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2023年:美味しかったクラフトビール 20 パイント

2023年は本格的にタップルームやブリュワリーにも人が戻ってきてコロナ以前に近い賑わいをようやく感じられた一年だった。そんな素晴らしい一年の中で印象に残った20パイントはこちら。前半後半でのポストができなかったのでこのポストで前半と後半を振り返る。順不同、味のみではなくその時の場所の雰囲気等も含めた総合的な個人的感想ということで。

2023年 上半期 10パイント🍺

Waui Nugs / Altamont Beer Work x Slice Beer Co.

Altamont Beer Work のブリュワリーにて 4pk を購入(右)

2023 年 1 月、三が日の直後に久々に訪れたのが Altamont Beer Works だった。このブリュワリーはサンフランシスコベイエリア内のワインカントリーの一つである Livermoore にあり、IPA 特に West Coast IPA に強いこだわりを持っている。Hazy IPA はほとんど作らず、大半が West Coast IPAだ 。面白いのが Juice Above the Clouds という anti haze beer (反ヘイジービール)と呼んでいる WC ながらも Hazy の柔らかな口当たりとアロマのあるビールを作りだして、Hazy 好きな客層をちゃんと取り込んでいるところ。
その Altamont を訪れた時にお客さんがケース単位で購入していたのがこのビールだった。WC にこだわる Altamont、そしてこの時期に IPA で一世風靡していたのが Slice Beer(現在は Shred という別のブリュワリーを立ち上げた Zak Frasher がこの時点では在籍していた)で、その 2 つのブリュワリーのコラボということで話題性も高かった。この Double Dry Hopped West Coast IPA は モザイク クライオ、 シムコ クライオ、 シトラ のホップを使用。WC IPA の手本ともいうべきダンクさと飲んだあとのスティッキーさが本当に素晴らしく今でも印象に残っている。
Slice のラベルとこちらの Altamont のラベルがあるとのことで両方集めてみたかった一本だ。
Altamont の West Coast IPA ははずれがない!

Janet's Brown (hand pump) / Wondrous Brewing Co.

Toronado にて。Otherhalf の DDH Cream of Broccoli Oat Cream DIPA (左)と共に。

2023年の 10 パイントで外せないのはこれ。サンフランシスコからベイブリッジを渡った Emeryville にあるブリュワリー  Wondrous Brewing Co.。ここはコロナ禍の 2021 年の 5 月にタップルームをオープンしベイエリアの中でも珍しくラガーに重きを置いているブリュワリーで、タップに繋がっているビールの半分以上がピルスナーやラガーなことが多い。
2023 年もそんなWondrousのビールをかなりの量飲んだが、ダントツで印象に残っているのがこちら、Janet's Brown。2023 年の GABF(Great American Beer Festival) にてスタイルの部門で金賞を受賞。アメリカンスタイルのBrown Ale (ブラウンエール)で普通に飲んでも美味しいのだけど今年サンフランシスコのビアバー Toronado で少なくとも2回繋がったのがこのハンドポンプ(リアルエール / カスク)バージョンで、こちらの滑らかさとモルト感が半端なく、とにかく美味しかった。ハンドポンプは炭酸が少ないことからビールによっては物足りなく感じることも多いのだけど、これはハンドポンプとの相性も最高で炭酸に邪魔されないビール本来の美味しさを楽しむことができた。
この Janet's Brown は Wondrous のレシピというわけではなく、オリジナルは有名なホームブリュワーである Mike “Tasty” McDole さんのレシピで彼が2020 年に癌で亡くなる前に最後に作ったの際にボトルにレシピを記載していたのだそうだ。WondrousのJanet's Brown も同様に缶に彼のレシピが記載されている。
似たカテゴリーでは Cellarmaker の定番ポーター Coffee & Cigarette がToronado にてハンドポンプで提供されていたのも美味しかった。ハンドポンプでは通常飲み慣れたビールも全く味が変わるのが面白い。

