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『機動武闘伝Gガンダム』のゴッドガンダムこそが「ガンダム・ザ・ガンダム」たる所以

「ガンダムSEED」について書き終えてスッキリしたので、本日は久々に『機動武闘伝Gガンダム』論について書いてみたい。
ガンダムシリーズではよくメカニックの関する設定や考察がなされることが多いが、こと「Gガンダム」において他のシリーズで見られるような明瞭な解説が客観的に論証されたことがほとんどない。
それは「Gガンダム」という作品自体がそういう宇宙世紀ガンダムをはじめとする他のシリーズとはテイストが異なり、「理屈」ではなく「感覚」で楽しむことを何よりの是としている作品だからだ。
したがって、まだ本格的なメカニックに関する考察・解説はまだ少ないのだが、改めて「絵の運動」という側面からうかがえる「Gガンダム」のメカニックについて考察してみよう。

今回のトピックは「Gガンダム」と聞けば誰もが思い浮かべる代名詞・ゴッドガンダムについてであるが、実は既に主役機のシャイニングガンダムとゴッドガンダムに関する考察はブログで言語化している。
「スーパーモード」「明鏡止水」「ハイパーモード」など、いわゆるバトル漫画にありがちなパワーアップも含む力学に関する考察もある程度終えているので、併せてご覧いただきたい。

今回はこれらのテクストを踏まえつつ、増補というか応用編として「ゴッドガンダムこそが「ガンダム・ザ・ガンダム」たる所以」というものについて論じてみたい。
無論、議論の根拠となるものはあくまでも画面上の描写として表象されているもののみであり、いわゆる深層の部分に踏み込んだ解釈論のようなものはなるだけ挟まないようにする。
徹底した「外面」から論じられることのみをベースにして論じていくつもりなので、ここでは細かい設定だとかそういったことは問題にしない。


ガンダムファイターとは「ニュータイプ的な感応性を持ったサイヤ人」である

まず、昨日の「SEED」感想の記事で「あの世界はフリーザ軍ばりの強大な戦闘力と科学技術を持った者がガンダムに乗って戦いを繰り広げているからである」と書いた。
これは何も印象論ではなく実際の描写として初期から積み上げられていたものであり、まず第一話でドモンが子供を庇いながら銃弾を素手で受け止める描写にそれが見て取れる。
東方不敗に至ってはガンダムを使わず素体のままデスアーミーを圧倒する能力を持ち、更に決勝大会ではドモンとアレンビーのタッグとはいえ、2,000Gの衝撃に耐えていた
「ドラゴンボール」のベジータですら原作では300Gまでだったことを考慮すると、本作におけるガンダムファイターのスペックは戦闘民族サイヤ人と同等かそれ以上かもしれない。

ガンダムファイターとサイヤ人のどちらが強いかはあえて論じないが、劇中の描写を元に判断するとガンダムファイターは「ニュータイプ的な感応性を持ったサイヤ人」といえる。
すなわち、宇宙世紀ガンダムのアムロとシャアをはじめとするニュータイプのような精神的感応とサイヤ人のように己の気の質を変化させ、それを鎧のように表象として纏うことができるということだ。
特に黄金色に体を変化させられる新シャッフル同盟の5人と東方不敗マスターアジアはその気が強いのだが、だからといってガンダムファイターは決してニュータイプのように描かれているわけではない。
ニュータイプは精神的感度を高めすぎると最終的にエスパー同士でしか分かり合えない電波じみた演出になるのだが、ガンダムファイターは徹底して表層の形態変化にのみ留まっている

また、ここで議論となるのが超サイヤ人と明鏡止水との違いだが、超サイヤ人があくまで「怒り」という負の感情で覚醒しているのに対し、明鏡止水はその真逆の「やましさの無い静かな心」で覚醒する。

超サイヤ人は「穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって覚醒する」のが条件だが、明鏡止水は「怒りを取り除いた穏やかな心を極限まで高めて覚醒する」のが条件となっていたので概念としては正反対であろう。
むしろ、超サイヤ人の定義に近いものは「怒りのスーパーモード」なのだが、怒りの感情は冷静さを奪い敵に隙を与えやすいことがシュバルツの口から語られ、絵の運動としても示されている。
また、その超サイヤ人が邪道であるというのはアルティメット悟飯が出てきた時に、他ならぬ老界王神自身の口から「邪道」であると論じられていた。

