スーパー戦隊シリーズ第29作目『魔法戦隊マジレンジャー』(2005)
スーパー戦隊シリーズ第29作目『魔法戦隊マジレンジャー』は前作「デカレンジャー」で築き上げたフォーマットを継承しつつ、非常に良質の児童向けファンタジー戦隊となりました。
名前からもわかるように本作の世界観は「ジュウレンジャー」「ギンガマン」から更に推し進めた中世ヨーロッパもののRPGやそれに類するファンタジーの世界観です。
同年代には「ハリーポッター」や「ロード・オブ・ザ・リング」などのファンタジー映画が流行していたので、そのブームを意識して取り入れたのもあるでしょう。
そのためか、本作のビジュアルやセットのクオリティは歴代のファンタジー戦隊と比べてもレベルが高く、よくぞこれほどのセットを作ったものです。
また、本作で特徴的なのは「ゴーゴーファイブ」以来の兄妹戦隊でもあって、基本的には家族内の狭いコミュニティの中でホームドラマを進行させていきます。
この2クールの段階でじっくり5人兄妹のキャラクターを掘り下げ、その上で20話から登場するマジシャイン・ヒカル先生の登場で世界観が一気に拡張されていくのです。
単なる狭い箱庭世界の話に終始しないよう、きちんとインフェルシアとの因縁やマジトピアとのつながりなどを描くことによって、話のスケール感を拡大させています。
更にはマジレッド・小津魁とウルザードという宿敵との一騎打ちといった宿命的な要素も入れることによってドラマ性を高めることに成功しているのです。
こうした数々の仕掛けが功を奏し深いストーリーとキャラクター、世界観の構築に成功した本作は大人も子供もしっかり見られる良質の作品になりました。
平均視聴率も大きく回復し、ニチアサ枠では「ガオレンジャー」「ギンガマン」につぐ3位の数字を叩き出していますから、これは間違いなく本作の内容がよかった証拠です。
アクションやメカニックも充実していて、最後には壮大な大団円を迎えるため、2000年代でも屈指の人気作となり、私もまた本作より戦隊に復帰いたしました。
上記でもある程度紹介していますが、改めて本作の魅力を掘り下げて語っていきましょう。
(1)歴代初の末っ子レッド
本作最大の特徴として挙げられるのが歴代初の末っ子レッドであり、本来年長者として引っ張っていくはずのレッドが一番年下という大きな変化が起こっています。
本来ならチームを引っ張るはずのレッドが逆にチームに引っ張られる側であるというのはまあ「メガレンジャー」の健太然り前作のバン然り前例がないわけじゃありません。
ただ、マジレッドの場合「末っ子」をレッドにしたのが大きい訳で、これは未熟な弟キャラの成長や作劇を売りにしていたメインライターの前川淳氏の意向でもあるでしょう。
「デジアド02」の本宮大輔や「ボンバーマンジェッターズ」のシロボンなど、前川氏は未熟な弟キャラが1年がかりで本物のヒーローに成長していく作劇が得意なようです。
もっとも、未熟な弟キャラといえば「ギンガマン」のリョウマもそうなのですが、リョウマは弟でありながらもギンガマン5人の中では一番の戦闘力を持ち、判断力も高く、素養は元々低くありませんでした。
魁はその点リョウマに比べると精神面も弱く甘えん坊で、戦闘力以外の統率力や判断力など全てにおいて劇中最低クラスで、しかしここぞという時の爆発力や潜在能力は5人兄妹の中で図抜けています。
このような作劇にした理由は同じ兄妹戦隊の「ファイブマン」の学兄さん、「ゴーゴーファイブ」のマトイ兄さんとの差別化を図る意図があり、作劇に幅を持たせるようにするためでしょう。
兄妹(家族)戦隊はどうしても長男をレッドに据える中央集権型のヒエラルキーが多く、関係性としてはわかりやすいものの、結局長男の言うことを聞くしかないという封建的な関係になってしまいます。
本作は長男をグリーンにしたことで必ずしも長男の言うことを聞いて動く必要がなく、ある程度はのびのび自由闊達に動くことができるので、兄妹の関係性にも幅が生まれます。
たとえば魁と翼の喧嘩しながらも実はお互いを認め合う関係だったり、自由奔放な長女の芳香姉さんにいつも頭を悩ませる麗との関係だったり、更には蒔人と翼の関係だったりと色々あるのです。
こういう横の関係性を自由自在に描くことによって「ファイブマン」「ゴーゴーファイブ」以上にお互いのキャラクターや個性を引き出すことに成功しています。
また、そういう関係性を表現するにふさわしい役者たちが揃っており、年間を通してしっかり成長していくというのがとても見ていて気持ちのいいものです。
それは同時に役者の演技力の上達とも関連していて、魁役の橋本淳氏は最初こそ本当にアフレコが下手でかなり棒読みだったのですが、後半から見る見る演技力が上達していきます。
これに関しては後述しますが、私は基本的にバカレッドは好きじゃないのですが、魁だけは例外的に好きになることができたのもそういった要素が大きく絡んでいるからです。
(2)頼れるお兄さん・ヒカル先生が家族になるまで