Hanami / Fair Isle Brewing

Fair Isleのタップルームにて。Hanami (左) と Madrone (右)。

ワシントン州のシアトルにある Fair Isle Brewing は 2023 年に新たに知ったブリュワリーの一つ。2020 年にオープンし、PNW (Pacific North West; 太平洋岸北西部)の素材を生かしたファームハウスエールを作るブリュワリーで World Beer Cup でも金賞を受賞している。知ることとなったきっかけは今年行われた Sante Adairius Rustic Ales のOakland Arbor でのSFBW(San Francisco Beer Week; サンフランシスコ・ビア・ウィーク)中のイベント。タップテイクオーバーで Fair Isle のビールを 4 種類飲むことができたがどれも美味しくここへの興味が湧いた。そのすぐ後にシアトルに行く機会ができたのでその際に訪問し品揃えとその完成度の高さに感動し、最終的には今年の内に 3 度も訪れてしまった。
ここのセゾンはどれも秀逸で、3.9%と軽めで綿菓子の様に口当たりよいフーダーでエイジされたセゾン Harlen、ヤナギランと共に醸造されたセゾン Alexandra、ベルギーのワロニア風のハウスセゾン Madame R Galle、松の枝先と共にジンバレルでエイジしたファームハウス Montgomery 等、好きなものを挙げれば本当にキリがないが、その中でも特に感動したのがこちら。
日本産の桜の葉をブレンドした煎茶の茶葉と蜂蜜を使いオーク樽でエイジされたエール。甘みと春の花の華やかさが桜の花、最後のオーク樽由来のウッディさが桜の幹を彷彿され本当に素晴しい。煎茶の繊細さと後味が桜の儚さを感じさせる。まさにシアトル産の和の味といったところ。タップルームでもドラフトで飲み、気に入ったのでボトルで購入して家でも飲んだ。
なお、使用されている煎茶は近くの Miro Tea の Sakura Sencha

Noyaux 2014 / Cascade Brewing

ポートランドの Cascade Barrelhouse タップルームにて

5 月のオレゴン旅行で最後の最後に訪れた Cascade Brewing にて、予想していた以上に感激したビールに出会うことができた。Cascade は何度かボトルを飲んだことのあるブリュワリーではあったがどちらかというとタートさ(酸味)の強いサワーの印象があったのだが、Cascade の Barrelhouse タップルームで丁寧にセラーされたビールを飲み印象が 180 度変わった。
この時に飲むことができたのがまさにこの写真の 4 種類: Framblanc 2017、Sang Royal 2016、Noyaux 2014、そして Vlad the Imp Aler 2013。その中でも良い意味で期待を裏切り上半期の 10 パイントに残る印象を持ったのがこの Noyaux だった。Noyaux はラズベリーと杏仁と共に白ワインの樽で 24 ヶ月間エイジされたサワーブロンドエールのブレンド。2014 年にケグ詰めされたものながらアロマは健在で味の方はチェリー、ラズベリー由来のドライフルーツや、ナッティーさやウッディーさ、全てがバランス良く混然一体となり、長期熟成されたワインやウィスキーの様なスムーズさがありつつ複雑。美味しいサワーを上手く長期セラーするとここまで進化するのか、というお手本の様なビールだった。

Triple Cuff West Coast TIPA / Wondrous Brewing Co.

Wondrous のタップルームにて。右のグラスが Triple Cuff WC TPIA (10.2%)。
左のグラスと後のボトルは Hope & Despair 2yr Aged Barleywine (13.7%)。

上にも書いたが、Wondrous Brewing はラガーの種類が多い一方で、IPA やペールエールもリリースしており、Creek Park WC IPA はここの定番。そしてそれに次ぎ有名なのは ’Cuff’ シリーズ。Cuff とはズボン等の折り返しのこと。ペールエールである Straight Leg (ストレート / 折り返しなし) に始まり、Single Cuff IPA、Double Cuff DIPA と折り返しの回数が増すごとに IPA のアルコール度数も上がっていく。
そしてシリーズの中で最も濃くアルコール度数も高いのがこの Triple Cuff West Coast Triple IPA (10.2%)。一年に一度 2 月の SFBW 中にリリースされ、2022 年は The Bistro で行われる DIPA Fest にて金賞を受賞している素晴らしいビールだ。TIPA というとダンクでハイアル感や甘さが入ってくることが多いがこちらはそれとは異なりドライでスムーズ、そして爆発するホップのアロマ。ホップはシトラとモザイクがメインでそれに加えてネルソン、エルドラド クライオ、そしてシムコを使用。
SFBW 中にサンフランシスコ市内のボトルショップ兼ビアバー City Beer Store では TIPA のみのブラインドテイスティングが行われるのだが、2023 年の West Coast IPA の缶の部門でも一位に輝き、我が家でも奥さんの一押しでもあった。

STS Pilsner (Milk Pour) / Russian River Brewing Co.

