。

2012年4月の時点でTwitterフォロワー数上位14人の「政治的影響力を持つ有名人」を特定した。politainers(コメディアンと俳優)writers(小説家と漫画家)public intellectuals(大学教授、コラムニスト、ジャーナリスト)の3つのグループに分けられた。有名人のフォロワーの分布はリベラル派に大きく偏っていた。これら14人の有名人の合計約187万人。14人のうち13人がリベラルであり、そのフォロワーは81,387人から806,673人で、平均数は323,261人でした。最も人気のある有名人はコメディアンに転向したエンターテイナーのイ・ジェドン・キムだった。たったひとりの保守的なコメンテーターであるJo Kapjeには、12,700人のフォロワーしかいなかった。そしてこうした有名人のフォロワーはテレビニュースを見ていなかった。

2020年5月に実施されたEast Asia Instituteの韓国人アイデンティティ調査では主要既存メディアである新聞とテレビ放送局、それとYouTubeチャンネル、合計34のメディアを対象とした。9つのYouTubeチャンネルのうち極端に左よりが2つ、右よりが7つあった。調査に含まれた合計15のYouTubeチャンネルのうち、12のチャネルの視聴者は、保守党の支持者よりも右寄りだった。左寄りのYouTubeチャンネルも、進歩党の支持者よりも左寄りだった。しかし同時にこの調査ではメディアの選択と政党や政策の選択に関連がほとんどないこともわかった。つまり、メディアの分極化は、政策ではなく、感情的なアイデンティティに基づいていると結論している。
なお、現在(文在寅政権)は右寄りがSNSでは多いが、以前の朴槿恵政権下では革新派が多かった

ここでこのレポートはYouTubeを舞台とした事例を紹介している。長くなるので割愛するが、興味ある方は原典をご覧いただきたい。

・対策
ネット世論操作は人権の問題ともいえ、非常に深刻な課題である。法規制は有力な対策だが、コストや境界線の線引きという問題がある。法規制は容易に言論の自由を圧迫するツールになりうるのだ。
だが、うまくバランスをとって新しい仕組みを構築することが必要となっている。

民主主義を知るための本 https://note.com/ichi_twnovel/n/n6651178d7522 

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