マガジンのカバー画像

読了記録 2024

81
運営しているクリエイター

#夏目漱石

『道草』夏目漱石

何とも陰鬱な作品で読んでいて気が滅入ってしょうがない。何処にも救いのない物語、真綿で口と鼻を塞がれたような息苦しさ。

複雑な家庭環境で育ち、自身が気づいた家族も冷え切った空気に満ちて、“御前は必竟何をしに世の中に生れて来たのだ”という声に答えるすべもない主人公の、孤独や閉塞。

家族といえども、いや、家族だからこそ拭えないしがらみ、纏わりつく不快。一方で妻の心に傷をつけるしかない自身の身勝手さに

もっとみる

『行人』夏目漱石

ヒロイン・直の謎めいて妖艶な魅力にぞっこんやられてしまう逸品。

妻・直の自分への想いを疑う一郎は、弟の二郎に、“貞操を試すため”、直と二人で旅行してくれと頼む。

夫の策略によって和歌山へ二人きりで出掛けた直と二郎は、悪天候によって宿の同室で一夜を明かすことになる。

停電した暗い部屋の中で「いるんですか」と訊ねる二郎に、「いるわ。嘘だと思うなら此処へ来て手で障ってご覧なさい」と挑発する直。

もっとみる

『門』夏目漱石

以前読んだ時は、静かにひっそりと暮らす夫婦二人の佇まいが強く印象に残り、そこには社会から外れて暮らす男女の、二人だけであるがゆえの小さくとも勁い世界があるように感じたけれど、読み返してみるとそれは全くの誤読で、我ながら読解力のなさに情けなくなる。

静かにひっそりと暮らす夫婦には常に不安が付き纏っていて、罪の記憶に苛まれ、いつか今の暮らしが覆されるのではないかと怯えながら暮らす二人。

物語の半分

もっとみる