City Beer Store にて。見事なミルコ。

Russian River Brewing Co.と言えば Pliny the Elder DIPA や Blind Pig IPA が有名だけど、軽めのビールと言えばこちらの STS Pilsner。ジャーマンスタイルのピルスナーではあるけど RRBC 風にアレンジしヨーロッパのホップでドライホップしている。キレもありちゃんとした苦味もある綺麗なビール。名前になっている STS は RRBC の街 Santa Rosa にあるスヌーピーの作者の名前を冠した飛行場 Charles M. Schulz Airport の飛行場コードの3文字だ。
このビールはもちろんそのままでも美味しいのだけど、なんと City Beer Store にて Milk Pour (ミルコ)で飲むという体験をすることができた。ミルコでビールを飲むのは初めてだったし、ミルコで注がれているのがあの STS Pilsner という面白さもあり、これは素晴らしい体験だった。クリーミーだけどビールの苦味も味わえ、泡が消える前に急いで飲んで泡とビールの味の差を確認するという楽しみもあった。その総合的な体験は 2023 年で印象に残ったものの一つ。

Wondrous Spring Bock / Wondrous Brewing Co.

通常の Wondrous の台形のラベルとは異なり丸いラベル

こちらも Wondrous。作るラガーの種類が増えたからか、いく頻度が増えたからか、2023 年は実に様々な Wondrous のラガーを飲むことができた。その中でも飲んだ後に溜息が出るほど美味しかったビールがこの Spring Bock。ビールのスタイルとしてはジャーマンスタイルのマイボック。'Mai' は 5 月のことで 5 月に飲むことができる芳醇なビールだ。ミュンヘンモルトとピルスナーモルトを使用し、仕上がりはビスケットぽさや蜂蜜、そしてホップの華やかさがあり素晴らしかった。
ベイエリアの 5 月は気候もちょうど良く、このような軽めだけど味わいならがら飲めるビールがピッタリ。
これ以外にも Highland Park とのコラボの Dobby Pils も美味しかったなー!

The Qi: Blend No.1 / de Garde Brewing

10 周年グラスと共に

2023 年はオレゴン州のブリュワリー de Garde Brewing(デガルド ブリューイング)にとって記念する 10 周年目の年で、ブリュワリーから車で 15 分程北上した Garbaldi の街にて特別なイベントが開催された。
湾に面し周りを自然に囲まれた会場では、de Garde のビールはもちろん、他にも Sante Adairius Rustic Ales、 Anchorage、 Monkish、 Hill Farmstead、 Cantillon 等様々なブリュワリーのビールが溢れていた。希少なビールが30分ごとに入れ替わるという壮大なイベントで Jester King x de Garde x Sante Adairius の Elements of Composition も久々に味わうことができた。そんなイベントで 10 周年のボトルと共に購入したのがこちら。
Qi は 49 年熟成されたプーアル茶の茶葉と共に 2 年間バレルエイジされたWild Ale。味わいとしては、まずは長期熟成茶葉由来のハーブと樽のオーキーさ、自然発酵のファンク、そして飲み進めると感じられる柑橘味もプーアル茶との相性が良かく、全体のバランスが兎に角素晴らしかった。使用された素材や製法、味わい、すべてがワイルドエールに対して自分が抱いていたワイルドエールに対するイメージを塗り替えてくれ、しかも非常に美味しかく驚きだったこともあり 10 パイントにランクイン。こちらは de Garde 10 周年グラスと一緒に楽しんだ。
de Garde についてもう少し知りたい方は Beervana のこの 10 周年のまとめ記事がおすすめ。

Times & Places / de Garde x Sante Adairius x Side Project

Sante Adairius Oakland Arbor にて

こちらも de Garde の10周年記念のビール。Jester King x de Garde x Sante Adairiusの Elements of Composition が時代を代表するビールの一つなら、こちらは次の時代を代表するビールなのかもしれない de Garde x Sante Adairius x Side Project のピーチと共にオーク樽でエイジされたWild Ale。10周年イベントでは飲むことができず、購入した一本をセラーしたままだったが、Sante Adairius の Oakland Arbor タップルームで飲むことができるということを聞き急いで訪れて飲むことができたのがこちら。
一口目から凄まじい桃のアロマと爆発する桃の味。ややタートさがあるもののここまでの新鮮な桃を感じるビールは初めてと言っても良いぐらい。ややタートさはあるもののこのアロマは他では感じたことがない。家にある一本はセラーして味が少し丸くなるのを待つか近日中に開けてフレッシュな桃を再度楽しむか悩ましいところ。

