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最初から別れが前提の大恋愛

田舎の母が送ってくれる荷物の中に、いつも新聞の切り抜きが数枚入っています。

記事の内容はほとんどが子育てに関するコラムで、それらを読んでいると、母の子供に対する思いや、過去の子育てに関する後悔などが透けて見えて、恥ずかしいやら嬉しいやら。

愛情のバトンだと思って、毎回ありがたく読ませてもらっています。

その中に、ひとつ気になるコラムがありました。

そのコラムには、子供(特に息子)が自立するまでの、親の心構えについてが書かれていました。幼い頃から思春期を経て、最終的に親の手を離れていくまでのそれぞれの段階で、どのように子供に接すれば良いのか、というようなことが大変参考になるコラムで、フムフムと大きく頷きながら読んでいました。

その中に、「息子との関係は、母親にとって、初めから別れが前提の大恋愛」という趣旨の言葉があり、この一言に関してだけは、あまりピンと来ていませんでした。

よく、息子は母親にとって「小さな恋人」などとたとえられることがありますが、私にとって、息子は息子であり、恋人のように見ると言う感覚がよく分からなかったからです。

息子だけを特別視してしまったら娘がかわいそう、という思いも大いに関係していたかもしれません。娘への配慮が、息子を異性と捉えることにブロックをかけていたような気も、ほんの少しします。

とにもかくにも、子供は性別を超えて、等しくかわいい存在、というのが私の中での大前提で、その思いは今も変わっていません。


が。

つい先日、4歳の息子が大真面目な顔をして、こんなことを言ったのです。


息子「ねぇお母さん、ぼくたちの結婚式は、いつにする?」


ふぇ?

超高速回転する私の脳。

(なぜそんなことを言い出した?

息子よ、私と結婚するつもりなのか?

きみ、全然そんなこと言ったことなかったじゃないか。

私だって、母としての態度を崩したことはなかったはずなのに。

ははあ、もしやこれはアレか。例のアレか。小さい恋人ってやつか。奴がついに来たのか。

いやー私にその気がなくても、こんなことが起こるのかぁ。そういや恋って突然落ちるもんな。

って、いやいやこんなこと考えてたら息子の気が変わってしまう!結婚できなくなる!)


この思考回路が出来上がるまで、およそ0.02秒ほど。

そして返事は




私「あ、あしたでお願いします!!!!!」




…食い気味。


そして前のめり。



おうおう私よ。

息子は息子?
恋人ではない?

冷静なお主はどこへ行ってしまったんだい?


愛する息子からの突然のプロポーズによって、私の母としての威厳は、風(鼻息)とともに去りぬ。

息子はそんな私に平然と言い放ちました。

「えー、あした?うーん、ちょっと早いかな。じゃあ、6月ね!」



ガーン!!まさかのおあずけ。


しかし、ジューンブライドを提案され、女心をくすぐられる私。いやいや、でもさ、なんで6月?

私「ろ、6月?え、えーと、お母さん待てるかなぁ」

息子「待てなかったら仕方がないね」

私「え!仕方ないって何!?結婚しないってこと!?それだったらお母さん全然待てますけど!?!?!?!?!?!?!?」

もうこの辺りから、自分で自分の気持ちと言動がコントロールできなくなってくる母。私、なぜこんなに焦っているのだろう?


そこでハタと気付きました。


なぜこんなに焦るのか?