本作の2つ目の特徴といえば、やはり20話で登場し小津兄妹の実質の司令官も兼任してくれるマジシャインことヒカル先生の存在であり、彼の存在もまたこの作品を支えてくれました。
演じる市川氏は現在リアルに数学教師としてご活躍されており、更に教え子の1人が本作より約10年後に仮面ライダーになっているのですから「現実は小説より奇なり」とはまさにこのことです。
そんなヒカル先生ですが、本作にどうしても不足気味だった爽やかイケメン成分を補ってくれただけではなく、それまで司令官不在で戦っていたマジレンジャー5人の良き指導者となります。
ここが大きなポイントであり、本作ではパイロットの段階で指導者であるはずのマジマザーが行方不明になってしまい、父親は実は後述するある理由により兄妹の前から姿を消しました。
また、マンドラ坊やは知識こそありますが、いわゆるマスコットキャラクターであって司令官ではないため、前作のデカマスターやデカスワンみたいな存在は終盤まで姿を現しません。
そこで5人の代わりに後見人として役に立ってくれるのがヒカル先生であり、非常にスマートに優しく、そして時に厳しく5人を導いてくれるのでこれもまた絶妙なキャスティングです。
前作「デカレンジャー」のテツも最初はそのように鳴り物入りで登場しましたが、あちらには最初からボスとスワンが居た上でなぜか下っ端に降格させられてしまいました。
そして気がつけば全く印象に残らない空気キャラとなっており、本作ではそのような空気キャラを生み出さないようにヒカル先生という絶妙な立ち位置のキャラを設定したのです。
実力派5人を超えるほどに強く、ウルザードあたりとやり合っても当たり負けしない影の実力者という設定が本当に気持ち良く、頼れる追加戦士は本当に久々でした。
まあ後半の冥府十神に入ると、トラべリオン共々かませ犬っぽくはなってしまうのですが、それでも総合的なパワーダウンはしておらず最後まできっちり小津兄弟を支えてくれます。
しかもヒカル先生が出てきたことによって、それまで小津兄妹のみで基本進行していたドラマが拡張されていき、インフェルシアやマジトピアとの関わりも増えてくるのです。
そんなヒカル先生と麗の恋愛と結婚のストーリーもまたロジカルに最終回へ向けて組み込まれており、1人1人のキャラクターがしっかりピースとしてハマっていきます。
(3)冥府十神という強敵たちとレジェンドマジレンジャー
一敵組織のインフェルシアもまた素晴らしいのですが、中でも特筆すべきは冥府十神であり、個人的には「メガレンジャー」のネジレンジャーや「ゴーゴーファイブ」の三魔闘士以来の迫力ある強敵です。
だからこそ後半で出てくるマジレジェンドへの強化・変身も見応えがあるのですが、これが単なる強化に終わらず小津兄妹の団結に繋がっているのはとても評価が高いポイントでしょう。
まあ肝心のマジレジェンド自体はマジキングに比べるとダサいんですが(あのデザインは誰かダメ出しできなかったのか)、劇中での動かし方はカッコよかったです。
単なるパワーアップではなく大きなリスクを払ってようやくなれるなど、「重い代償」をきちんと払って手に入れているところは個人的にとても好きな感じでした。
また、レジェンドマジレンジャーもデザインそのものはかっこいいとは言えないのですが、後半に入ると少し魔法合戦の要素も入ってくるのでそれもまた見応えがあります。
単なる勇気だけではなく、知恵なども使いながら総合的な戦闘力やチームワークで戦っていくところは非常に見応えがあり、最後まで飽きさせない工夫があるのです。
この強化形態に関しては前作「デカレンジャー」のS.W.A.T.モードと同じで「ギンガマン」のギンガの光以来の全員強化なのですが、S.W.A.T.モードはぶっちゃけ強化の必要を感じませんでした。
そもそも「アギト」のG3みたいに未知の脅威に対抗するためじゃあるまいし、なぜあそこまで強化しなければならないのかが個人的にはよくわからなかったのです。
そこで本作では後半になるに連れて、小津兄妹とヒカル先生の想像を超える強敵が出てくることによってパワーアップに説得力を持たせ、その意味付けも行っています。
毎回ダウンロードされてくる魔法とは別に、きちんとチームの団結力だとかをしっかり行っているのは「ギンガマン」「ゴーゴーファイブ」で行われていたものですね。
こうした部分をおろそかにせずにきちんと押さえてくれるからこそ、アクションシーンもまた満足の行く仕上がりとなっているのではないでしょうか。
(4)「兄超え」から「親超え」の物語へ
そしてそんな本作の行き着く先ですが、私の見立てでは本作がテーマにしたものは「親超え」だったのではないでしょうか。
実はスーパー戦隊シリーズにおいて「兄超え」に関しては「ギンガマン」のリョウマとヒュウガを通して描かれましたが、「親超え」に関しては描かれていませんでした。