The Jesters, The Diablos, & The Paragons / Mirage Beer

570 本製造されたうちの 87 番

シアトルを訪問する計画をしていた時に友達から「セゾンが好きなら是非行ってほしいおすすめのブリュワリーがある。タップルームはなくて目印はブリュワリーの前に出ている看板のみ。ブリュワリー施設の片隅で飲むことができる。」と教えてもらったのがこの Mirage Beer だった。いざ訪れてみると正にその通りで、入って良いのかどうかわからないブリュワリー施設の中に進むとその一角にボトルとグッズを販売している台車とタップが。IPA やラガーも繋がっていたがそこで飲んだのは Ray、Field Hop、A Wide-Ranging Convo のセゾン 3 種類。いずれも荒削りだけど可能性を感じさせる味で特に Ray (カベルネソーヴィニヨンのパンチョンでエイジされたセゾンとピノノワール樽で 36 ヶ月エイジされた熟成ホップでつくられたセゾンのブレンド) がダントツに美味しかった。折角なので何本か買って帰り家で飲もうと思い購入したうちの一本がこちら。
The Jesters, The Diablos, & The Paragons はまだ若いセゾンとエイジしたセゾンをブレンドし、酸味のあるバラントンチェリーを使い再発酵させたセゾン。味わってみると微かなタートさ、シナモン、ピーチ、最後にオークを感じる。晴れた日の夕方に飲みたい沈みゆく太陽の様なビールだった。バラトンチェリーはワシントン州の Tonasket にある果樹園、Apple Cart Fruitのものを使用とのこと。

2023年 下半期 10パイント🍺

Supernatural West Coast 3XIPA / Shred Beer Co.

綺麗に澄んだ West Coast TIPA。2015 年の SFBW Strong Beer イベントのグラスと共に。

Shred Beer Co. は 2023 年の半ばに Slice Beer でブリュワーだった Zak が新たに立ち上げたブリュワリー。カリフォルニアの州都サクラメントよりも更に北、サンフランシスコから 2 時間ほど車で行った街 Rocklin にブリュワリー兼タップルームがある。新しいブリュワリーながらも Moonraker や Slice 等ビール業界に長い人たちがいるだけありあっという間に人気になり、Great American Beer Festival では 年間生産 0-250 バレル規模のブリュワリーのカテゴリーで Brewery of the Year に輝くまでに成長した。更に年末に発表になった Hop Culture の 2023 年のBest New Breweries 一覧にも名前を連ねている。Slice の時から引き続きクリーンで美味しいビールを作っているのでその受賞も納得。最近では Cellarmaker や Humble Sea、Ghost Town 等とのコラボもリリースしている。
この Supernatural WC 3XIPA は 11 月に初めて Shred のタップルームを訪れた時に飲み、あまりにも感動して 4pk まで購入してしまったビール。トリプル IPA なのにもかかわらず Wondrous の Triple Cuff TIPA 同様にダンクではなくクリーン、故にすごく飲みやすい。ハーブっぽさと軽やかさ、そして後味が独特のグラッシーさと更に独特のグレインっぽい感じ。良い意味での蒸留酒感(ハイアル感ではなく)のある後味が本当に美味しかった。
今年の SFBW に City Beer Store で開催される TIPA ブラインド・テイスティングに彼らのビールが入ってくるのか、入るとしたらどれなのか楽しみだ。
Shred は他にもDr. Nectaron IPA も美味しかった!

