丹波〜因幡見聞録2 山路寺(さんろじ)
1からの続き。
香住にある大乗寺(応挙寺)に行こうと調べていたら、山路寺には、応挙に師事した片山楊谷の障壁画(水墨)があるとネットで観た。
養父市の観光課のサイトだったので、一般公開されているのか問い合わせたら、観光課では分からんので寺に直接問い合わせろと。しょうがないのでお寺に電話したら、予約すれば鑑賞可能とのこと。
応挙に比べるとややマイナー感は否めないけれど、応挙を観る前のウォーミングアップ的に、まあ一度観てみるか。
そう思って山門をくぐる。
警備装置がついているようで、小さな警告音が鳴る。え?とビクビクしてると、本堂の横のおうちからジャージ姿のご住職が登場。
「icchanさん?」と尋ねられたので、はい、そうです、と応え、本堂へ招き入れられる。
本堂の、御本尊さまがいらっしゃるその横で、訪問者名簿に住所氏名を記入し拝観料500円を払い、ジャージ姿のご住職に導かれて障壁画のある部屋へ。
ジャージ姿をやたら強調するのは、なんていうか、ご住職って袈裟を着てるもんやろというこちらの先入観を打ち砕かれたため印象が強いので。他意はない。
部屋は全部で3つ。県の重要文化財とのことで(?)撮影は禁止。しかし間近で観られるので、胸に目蓋に刻み込む。
まずは松の間の老松図。壁2面、襖8枚に渡って、松の絵が描かれている。すごい筆の勢い、圧倒される。美術館で観るのとは距離感がまったく違う、迫力が違う。襖の前に座って、松を見上げる。観客は僕一人。何とも贅沢な空間、時間。
呆けたように見惚れていたら、「まだ他の部屋もありますんでの」とご住職につつかれて、次の虎の間へ。
今度は壁3面、16枚の襖に、虎たちが。渓流猛虎図、というらしい。中には泳いでいる虎もいる。虎の毛並みの柔らかさ、眼光の鋭さ。楊谷も虎を見たことはないはずだけれど…その存在感の充実ぶりに、またまた圧倒され呆けて見入る。
「他の絵師の虎は猫みたいやけど、楊谷の虎はほんまもんの虎の迫力がある」とはご住職の弁。江戸時代の絵師たちは虎を見たことがないので猫を参考に描いたとは聞くが…
そして最後の孔雀の間。牡丹孔雀図(4面)、竹林七賢図(小襖2面)、高士竹梅図(掛軸3幅)、牡丹孔雀図(屏風)と、畳み掛けるように並ぶ作品たち。
中でも襖絵の牡丹孔雀図は圧巻。若冲にも劣らない(?)細密で精確な孔雀もすごいけど、牡丹の花弁の質感に撃ち抜かれる。言葉にはできないけれど、瑞々しくてふっくら柔らかい花弁が、そこに。墨絵なのに色も香も感じられそうな。
そして掛軸の松や梅にかかる雪。水墨画なので、墨を塗らずに下地の白を残して雪を表現している。その、塗り残し方がまた絶妙で、枝から零れ落ちる細かな雪を見事に描いてきて。
老松や猛虎の迫力も素晴らしいけれど、孔雀や牡丹、残雪など、憎らしいほどの繊細なテクニック。
それらを一人切り(隣にジャージ姿のご住職はおられるけれど)で間近に観られる経験、貴重な思い出となりました。ご住職曰く、京都にはたくさん屏風を公開しているお寺があるよ、とのことなので、是非訪れてみたい。
片山楊谷、素晴らしかったけれど、ポストカードもないし撮影もできない。ただ作品を観ている時間だけがあって、その体験を記憶する。
最近は撮影可能な展覧会も多いけれど、撮影して満足してしまって、作品自体をしっかり観ない、というようなことになっしまうこともある。
芸術と向き合うということの原点を、改めて思い起こさせてもらった時間でもありました。
たっぷりと楊谷を堪能して、幸せな気持ちで今夜のお宿へと向かいます。(続く)
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