マーケティング編 | 日本のモノを台湾で売る①
本題に入る前に、まず「マーケティングとは」を改めて考えたいと思います。
「日本のモノを台湾で売る」場合、僕は「商品と現地の生活習慣の共通点を見つけること、そしてそれを大きくしたり、深く掘ってみたりする」ことが販売する上では大切だと思っています。
日本で売れ行きが良い商品でも、引き続き台湾でも売れ行きが好調な商品もあれば、一方で台湾では大苦戦をする場合もあります。
その違いはそれぞれの商品が、そもそも現地の生活習慣と重なる部分があるかどうか、またそれに適した見せ方で訴求できるか?という点にあります。よく言われる「現地化が良いのか、敢えてザ・日本を訴求する方が良いのか」はあくまでも戦術の一つでしかなく、まずは見極めが大切です。
以前、「よくある質問|台湾で日本のモノは売れますか?」という記事も書きましたが、こちらはあくまでも概念的な内容となり、今回は各個別の商品はどうなのか?という点をご説明したいと思います。
それでは具体的な内容をご紹介します。
テーマ:現地の生活習慣に重なる とは?明暗くっりき、能作の酒器と風鈴
能作にとって酒器(錫100%)は販売数も多くブランドを代表するアイテムであり、風鈴も自社ブランドの起源となった重要アイテムで、どちらも売れ行きが良いです。(風鈴の開発ストーリーが気になる方は以下を参照してください)
「日本で売れている」「日本らしさ」「ブランドを代表する商品」など共通点の多い「風鈴」と「酒器」ですが、台湾での販売状況は全く異なります。
結果は台湾では酒器の売れ行きが良く、風鈴はその反対です。
では、なぜ共通点の多いこれらの商品が台湾では異なる結果となっているのか、理由を考察していきます。
酒器の場合
日本酒で晩酌という文化の無い台湾、「錫」という素材自体が馴染みのない台湾、しかし酒器は「デザイン、用途変換、ギフト需要」という3つの理由で支持されています。
デザイン:全ての酒器が売れるわけではありません。
実は全ての種類が満遍なく人気があるわけではありません。台湾での人気アイテムは富士山や干支をデザインモチーフにしたもので、且つ金箔をあしらった商品です。
決して「酒器=全て売れる」ということではありません。
富士山
誰もが認める日本の象徴の一つで、今更説明は不要かと思います。
能作の地元、富山県を代表する「立山」シリーズもありますが、販売数を比較すると約10倍差があります。実は立山も「立山黒部/雪壁」として台湾では高い知名度を誇っているため、もう少し均衡するかと思っていましたが、雲泥の差があります。
干支
中華圏全般だと思いますが、干支が日本よりも生活に近い存在となっている為、干支をモチーフにしたデザインは台湾では一般的且つ人気があります。その為、他の酒器と比較手しても「足を止める方、手に取ってもらえる機会が多い」という結果、販売数が多いのです。
金箔の使い方
モチーフだけでは無く、金箔の使い方も日本人と台湾人では感覚や好みが異なります。日本の場合、蒔絵のようにピンポイントに使用して繊細な仕上げをすることが好まれますが、台湾の場合、酒器の内側に「面でたっぷり使用する」ことが好まれます。
用途変換:茶器や仏具(水入れ)として
酒器としては勿論、茶器として、時にはお参り用の道具など異なる用途でも購入されています。「お茶を淹れる」場合、どうしても熱いので金属製の器は相性が悪いのですが、「ちろち」のような持ち手がある商品を選び、ピッチャーとして用いたり、冷たいお茶を淹れる/飲むためのサブの道具として、お買い求めいただく場合もあります。
また茶器より購入頻度は少ないですが、お参り用の道具として購入する方もいます。具体的には、お参りする際に仏具「水入れ」の一種として、金箔を張りつけた酒器「中でも小ぶりなサイズ」が需要があります。
ギフト提案:日本酒との組み合わせも
台湾では日本酒自体がギフト品として流通しており、酒器との相性が良いです。実は台湾では日本酒が高価な商品です。関税の兼ね合いもあって3,000円の大吟醸が8,000~10,000円程度で売られています。その為、日本酒は高級感のイメージがあり、気軽に自宅飲みするものでは無く、ギフトとして選ばれることも多いです。
ギフトの採用率を高めるために、パッケージもこだわっています。
干支商品であれば、12個全て揃えたセット商品や、日本酒と酒器のパッケージ商品も提案しています。干支の12個セットは日本円で約10万円程度ですが、毎月コンスタントに一定数販売しております。
このように現地との重なる点を見つけて、その重なるポイントを調整することが現地での販売を促進させるのです。
風鈴の場合
一方で風鈴は「コンスタントに少量売れ続けている」という状態です。
現状、台湾では紀伊国屋台湾-微風店で「細く長く」売れていますが、販売数が増えたり、それ以外の販路で継続して売れることが今のところありません。これは「お客様の来店目的が日本商品を求めている」「お客様は日本文化が好きな方の割合が多い」というチャンネルでしか販売が難しいことを意味しています。ターゲットを限定する場合はこの考えでも構いませんが、現地で広めようと思う場合はこの壁を超えなければいけません。
しかしながら販売数が伸び続けない要因は、まず台湾には「音色で涼をとる」という考えが無いこと、加えて音色は「お化けを呼び寄せる」と伝えられており縁起が良く無いなど「風鈴の販売」とは相性が非常に悪いです。
実は台湾では旧暦の7月が「鬼月」と言ばれ、死者の霊が人間界に戻ってくると言われています。
まとめ
今回の風鈴のようなケースは正直、生活習慣に紐づいているので「知名度」「価格」「広告」等の相関関係は低く、覆すハードルはとても高いと思います。
一方で酒器のように、まずは現地との重なる点を見つることさえできれば、その共通点を大きくしたり、深ぼったりするなど、試行錯誤が可能になります。つまり商品と現地の共通点を見つけることが、現地で効率よく販売数を伸ばす、第一歩目ということです。