Pearly Baker's Best Bitter Ale / Olfactory Brewery and Blendery

ヒッピー文化の中心にいたブリュワリー Magnolia の元ブリュワー Dave McLean 氏とのコラボの特徴が表れているラベル

Olfactory はサンフランシスコのブリュワリーの中では新しいブリュワリーの一つで、2022 年の 11 月にタップルームをオープンしている。ここは名前が示す様に Blendery(ブレンダリー)もやっており、当初からタップルーム内にはバレルとフーダーが置かれていた。特徴としては Wondrous 同様にラガーの種類が多く、どれも美味しい。また、地元のモルティング会社である Admiral Maltings のモルトをほとんどのビールで使用している。
今年の 11 月にタップルームが 1 周年を迎え、その際にリリースされたのがこちらの English Bitter (イングリッシュ・ビター)。アルコール度数は 4.6% と低くフルーツぽさと軽めのホップが美味しい。タップルームにてドラフトを飲み English Bitter の可能性に驚きついつい 4pk を購入。後日再度 4pk を購入してしまったぐらい気に入った。こちらは缶、ケグ、そしてカスクでのリリースがあったらしいが残念ながらカスクはすでに撃ち抜かれていた。
このビールのラベルは知る人ぞ知るサンフランシスコで活躍していたヒッピーバンド Greatful Dead のアルバム Skull and Roses へのオマージュとなっているのには理由がある。今回このビールでコラボしている現 Admiral Maltings のオーナーである Dave McLean 氏はかつてヒッピー文化の中心 Haight Ashbery にブリュワリー兼タップルーム(しかもブリュワリー施設は店の地下!)を構えていた Magnolia のブリュワーで、Olfactory のメンバーは彼から多大な影響を受けているとのこと。また1周年記念のTシャツもこのデザインで予約した人にはタイダイ染めされたものが届いた。
なお1周年記念時には Olfactory のブレンダリーとして初のリリース、Proverbial Fork フーダーエイジセゾンのボトルが販売されタップルームで飲むことができたがこちらも初とは思えない程バランスがよい美味しいセゾンだった。

Hop Time Harvest Ale / Russian River Brewing Co.

RRBC の Windsor タップルームにて。フレッシュ!

ホップを収穫する 9 月 − 10 月あたりには収穫したホップを24時間以内にそのまま使用し醸造するWet Hop Ale (ウエットホップエール; 生ホップエール)と呼ばれるものがある。ホップをフリーズさせず無加工なのでホップのアロマやそのままの味を感じることができるフレッシュなビールだ。アメリカ西海岸ではワシントン州のヤキマホップあたりが毎年これで賑わうのだけど、カリフォルニアにもそれなりの数の Wet Hop のビールが並ぶ。今回その中でも一番美味しかったのがこちら Russian River Brewing の Hop Time Harvest Ale - Pale Ale(ペールエール) だ。
こちらは Russian River Brewing からも近いソノマ地区内 Healdsburg の街のAlexander Valley ホップ農場で収穫されたカスケードとチヌークのホップを使用。ホップの収穫から実際に使用されるまでわずか数時間というこれ以上にない新鮮な状態でドライホップされている。飲んだ感じとしては雑味が無くビールってここまでシンプルになれるんだという印象でとにかく美味しかった。フレッシュな 'Wet' ホップの時期にしか飲めない格別な味の素晴らしいビール。もちろんこれも家に持って帰る用に 4pk を購入。

Kingston Black Single Varietal / Lassen Traditional Cider

サイダーのラベルに描かれている林檎の木がそれぞれで異なる。

2022 年の後半から 2023 年にかけて、Lassen Traditional Cider は個人的にはまったサイダリーの一つ。イーストベイのサイダー専門店 Flora & Ferment や Redfield Cider Bar & Bottleshop にて出会い、それ以降様々なボトルを購入し、ついに 2023 年の 12 月には Chico にある Lassen の醸造所兼タップルームを訪れてしまった。
訪れるまで知らなかったのだけど、Lassen は Ben Nielsen 氏のワンオペサイダリー。なので実際に訪れてみると小規模なことに驚くがここで Ben 氏が作っているサイダーにはこだわりが詰まっている。Chicoという自然豊かな街にあることを生かし自ら積んできたベリーをサイダーに加えることも。
こちらの一杯はオレゴン州 Wombats Flats 産 Kingston Black 種の林檎のみを使用し赤ワイン樽で発酵させたサイダー。林檎の概念が変わる感じの複雑さ。酸味、タンニン、林檎っぽさ全てのバランスが最高だった。Lassen のサイダーをどれも美味しいのだけど、印象に残る林檎の味だったので 10 パイントにはこちらを選択。

Vocabulary Spills DIPA/ Monkish

この色!