「ファイブマン」「ゴーゴーファイブ」も「親超え」をメインにしたわけではありませんし、「タイムレンジャー」の浅見親子も別に「親超え」をテーマとしていたわけではありません。
むしろ「タイムレンジャー」の場合あくまでも竜也は父親を超えられないことはわかっていて、それでも自分の明日だけは変えようと必死にもがいていたのです。
そこで本作では正面切って末っ子の魁が父であるウルザードとの一騎打ちを通して「親超え」というテーマを描こうとしたのではないでしょうか。
本作ではマジレッドとウルザードの一騎打ちが一番見応えのあるアクションとなっているのですが、この因縁の対決が魁が大きく成長して行くキーとなっています。
そしてそれが可能だったのは末っ子という無限の可能性を秘めた未熟な高校生という設定だったからであり、本作でようやく「若さゆえの未熟さ」が肯定されたのです。
通常の戦隊であればこの「若さゆえの未熟さ」は肯定されませんが、本作の魁に関してはむしろそれを個性に変換し、「勇気」と一体化させることで突破力に変えています。
つまり魁が未熟な末っ子に設定されていたのは最終回で大きく成長して父親であるウルザードファイヤーを超えていき、小津一家を支えられる存在へ成長させるためです。
そしてそんな末っ子を兄達は優しく厳しく支えていき、最終回でそれが1つに結実し、魁は自分だけの「勇気」というものを見つけるに至ります。
魁にとっての勇気とは自分の手で未来を志向して掴み取る意思であり、同時にそれは父親が望んだことでもあり、最終回では魁が音頭を取って家族を導くのです。
そこからの「我ら魔法家族!」のあの名乗りはスーパー戦隊シリーズで類を見ない壮大な名乗りであり、兄妹戦隊から家族戦隊へと変貌を遂げました。
また、それだけではなく芳香とナイとメアとの因縁であったり、母親の帰還であったりといった細かい要素をしっかり拾えるだけ拾い和解させています。
ラストのン・マに無限の量の魔法をぶつけて爆死させる技も「ドラゴンボール」などで使われたものでしたが、納得できるラストになっていました。
そして魁はマジトピアとインフェルシアをつなぐ外交官に出世し、家族全員での大団円で、これ以上ないほどに子供向けとして綺麗にまとまっています。
ただ、綺麗にまとまりすぎていて、もう少し突き抜けて欲しかったのですが、テーマ的には2000年代の戦隊としてかなりうまく完結させました。
(5)「マジレンジャー」の好きな回TOP5
それでは最後にマジレンジャーの好きな回TOP5を選出いたします。アベレージがとても高いので、選ぶのには苦労しました。
第5位…Stage.21「魔法特急で行こう~ゴー・ゴー・ゴルディーロ~」
第4位…Stage.38「アニキとの約束~ゴー・マジーロ~」
第3位…Stage.3「魔竜に乗れ~マージ・ジル・マジンガ~」
第2位…Stage.24「先生として~ゴル・ゴル・ゴジカ~」
第1位…Stage.48「決戦~マジ・マジュール・ゴゴール・ジンガジン~」
まず5位はヒカル先生の立ち位置や方向性、マジレンジャー全員の課題などの方向性を明らかにさせた名作回です。
次に4位は冥府十神の中でも特別に好きな一戦で、蒔人兄のメイン回としてこれ以上ないまでにうまくまとまっていました。
3位はそんな兄貴が魁に対して「自分は長男として支える」と決めた回であり、同時に「マジレンジャー」の作風を決定しています。
2位はヒカル先生と翼の回として非常に良くできており、お互いに教えること教わることがしっかり定まった傑作回です。
そして堂々の1位は最終回前話なのですが、小津魁の1年間の集大成として、あのネタにされている挿入歌とともによくまとまっていました。
どのキャラも面白いのですが、やはり魁、蒔人兄、そしてヒカル先生の3人が中でも作品を支えた名キャラであることがよくわかります。
(6)まとめ
本作は前作「デカレンジャー」で出来上がった基盤の上に2000年代前半の総決算としてよくできた作品でありました。
先達の家族戦隊やファンタジー戦隊をよく分析した上で、良質の子供向け作品を無駄なくしっかりと作り上げています。
キャラクターに寄りすぎずストーリーに凝りすぎず、非常に良い形のバランスで年間の構成も綺麗にまとまっていました。
逆に綺麗にまとまりすぎて若干物足りない感じはしてしまうものの、それでも「ガオレンジャー」以降の流れからするとこれでも十分なレベルです。
総合評価はA(名作)、スーパー戦隊シリーズはまだ終わりではないという意地をしっかりと見せてくれました。
ストーリー:A(名作)100点満点中85点
キャラクター:A(名作)100点満点中85点
アクション:A(名作)100点満点中85点
メカニック:A(名作)100点満点中85点
演出:A(名作)100点満点中85点
音楽:A(名作)100点満点中85点
総合評価:A(名作)100点満点中85点
評価基準=SS(殿堂入り)、S(傑作)、A(名作)、B(良作)、C(佳作)、D(凡作)、E(不作)、F(駄作)、X(判定不能)