『新テニスの王子様』2024年9月号感想〜またもや落として上げる戦法!そしてダブルスは遂に卓球・バドミントンの領域へ!?〜
さて、ようやく『新テニスの王子様』を読んだので、今月もとりあえず感想を。
まず前半の寸劇の部分に関しては今回フォローが入った形ですが、読んだ時の心境はもはやこれ。
俺は……俺は思い違いをしていたようだ……
許斐先生、貴殿はもっと冷静で思慮深いCOOLな方だと思っていた……
まさかこんな熱いドラマを放り込んでくる先生の姿を見ることになるとは思わなかった……
こんな極限の状況でこれほど高度な力技を仕掛けられる漫画家が一体何人いるだろう?
許斐先生がこの決勝戦にかける思いを、俺は読み切れなかった……!
やれやれ、COOLがHOTになっちまったぜ!
いやもう跡部様の旧作での名台詞を一部端折って引用させていただきましたが、マジで許斐先生ここに来てとんでもない力技を発揮してきやがった!
世界大会決勝S2冒頭という盛り上がりの場面で南次郎を脳の病気で卒倒させるという荒技を放り込み読者を混乱させた後、更にそれを日本チームのドラマと繋げて盛り上げるとか凄すぎる。
要するに前回だと尺の都合なのか、それとも許斐先生が仕掛けた策なのかはわからないが、前回の悪印象を一気に吹き飛ばすかのように一気に日本チームの好感度を上げてくるとは。
特にリョーマと不二の先輩後輩の関係があの短いやり取りの中に凝縮されていたのが個人的にはとても好感度が高く、リョーマの控えが不二先輩というのがもうね、旧作からこっち積み上げてきた関係性を知ると感慨深い。
不思議な距離感というか、不二とリョーマって基本的には「手塚を介して」成り立っていた部分が多くて、手塚と不二は明らかに不二のクソデカ感情が手塚に対して重いし、手塚もまた不二に対する思いがデカすぎる。
リョーマと手塚の場合はまあ純粋なライバルというか、リョーマにとっては「絶対いつかあんたを倒す!」なので、許斐先生としてもこの2人の対決が真の最終回として吸えているから、バチバチのライバル。
それに比べるとリョーマと不二の関係はお互いに一目置いているというか、高度な駆け引きを繰り返しながらも真の決着は実はついていないという感じの関係性で、だからこそ面白い。
不二がここまでリョーマのために動いてくれたのが結構大きくて、基本的に不二って今まで手塚ありきで物語の導線が引っ張られていたわけだけど、リョーマとの再戦でその視野が広がって前向きになり始めている。
決して日本代表を背負ってとかじゃなく(そういうのはリョーマや徳川の担当)、純粋に後輩たるリョーマを思い遣っての男前の行動というのがね、今までの不二とはまた違った良さを見せていていいなと。
タカさんに対して発揮する母性のような優しさや手塚に対するコンプレックスと憧れが複雑に同居したクソデカ感情とも違って、リョーマと不二はすごくリアルな先輩後輩だけど、決して必要以上に甘えないのがとてもいい。
リョーマもまた父親が心配と面倒をかけたことをきちんと謝罪してから向かう辺りにも成長が伺えるというか、初期は本当に生意気な唯我独尊野郎だったのがここに来て礼節も身につけるようになった。
そしてもう一人、我らが「義」の男である徳川先輩がこれまた今までになく男前でかっこいいし、珍しくここで「逃げて掴んだ勝利に価値はない!」と乗っかってくる平等院親方もすっかりハードボイルドなトップが様になっている。
また、それを受けてD1への変更を申し出るところもすごいし、まるで読者の予想・心配など全て読んでいたかのごとく「S1とS2を交代」「控え選手の対決」といった要素まで含めて全部まとめて拾ってD1に繋げたのが鮮やか。
前回物凄い悪酔いさせてきてわけがわからないままだと思いきや、今回でそこを納得させ「この先どうなるんだろう?」と思わせるようなドラマをしっかり仕込んで弾みをつけたのがとてもいい。
これがあるかないかで全然違うし、こういう細部にしっかり目配りがなされているのがなんだかんだ「新テニ」の信頼が置けるところであり、またD1を決してS2→S1への前座扱いしない見せ方も白眉であろう。
それにしてもメダノレのリョーガ評が「天才異端児」だけど、これだけ色んな天才が犇めく本作において改めて「異端児」と評されるリョーガがなんかもう気の毒にすら思えてきた。
弟からは「最低最悪の兄貴」呼ばわりされ親方からは「奴の打球はチームを破壊する」だから、この「異端児」というのはどう見ても褒め言葉じゃないよな……リョーガさん、飄々としてるけどあんた本当に大丈夫か?
なんかもうリョーマが負ける気配が全く見えないし、不二にまで「昔の僕ならテニスを失うためにリョーガと戦っていた」発言されてるあたり、リョーガのこの散々な言われよう(笑)
そんなリョーガさんと南次郎、リョーマの困った越前家を一旦そっちのけにして始まったD1……えーと、今回のダブルス頂上対決ってこれですか?
懐かしき、トランスアーツ時代のアニメオリジナルで描かれた跡部&真田の破滅へのタンゴダブルスの中で披露されたハイスピードの撃ち合い、まさかここに来て許斐先生がそれをやってくるとは。
ボールを双方ともノーバウンドで拾いまくるってもはやそれ卓球・バドミントンの領域じゃねえかと思うのだが、これはダブルスだからこそ可能な展開なのかもしれない。
対戦カードとしては正直D2を超える盛り上がりを生み出せるかはわからないが、とりあえず今回は前回の悪酔いに対して完璧な力技でカバーするという神展開を見せてくれた。
これだけお膳立てした状態でのD1だから決して前座ではなく、きちんと盛り上げてくれることに期待。