焦るに決まってる。

だって私は十分すぎるくらい知っている。

この時間が、そう長くは続かないことを。

私がいなければ3日と生きていけなかった新生児期も、私の姿が見えなくなると大泣きしていた1歳の時期も、幼稚園で、「お母さんに会いたい」と、朝から帰りの時間までずっと泣いて、目を腫らして帰ってきた3歳の時期も、気づけば終わっていました。


今息子は、笑顔で私に手を振って幼稚園に行くし、帰り道の途中に寄る公園では、繋いだ手を離して、どこまでも走って行ってしまいます。

きっと、私と結婚する(できる)と思っているこの時期も、長くて数ヶ月で終わってしまうんだろうな。

5歳の娘と、4歳の息子を見ていて思うのは、
母親への依存度の低下が、息子の方がえげつないんだろうな、ということです。

母への依存度を波に例えると、娘の場合、波の大小は少なからずあれど、高め安定。やったことないけど、サーフィンしたらそこそこ楽しめそう。

でも息子の場合、もう生まれてから今日まで、とんでもないビッグウェーブで、今もまだまだ大波が押し寄せているのです。それはもう、乗りこなせないほど。


私が抱きしめると、1分くらいで満足して、自ら去っていく娘と違い、息子は何時間でもくっついていてくれます。私がいないと寝られないのも息子の方。


でもこれが今後ものすごい勢いで右肩下り、

いや



右肩ダダ下り



していって、

思春期になんてなろうもんなら、



どころか

水なんか干からびて、



埋立地



でしょうね。

願わくばその頃、娘だけでもさざ波を残しておいてほしい…。

話を戻すと、私は今、ものすごいビッグウェーブ(息子からの溺愛&依存の波)に乗っているからこそ、遠くにかすかに、その埋立地が見えてしまっているのかもしれません。そして、来たる埋立地に向けて、必死に今の波を楽しまなければと感じるのだと思います。


私が前回の記事に乗せた「大恋愛」という作品は、そんな思いから生まれた作品です。(この作品は、授乳中ではなく、最近作られたものです)

子供の成長を喜ぶ気持ちや、子供の幸せを願う気持ちを、子供を愛する世のお母さん、お父さん方と共有したいと思って書き始めた作品でしたが、いつの間にか、届けたい相手が変わっていました。

今現在お子さんのいらっしゃる方へ届けたかったのはもちろんですが、

だれよりも届けたかったのは、かつてお母さんにとって大恋愛の相手だった方々です。

もちろん男女は関係なく。


私が物語を作る時、主人公に自分の思想やキャラクターを投影することはあまりないのですが、作品の中の

わたしはあなたから沢山のものをもらったわ。だからもう、何もいらないの。どうかどうか幸せに。


という一文だけは、私の心からの叫びです。

お母さん(お父さん)が心から欲しいもの。それはお花でもメールでもなく、(嬉しいですけどね!)あなたの幸せなんだと思います。

だから皆さん、幸せになってください。今がどんなに辛くても、幸せになることを諦めないでください。僕、私は、今、世界中の誰よりも幸せだよって笑う姿を、ご両親に見せてあげてください。


母の日に、何もあげられなかった。

恥ずかしくて感謝の言葉がいつも言えない。

いいんです。たぶん、それで。

大丈夫大丈夫。たぶん親は、ぜーんぶ分かってますから。

その上で、あなたの幸せだけを願ってる。

それが、親の性(さが)であり、親の幸せであると思うのです。


✳︎

さて、6月に予定されている私と息子の結婚式ですが、どうなることやら。私は彼が忘れないように、日々

「結婚するって言ったよね?忘れてないよね?6月だからね??????」


と、囁いてます。

これが実際の男女の間で繰り広げられる会話だったら、ホラーです。

息子はすでに、ちょっと面倒くさそうにしてる。ああ悲しき埋立地。


そんな息子を横目に、「結婚式に向けて、痩せなきゃなー!」とか言いながら、2個目のどら焼きに手が伸びる母でした。

最後までお読みくださってありがとうございます!良かったら前回の記事「大恋愛」も読んでみてください。

あと、ご本人がこれを読むことはないと思いますが、コラムを書かれた大阪教育大学准教授、小崎恭弘さま!

ピンと来なかったなんて言ってすみません!あんたの表現力、天才的だよ!私はまんまと、大恋愛の真っ只中にいます!(笑)


西野市香


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