2023 年になり Monkish のビールもそこそこ北カリフォルニアに入る様になってきたので Monkish の様々なビールを飲むことができた年でもあった。印象に残っている Monkish のビールは多く、SFBW 中に Toronado で行われた Monkish タップテイクオーバーイベントで飲むことができた Adios Ghost TIPA や Foggy Window DIPA、同じ時期に缶で購入できた Other Halfとのコラボ JFK2LAX, SFO Layover TIPA、バレンタインの時期にでてきた(Toronadoとのコラボ?)Likely Love DDH Pale Ale、12月に City Beer Storeで飲んだ Enter the Fog TIP Aなどあるのだけど、満足度が高かったがこちらの Vocabulary Spills Double IPA
まずこのオレンジジュースと間違えそうな色に驚き、そして更に飲んだ時の味に衝撃を受けた。爆発するピーチや柑橘類、そして最後のグラッシーさ。美味い!とついつい叫んでしまった。この日は比較用に東海岸にHazyの雄Trilliumの限定リリース Headroom DIPA と Other Half の Broccoli DIPAと共に飲むことができ、西と東のHazyの違いを堪能することもできた。サンフランシスコ市内で Monkish を飲みたい場合は、Toronado や City Beer Store、そして Holy Water で飲むことができることが多い。

Circus of Light / Sante Adairius Rustic Ales

Sante Adairius のグラスを使用

Sante Adairius Rustic Ales にとって 2023 年は大きな変化の年だったと言えると思う。2022年末に共同経営者だった Tim Clifford 氏が抜け Adair Paterno 氏の個人のオーナーシップになりロゴやデザインも少し変化した。バレルエイジスタウトを作り始めたのも Tim 氏が抜けるあたりからだった。そんな状況を心配していたもののいざ蓋を開けてみると Sante Adairius のつくるセゾンはやはりSante Adairius の味で変わることがなく、むしろ進化をみることにもなり安心した。
その中でも 2023 年特に印象に残ったのはこの SARA's Cellar メンバー限定のセゾン Circus of Light だった。ブラッドオレンジを使ったセゾンとグァバを使ったセゾンのブレンドで、両フルーツが上手く融合し正にサーカスの如く華やかに舞っている味。
Sante Adairius は他にも11周年記念のメルローを使ったバレルエイジセゾンの Eleven、4年間セラーした7周年記念のパッションフルーツとグァバのセゾン SevenGrover Vienna Lager、アプリコットセゾンの West Ashley、ソレラセゾンの Cask 200 など美味しいビールを堪能させてもらった。オークランドにタップルームにあるお陰で訪れる頻度は増えたが、逆に Capitola の OG タップルームに行く機会が減ったのが残念。

Power Trio Pale Ale / Harmonic x 21st Amendment x Local

Harmonic のロゴはギターヘッドとグラスの融合

2023 年のサンフランシスコビアシーンでの大きな悲しい出来事といえばAnchor Brewing の閉鎖と Harmonic Brewing の原点である Dag Patch タップルームの閉鎖かと思う。特にこの Dog Patch のタップルームは場所柄晴れていることが多く気温も丁度良く、しかも広いので大好きな場所の一つだった。タップルームが閉まるというニュースを聞いて向かったときにタップに繋がっていたのがこちらの Power Trio Pale Ale (写真右)。
Hazyでグレープ味があり、口当たりも良く、永遠に飲んでいられる様な素晴らしい軽さだった。後日本当に閉店前に最後に訪れた時にもまた飲んでしまったぐらい。
このビールが特出する点は、Harmonic Brewing、残念ながら2022年末に焼失してしまったLocal、そしてサンフランシスコを代表するブリュワリーの一つである 21st Amendment のコラボであるということ。コラボとはいえ Local のビールを久々に飲めたのは嬉しかったし、この時タップルームで元ヘッドブリュワーの Regan 氏に会えたのも良かった。いかにもサンフランシスコの天気の良い気候にあう軽いペールエールだった。

