「交流分析 for Teacher」シリーズ記事では、学校現場の事例について交流分析を通した解釈を書いています。子どもたちと向き合うためのヒントにしていただけたら幸いです。
J太くんの事例
この関わりの良さは何でしょう?J太くんが成長できたのは、K山先生の関わりのどこが良かったからなのでしょう。交流分析の視点から解釈してみたいと思います。
J太くんのエゴグラム予想
部長になる前のJ太くんのエゴグラムを想像して描いてみると、こんな風になっているのではないでしょうか。
CPとFCが高く、そこが彼自身も周りも困るポイントだったのかもしれません。K山先生は「最初はやんちゃでエゴイストなジャイアンみたいなヤツだった」と言っていましたが、これは『ドラえもん』に登場するジャイアンのようなエゴグラムです。
CP(支配的な親の自我状態)のエネルギーの特徴
CPのエネルギーが高い人は、責任感が強くてリーダーに向いています。自分に厳しく、ルールをしっかり守る人で、弱い者の面倒をよくみます。しかし権威的、支配的になりすぎて、人に圧力をかけることもあります。
J太くんの競技の実力は、厳しい練習でも自分を律して頑張ってきた結果得られたものではないかと思います。この点ではCPのエネルギーをうまく活かせていたようですが、別の場面では「友達に自分の荷物を持たせたり、気の弱い子に対して悪ふざけが過ぎたり」していて、そういうところではCPの短所が出てしまっていたようです。
「その反面、男気あふれる面もあり、一部の子たちからは慕われている」という点では、まさに「ジャイアンみたいなやつ」だと言えそうです。
FC(自由な子ども)の自我状態のエネルギーの特徴
FCのエネルギーが高い人は、感情や欲求を自由に表現でき、明るくて楽しい人です。基本的構えは自己肯定的で、自信を持っています。一見伸び伸びとして魅力のある人に見えますが、他人に対する配慮を欠いてしまうこともあります。
部長になり、その自覚が出てくる前のJ太くんは、FCの短所ばかりが目立っていたようです。それは、たとえば以下のような点です。
J太くんはたぶん全体にエネルギーの高い子です。「やんちゃでエゴイストなジャイアンみたいなやつ」に見えていたのは、その高いエネルギーが各自我状態の短所として出てしまっていたということです。
K山先生の関わりの良い点は、「エネルギーの配分がより良い形に変わるように仕向けたこと」だと言えます。
テレビアニメよりも映画作品のジャイアンのほうが「いいやつ」ですよね。同じ人物なのにちょっと違ったキャラに見えるのは「物語のプロットの影響を受けてエネルギーの配分のしかたが変わるから」だと言えると思います。
エゴグラム上のエネルギー配分を変える
J太くんの良くない点は、CPの短所とFCの短所ばかりが目立ってしまっている点です。こうした点を変えようとして、CPとFCのエネルギーが下がるようにはたらきかけると、実はうまくいきません。
たとえばJ太くんが、自分が対戦したいライバルがいる学校と「練習試合を組んでください」と言ってきた時、K山先生が「お前はなんで自分のことしか考えてないんだ。部長なら部全体のことを考慮に入れて練習試合を考えろよ」などと言ったとしても、うまくいかないはずです。好ましくない行動に「ストローク」を与えると、その行動が強化されてしまうからです。
このことは別の記事にも書いていますので、良かったら読んでみてください。
K山先生の実際の対応では、このようにうまくスルーしていました。
高いところを下げるより、低いところを伸ばすようにする
エゴグラムを変えるポイントは、高いところを下げるのではなく「低いエネルギーを伸ばすようにする」ことです。その人のエネルギーの全体の総量はだいたい決まっています。だから、低いところを高めていけば、高すぎて困っているところは自然に下がっていきます。その結果、エネルギー配分が変わるというわけです。
J太くんの場合はNPとAが低そうなので、そこを変えるとうまくいきます。
A(大人)の自我状態のエネルギーを高める
A(大人)の自我状態は、計画性、合理性、判断力などに関わります。Aのエネルギーが高ければ、感情をコントロールする力や思考力なども高くなります。
Aのエネルギーは6~9歳ごろから形成されはじめ、その後ずっと形成され続けます。一般に子どもは大人よりも低くなります。J太くんもまだ高校生ですから、Aのエネルギーはこれから高めていくところであるといえます。
K山先生の関わりの中では、たとえば以下のような点がJ太くんのAのエネルギーを高めることにつながっているようです。
Aのエネルギーを高めるために大事なことは「冷静さ」と「客観性」を意識することです。J太くんが特にそれを意識したというよりは、K山先生との関わりのなかで自然とそうなっていったというほうが正しいようです。
K山先生は自身の経験から、「部長が自分で考えて部を動かしていく力」を身につけてほしいと考えていました。J太くんをはじめ、歴代の部長がその思いに応える形で成長を遂げていったようです。
J太くんも、はじめは自分一人のことしか頭にないような感じでしたが、部長になり、K山先生とのいろいろなやりとりを通してしだいに「部にとって良いことは何か」を考える意識が増していったといいます。
この意識は、「合理性、客観性をもってものごとを判断する」というAのエネルギーに支えられたものになっていると思います。
NP(養育的な親の自我状態)のエネルギーを高める
NPのエネルギーが高い人は、他人を認め、思いやりを持って人に接することができます。J太くんにはもともと面倒見の良い側面もあったそうですが、FCのエネルギーのほうが強かったため、自己中心的に見えてしまっていました。部長としての自覚が出てくるまでは、J太くんのNP的な良さはあまり発揮されてこなかったようです。
しかし部長になったことがきっかけで、NPの長所が外に現れ、そのエネルギーが高まる方向へ変わっていったのだと考えられます。J太くんのNP的な良さは、たとえばこんなところに現れています。
CPとFCの良さも持ち合わせている
もともとエネルギーが高すぎて困っていたCPとFCのエネルギーも、陰に隠れてしまったわけではないようです。部長になったJ太くんには、CP的・FC的な良さも見られます。
トレーニングに取り組む厳しさ(CP)と、K山先生を部員の目標にさせる工夫(FC)の両方によって、うまく運営できていたようです。
部長になり、成長した後のJ太くんのエゴグラムを予想してみると、たぶんこんな風になっているのではないでしょうか。
NPとAを中心としたなだらかな山型です。部員から見ても、魅力的で頼れる存在に映っていたのではないでしょうか。
彼のもともと持っている良さを損なわず、人間的な成長へと導いた点が、K山先生の関わりの真の成果だと思います。
参考資料
チーム医療『交流分析とエゴグラム』新里里春 水野正憲 桂戴作 杉田峰康著
『自尊感情を育てる「エゴグラムSHE」活用ガイド』TA学校教育心の開発研究所
「5つの自我状態」「エゴグラム」について、管理人の別アカウント記事に書いています。