「なぜ殺人はいけないの?」に対する論理的回答
この記事では、「根本的な問い」を
・なぜ人を殺してはいけないのか?
・なぜ差別はいけないのか?
・なぜ自然破壊はいけないのか?
など、一般的に受け入れられているにも関わらず、論拠が与えられていない問いのこととします。
さて、誰しも根本的な問いに対して答えを出そうと頑張ったことはあると思いますが……
その問いに、理路整然とした論拠に基づいた、他人を納得させられる答えは出せたでしょうか?
ほとんどの方は「No」だと思います。以下に想定される答えを幾つか書いておきますが、
・自分がやられて嫌なことは人にもやっちゃ駄目だから
・法律で決まってるから
・昔からそうだから
どれも「うーん」とイマイチ納得の行かない人も多いと思います。
「じゃあ自分がやられて嫌じゃなかったらやっていいのか」とか
「なんで法律でそう決まっているのか」とか
「なんで昔からそうなのか」とか。いくらでも追加の質問が飛んできますよね。
では、この問いに対して、納得できる回答を得ることはできるのでしょうか。
大前提としての「根本的な質問」
ここでは「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いについて見ていきましょう。
さて、死刑制度の是非に関する議論があったとします。
賛成側は「犯罪の抑止効果になる」「目には目を」「生かしておくと危険だ」
反対側は「国が人を殺していいのか」「死刑は金がかかる」
などの意見が考えられます。
しかし、「人を殺しても問題はない。だから殺人は処刑されるべきでない」という意見が出てくることはまずありません。
何故かというと、この議論は「人を殺すのはいけないことだ」という大前提のもとで進んでいるからです。
この前提は、議論をする前、また進めていく中で、論者間で暗黙に共有されます。一致した前提なので、議論する対象にならないのです。
もう少し詳しく見ていきましょう。
どこまで遡及して議論するか
立論は、論理的なステップを踏んで行われます。例えば、
ガソリン車の販売が禁止されると、メーカーはその製造をやめ、代わりに電気自動車を作り始める。しかし、電気自動車は内部構造が単純なので人手がいらなくなり、ガソリン車の製造に携わっていた多くの人員が解雇され、失業する。だから、ガソリン車の販売は禁止するべきではない。
といった具合に(立論の質はさておき)。
ここで、相手側から
「なぜ失業は悪いことなのか」
という質問が飛んできたとします。この質問も正直微妙ですが、
「失業すると自殺する人が増えるから。人の命は大切だ」
と返答したとします。
これを踏まえて、相手が
「自殺は複合的な要因で為される。失業だけで自殺率は増えない」
と反論してきたら、ここで「自殺はいけないことだ」という前提が共有されたことになります。
もしも相手が
「なぜ命は大切なのか」
なんて質問してきて、なんて返そうかしどろもどろしているうちに
「彼らはなぜ命が大切なのかを示せなかった。大切かどうかも分からないのに何故あんな主張ができるのか」
などと言われたら、絶句してしまうでしょう。しかし、「なぜ命が大切なのか」なんて、論証できそうにありません。
はい、その通りです。論証できません。
議論は、それ自体は論証する必要のない(できない)前提のもとで行われます。
「なぜ?」「なぜ?」と質問を繰り返していくうちに、議論は「そもそもこれってなんで?」という方向にシフトしていきます。しかし、最終的に行き着く先は、論証のできない大前提。上の例では、
電気自動車は失業を生む→なぜ失業はいけないの?→失業は自殺を生むから→なぜ自殺はいけないの?→命は大切だから→なぜ命は大切なの?(大前提)
という順番で遡及が進んでいきました。
この大前提を認めないと議論が進まないので、暗黙のうちに認めましょう、ということになっています。
結局……
ではどういうことが大前提になっているかというと、
・人を殺してはいけない
・差別はいけない
・自然破壊はいけない
など、既に社会でコンセンサスになっていること、皆が感覚的にわかることです。
はい、最初の問いそのまんまですね。
というわけで、結局「根本的な問い」に答えることはできない、ということです。
そもそも「なぜ人を殺してはいけないの?」と質問する人は本当に殺人をしようと思っているのでしょうか? ありえませんね。
答えられないと分かっている質問を他人にぶつけて、しどろもどろになっている姿を楽しんでいるだけに過ぎません。単なる言葉遊びです。プラトンはこれを恐れていましたね。
実際、論理的にはわからなくても、感覚的には皆分かっています。それでいいんです。全てを論理に頼ろうとするのは傲慢です。本能、感覚、感情も大事にしてあげてください。
まとめ: 「根本的な問い」は議論の大前提。論理的に考えること自体が間違い。故に論拠をつけた回答はできない。
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