『サラバ!上・下』西加奈子
名作、名作といたるところで見たような気がするので、いつか読んでみようと思っていた一作。
あるとき、棚の中で自然に目に飛び込んできたので購入した。
(ハードカバーで購入したので)上下本を読むのは久しぶりだったし、ページ数もそれなりだったので読み終わるのにどれくらいかかるかと覚悟したが、一度読み始めると止まらなかった。
なぜもっと早く読まなかったのだろう。
まちがいなく、今年読んだ本の中でいちばんだ。
物語は、イラン・エジプト・日本で展開される。
父親の転勤で各地を転々とする家族。
その長男・歩の記憶をともに辿っていくように物語は進んでいく。
出生、幼少期、青年期、現在―
歩とは知り合いでも何でもないのに、彼が生まれたときから隣で彼をずっと見てきたような、彼とずっと一緒に生きてきたような感覚に陥る。
阪神淡路大震災や9.11、アラブの春など実際のできごとも描かれているため、本当にその時代時代を歩とともに歩んできたようだ。
本作で目を見張るのは、風景描写の巧みさだ。
私はまだイランにもエジプトにも行ったことがないが、その景色・匂いが目の前に浮かび上がってくるようだ。
歩がどんな景色・匂いの中でどんな経験や出会いをしてきたのかが脳内に直接立ち上ってくる。
そして、いくつかあるだろう本作のテーマの中で最も印象的だったのは「信仰」だ。
浄土真宗、イスラーム、コプト、サトラコウモンサマ、謎の白い生き物…
さまざまな「信仰」の対象が本作では次々とあらわれる。
人間が生きていく中で「信仰」はなぜ必要なのか?
本作の中で宗教と信仰は異なるものとして描かれていると思う。
何かの教徒となってもならなくても生きていく上で「芯」となるものが必要だ。
そしてその「芯」が「信仰」であり、これは宗教的なものと重なることもあればそうでないこともある。
歩が模索の後に見つけた「信仰」が何であるのか、読後は圧倒的なものを見せられたような気がした。
正直、まだこの作品を全然自分の中に落とし込めていないと思う。
この先、自分の「信仰」に悩んだとき、何度も読み返すことになるだろう。