残念ながら10月末に無くなってしまったタップルームはこちら。

そして、現在のThrive Cityのタップルームはこちら。

Jupiter and the Camel Pilsner Lager/ Mad Fritz

Mad Fritz の多くのビールは名前とラベルにイソップ童話が使われている

ナパにあるブリュワリー Mad Fritz のブリュワーである Nile 氏は David Arthur Vineyards で現職のワインメーカーでもあり、ここがつくるビールはワイン的なアプローチをとっているものが多い。例えば、全てのビールを樽でエイジングする点、あるいはモルトやホップそして水の産地 / テロワール にこだわる点、更にはビールの味に関しては変わらぬ味を求めるのではなく同じ銘柄のものであってもその季節に良かった材料を使う点など。また幾つかのビールではモルティングも自分たちの施設で行う。
そんな Mad Fritz のビールで特に印象に残っているのはこちら、Jupiter and the Camel ピルスナー。定番のピルスナーモルトとイースト、ノーブルホップを使用しつつフレンチオークのパンチョンで 2 週間エイジ。すっきりとしたピルスナーの奥に樽のウッディーさがあり普段飲んでいるピルスナーとは少し異なるが、それでもずっと飲んでいたい味。何を作っても Mad Fritz の味になるのはすごい。 

X - 10yr Barley Wine / Cellarmaker Brewing Co.

Cellarmaker の新しいオークランドタップルームにて

2023 年はそこまでスタウトやバーレーワインと言った濃い目のビールは飲まなかったのだけど、数少ない中でも記憶に残っているのはこの Cellarmaker Brewing Co.バーレーワイン
20% は Savage and Cooke の Lip Service ライウィスキー樽で 8 ヶ月エイジされたバーレーワイン、30% は Weller の Special Reserve バーボン樽で 16 ヶ月エイジされたバーレーワイン、30% は Stagg Jr. のバーボン樽で 16 ヶ月エイジされたバーレーワイン、そして 20% は Heaven Hill 10 年のバレルで 25 ヶ月エイジされたインペリアルスタウトのブレンド。このブレンドされているバーレーワインとスタウトを聞くだけで手間がかかっていることがわかる。アルコール度数は 16.2% で飲むと複雑で樽感が凄く、何層にもわたってスモーキーさとモラセスを感じることができた。11 月に Toronado で行われた第30回バーレーワインフェスで優勝( Cellarmaker はこのイベントで 3 年連続で優勝している)したのも納得の良く出来たバーレーワイン。さすが 10 周年記念のビールだ。

Anchor Steam Beer / Anchor Brewing Co.

Anchor Brewing のタップルームにて

Anchor Brewing が閉鎖になるというニュースは 2023 年のビール業界で最も衝撃を与えたものの一つではないかと思う。ブリューイング施設やその建物の中にあるツアー用の部屋等はいずれもサンフランシスコのビール史には欠かせない品々があり博物館にしたら良いのではという意見も出ていた程。無事にスミソニアン博物館に一部は引き取られたとのニュースを聞いて安心した。閉鎖をアナウンスしてからは Anchor Brewing は連日凄い人混みで、サンフランシスコやベイエリアのブリュワーの姿も多く見かけた。特に Anchor Steam Beer はここのところドラフトで飲める所をほとんど見かけていなかったためか大人気で、皆最後の一口を飲みに集まっていた。そんな中でようやく飲むことができたのが上の写真。
Anchor Steam はタイプとしては California Common (もしくはSteam Beerと呼ばれることも) でモルト味が強くやや甘味があるタイプのビール。アメリカで生まれた数少ないビールのタイプの一つと言われている。アルコール度数も4.9% と低めで飲みやすい。ボトルで飲むのも美味しいが、個人的には晴れた日にのむAnchor Steamのドラフトは本当に美味しくそれが今後飲めなくなるのは残念だ。

かつての Anchor Brewing はこんな感じだった。

その他美味しかったビール

上記の 20 パイントには入らなかったが、美味しく楽しめたビールは他にもたくさんある。それらの一部はこちら。
昨年同様に、殿堂入りしている Pliny the Elder / Younger は除いている。

番外編

20 パイントはアメリカのブリュワリーのビールを選択することに焦点を置いてみたのだけど、今年 2023 年はこの数年の中では一番多くアメリカ以外の国を訪れた年だったので、その中から気になったものをピックアップ。

日本(東京)はその中でも最も多くの時間を過ごした場所の一つで、Tiels、Inkhorn、Cycad、Riot等で美味しい IPA やペールエール、マイルドエールを飲むことができたが、一番の発見は日本の美味しいセゾンだったと思う。麦雑穀工房CAVE D'OCCI甘く浮くSongbird 等今まで何度か東京のビアバーやブリュワリーを訪れるもなかなか出会えなかった素晴らしいセゾンを飲むことができたし麦雑穀工房に至ってはタップルームを訪問し直接ブリュワリーの方々とお話をすることができた。日本は美味しい果物が多いのでこれから日本からでてくるセゾンには期待しかない。
また、Pigalle や Good Condition Beer & Coffee Stand という素晴らしいビアバーでビア友達をつくることもできた。

