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初恋の味はアップルパイの味がした。

甘酸っぱくて、ほろ苦い。それは、まるでこの恋そのものだ。
禁断の恋に落ちてしまった。

今年の夏、私たちは偶然出会った。共通の友達の縁で繋がったのは、
それこそ運命のようだった。彼は東京で大学生、
私は海外で生活している。出会ったその時は何も感じなかった。
ただの友達。けれど、いつの間にか気になっている自分がいた。

秋が深まる頃、私たちはインスタのDMで話すようになった。
最初は軽い雑談だったが、気づけば深夜まで話し込んでいた。
何か特別な話をしたわけじゃない。
ただ、お互いのおしゃべりが止まらなかった。
彼も私も、おしゃべり好きで、会話が途切れることはなかった。
彼は、まさに私の理想の人だった。気さくで、優しくて、
面白くて、彼の行動力は誰にも負けていないと確信できた。
寂しがり屋と言いつつも一人の時間を大切にしているのが
印象的で、いつもニコニコ笑顔の彼は、私の心を引き寄せた。

でも、彼には彼女がいる。しかも、幼馴染で初めての彼女だ。
1年6ヶ月も付き合っているらしい。彼女は
浪人生の受験生で、毎日勉強をしているらしい。
会うのは同じ東京にいるにもかかわらず、
1ヶ月に一回しか会わないんだって。

出会った頃、最初はなんとも思っていなかったが、
気づいた時には、心がぎゅっと締め付けられている。
彼女の存在が私にとっての禁断の壁となった。
それでも、彼との会話をやめられなかった。
遠く離れているからこそ、罪悪感は薄れ、
ただ彼とのやり取りが楽しかった。

彼との距離は物理的にも感情的にも遠い。
私は海外で彼は日本。でも、心のどこかで、
彼との関係が深まっていくのを感じていた。
彼のことをもっと知りたい、もっと近くに感じたい。
けれど、それはただの幻想かもしれない。

ある日彼とのやり取りで、アップルパイの話になった。
彼がなんとなく、「今日時間あるなら作ってみたら」
なんていうからさ、スイーツ男子の彼に
アピールとかしたくなっちゃって。
そんな彼の一言がきっかけで、
すぐにスーパーに走って、材料を揃えた。
リンゴ、パイ生地、バター…それからシナモンと
卵黄塗ってキラキラにしたやつ
夜には出来立てのアップルパイがキッチンに並んだ。
キッチンが甘い香りで満たされて、なんだか自分でも驚いた。
こんな風に一つの言葉で行動できる自分がいることに気づいたから。

作っちゃったって報告したら
すごーって褒めてくれてね。食レポしてっていうから
恥ずかしいけど勇気を出して、電話をかけてみた。
手作りのアップルパイを彼に見せびらかして、
彼もその日、学校帰りにアップルパイを買って食べたらしい。
それを聞いて、遠く離れた場所で同じものを共有できていることが、
私にはとても特別に感じられた。

甘くて、でもどこか酸っぱくて、私たちの関係と似ている。
その瞬間だけで、少しの間でも彼と繋がれている気がした。

彼との未来に少しだけ期待してしまう自分がいる。
この恋は禁断のものかもしれないけど、
今はその瞬間を大切にしたい気持ちが強い。彼のことを考えながら、
アップルパイの甘さを味わって、バックナンバーのあの曲を聴きながら
これから先の未来を少しずつ思い描く。




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