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そぼいん(祖母の引力)

6月1日、地元、遠軽町を出発し、僕の日本一周旅が始まった。
津別町での飛び級バイク体験を経て、次なる目的地は、祖母の家がある北海道第二の都市、旭川。

ハードすぎる下澤式トレーニングによって、心のガソリンタンクはすっかりすっからかんである。

祖母宅で少々充電してから、出発でも遅くはあるまい。そう思い、羽を休めることにする。

長くても、2、3日。疲れが取れないようなら、4日くらい滞在しよう。当時はそんな見立てだった。

これが、誤算であった。

祖母宅、どんな5つ星ホテルにも負けず劣らず、居心地がいい。
1日3食付き、布団はふかふかだし、食後にはハーゲンダッツが出てくる優遇ぶりである。しかもそれは、コンビニで売っているちんけなミニカップではない。業務用サイズの特大ダッツ。2Lも入った、アイス屋さんに置いてあるアレ。まさにVIP待遇。

この居心地が良すぎて人をダメにする“ヨギボーハウス”に加え、極め付けは「何日でも滞在していいんだからね」という祖母の甘言。
祖母の甘い誘惑が、僕をますます廃人にする。

「あゝ、祖母の引力は強い。」

気づけば、永住する勢いでくつろいでいる自分がいる。もういっそこのまま、祖母と二人暮らしでもはじめてしまおうか。僕は大きな挑戦を目前に、完全に親離れ、いや“ばば離れ”できない桃太郎と化してしまった。

鬼退治に行くはずが、気づけば「怠惰」という名の鬼に心の中を巣食われていた。

10日ほど滞在したある日、いつものようにハーゲンダッツ業務用サイズを両の腕に抱え、巨大スプーンで貪り食っていると、「カツン」というプラスチック音がした。南へ南へと掘り進めたバニラの採掘作業は、ついに最深部へと到達してしまったらしい。

「カツン、カツン、カツン」

どこを掘っても、空っぽの容器の音だけが聞こえる。
その瞬間、虚無に襲われた。

”何をやっていたのだ、わたしは”

南へ移動すべきは、「スプーン」でなく、バイクに乗った「己の肉体」
到達すべきは、「プラスチックカップの底」ではなく、最南の地、「沖縄県」

カツン、カツン、カツ、、、、

喝っ!!!

かああああああっっっっつ!!!

目が覚めた。心の中の張本勲が鬼の形相で喝を飛ばしている。
これはいけない。心が揺らがぬうちに、宣言しようと祖母を呼び寄せる。

「おばあさん、私は最南の鬼ヶ島、いえ、波照間島まで行かなくては行けません。今が出発の時です。」

祖母は、一瞬だけ寂しそうな顔を浮かべ、すぐに笑顔になった。
竹編みのカゴの中をガサガサとあさり、「これを持っていきなさい」と、僕に何かを手渡した。

吉備団子、、、、
ではなく、“アロニア寒天”だった。

「ん、アロニア寒天って何?」と思われた方、大丈夫。僕も同じことを思いました。

調べたところ、栄養満点のベリーで、アントシアニンがブルーベリーの3倍。ポリフェノールがブルーベリーの5倍。抗酸化性がブルーベリーの10倍。
何もそこまでブルーベリーに対抗意識を燃やさなくても良いではないか。

アロニアとブルーベリーの因縁は知らないが、とにかく、そんなベリーによって作られたベリーグッドな寒天である。

そうか、桃太郎がもし岡山で生まれず、北海道出身なら、アロニア寒天をもたされるのか、地域色の違いに「ほお」と感心してしまった。

正直、吉備団子より、アロニア寒天の方が栄養価が高いと思うんだ。(お前まで対抗意識を燃やすな。)

そんなアロニア寒天を腰に巻き付け、今までの感謝を祖母に伝える。
最後は熱い抱擁を交わし、ヨギボーハウスを後にした。

鬼が誰なのかも、鬼ヶ島がどこにあるのかも、わからないけれど、
とりあえず、アロニア寒天を片手に、猿と犬と雉を探すところから始めたいと思う。

「お腰につけた『アロニア寒天』ひとつ私にくださいな。」
そんな方がいらっしゃいましたらいつでも連絡、お待ちしております。家来の枠が三つ空いていますよ!!

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