ヨーロッパに目を向けると、デンマークのチェリーワインを作っている Frederiksdal Kirsebærvin も今年興味を持ちいろいろと飲んだところの一つ。ビールではないが、ここを知るきっかけになったのは Sante Adairius Rustic Ales のセゾン。美味しかったセゾンのいくつかにここのチェリーワインをエイジした後のパンチョンで寝かされたセゾンがブレンドされていることを知り興味がでた。更に昨年の 10 周年セゾンである TEN は West Ashley をFrederiksdalのパンチョンでエイジされたものだった。更に de Garde を訪れた時に提供されていたワインの一つでもあった。Redwood City にある Gourmet Haus Staudt ではドラフト(大きなガラス樽から注ぐタイプ)を飲むこともでき大満足することができた。
そして、オランダのアムステルダムでは Proeflokaal Arendsnest という素晴らしいビアバーに出会うことができ、イギリスのリバプールでは The Ship & Mitre にてローカルのシチューを食べながら美味しいハンドポンプのエールを飲むこともできた。

ボトルクラブ

2022 年に入っていたボトルクラブは Humble Sea Kooks の解散、Russian River Brewing Cellar Society の解散、Cellarmaker による The Rare Barrel の買収によりAmbassadors of Sour の終了と立て続けに無くなってしまったのだがその分新たなクラブに入ることもできた。2023年に入っていたボトルクラブは以下。

  • Mad Fritz - Membership

  • Sante Adairius Rustic Ales - SARA's Cellar

  • Highland Park Brewing Co - Bottle Friends (new)

  • de Garde - Keepers (new)

  • Hanabi Lager - これは会員というよりは優先販売のメーリングリスト

一昨年の2021年に入っていたボトルクラブまとめとしてはこんな感じだった。余裕があれば2023年の記事は書きたいと思う。

まとめ

飲んだビールを全部見直していたのだけど昨年同様の傾向が続いており様々な種類のラガーやセゾン、サイダーを楽しんだ一年だった気がする特に今まで以上にラガーの奥深い世界にはまり English Bitter やハンドポンプのカスク、ミルコと言った注ぎ方で味が変わる新たな美味しさを再確認。20 パイントには入らなかったがシアトルでは Machine House というハンドポンプ専門のブリュワリーに出会うこともできた。IPA に関してはアメリカ以外に長期滞在しているとやはり West Coast IPA が恋しくなるのか引き続き West Coast IPA が多く Hazy で飲んだものは多くが東海岸か南カリフォルニアのものだった。

サンフランシスコ及びベイエリアのビアシーンを振り返ってみると悲しいニュースとしては Anchor Brewing の閉鎖、Harmonic Brewing の Dogpatch タップルームの閉鎖、Rosamunde Sausage Grill の閉店(でもその後に新しいオーナーでリオープン!)というのはあったものの、良いニュースとしては Humble Sea のAlamedaタップルームがオープン、Cellarmaker が本格的にオークランドタップルーム(Blue Bottle 跡地)とバークレータップルーム(The Rare Barrel 跡地)を稼働、Enterprise Brewing 、Tenma Beer Project、Dokkaebier が新しくタップルームをオープン、Armistice Brewing がナパに次のタップルームをオープン予定サンフランシスコダウンタウンの Mikkeller 跡地に Beer Hall が出店予定、など良いニュースが目立つ様になってきた
タップルームやビアバーを訪れると、コロナ前とは言わないまでもお客さんは確実に戻ってきていることを感じることができる。一方でコロナ前と同じ様な営業形態では難しく、若者を取り込んでいく施策をちゃんと仕込んでいかないとここからの成功はなかなか難しいという話もきいた。2024年のSF Beer Weekのオープニングイベントである Opening Gala が数年ぶりに大きな会場で行われる(この数年はベイエリア内の数カ所の会場に別れていた)こともありサンフランシスコ及びベイエリアのビアシーンが是非ともまた盛り上がっていくことに期待を込めて!

2024 年も美味しい一杯に出会えることを祈って、Cheers!

過去の10パイントまとめ記事はこちら。


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