つまり何が言いたいかというと、「Gガンダム」に出てくるパワーアップ形態や概念は宇宙世紀ガンダムが提示したものと少年漫画が提示してきたものの本質とその課題を浮き彫りにしているということだ。
ニュータイプに足りなかったのはその感応性を表層のビジュアルとして具象化すること、そして超サイヤ人の課題点はその表象された能力が体に無理な負担をかけるものであった。
その上で、ニュータイプの問題点と超サイヤ人の問題点をドモン・カッシュという主人公の心の未熟さとして表出し、その上で1つのアンサーとして「明鏡止水=真のスーパーモード」が提示されたのである。
前半23話までを通してガンダムファイターが「ニュータイプ的な感応性を持ったサイヤ人」と定義されたことで、強固な揺るがないバックボーンを構築することに成功したといえるであろう。

「強さ」とは絶対的なものではなく相対的なものである

こちらの動画で客観的に「強さとは何か?」をサトマイが語ってくれているのだが、仕事における「強み」とは文脈によって変わる相対的なものであることが述べられている。
強みとはあくまでも所属する組織・集団の中で相対化されて決まるものであるとのことだが、同じことはバトル漫画においてもいえることではなかろうか。
例えば「ドラゴンボール」という作品において、なぜヤムチャが雑魚扱いを受けるかというと、悟空・ベジータ・悟飯・ピッコロをはじめとする化物じみた強さを持っている連中との相対評価と描写の積み重ねの結果である。
よくファンは「ヤムチャが弱い」というものに対して「いや地球人の中では強い方」というが、これが的外れであるのは強さを相対的なものではなく絶対的なものとして語っているからだ。

先日私が散々にこき下ろしたスーパー戦隊シリーズの「チートな強さ」を持つ戦士たちを挙げた動画の議論がナンセンスなのもまさにそうした理由によるものである。
その強さがチート(ズル)であるかどうかはあくまで本編の描写による相対的なものを基に論じられなければならないのに、そうしたものを一切合切無視して絶対的な強さのごとく語るから議論が成立しない
勉強でいうなら、田舎の自称進学校で学年一位の成績を取っている子がそれよりも遥か上の灘・開成・筑駒のようなガチのエリート校でも同じ学年一位をキープできるとは限らないのだ。
よく、高校や大学に入ったはいいものの勉強の難しさについていけずに落ちこぼれてしまうのも正にそれであり、所属する組織が変わると求められる強さの内容や基準値も悉く変わってしまう

これを「鶏口牛後(大きな集団や組織の末端にいるより、小さくてもよいから長となって重んじられるほうがよい)」というのだが、大企業勤めでも末端の平社員でしかない者は仕事の満足度や自己肯定感は低い。
逆に、そんなに大したことのないベンチャーや中小企業でも自分の持てる能力が存分に発揮され、それが利益を生んで重宝される人の方が仕事の満足度や自己肯定感は高くなるのだ。
したがって、「Gガンダム」における強さ議論とは本来シリーズをまたいだ絶対的評価ではなく、「Gガンダム」という作品内の描写を基に相対的な強さとして評価されないといけないだろう。
まあゲーム「スーパーロボット大戦」「ガンダム無双」「Gジェネレーション」でシリーズの垣根を超えた共演があるから、そのせいで強さ議論が生じてしまうのは仕方ないのだが。

それを踏まえた上で、では「Gガンダム」における「強さ」とは何なのかというと「ガンダムファイトの描写の蓄積と実績に基づく相対的な強さ」としか言いようがない。
デビルガンダム関連を含めるかどうかを含めるとまた話は違うが、「Gガンダム」における強さ議論はあくまでもそうした基準値や相性なども含めるものを基準とする。
そうでなければ、客観的かつ説得的な論証は不可能になるため、強さの基準と値をある程度可視化できる土台と定義はここで具体化させておく必要があるだろう。
その上で、「Gガンダム」という作品における最強はゴッドガンダム+ドモン・カッシュなのだが、それを語る前にまずシャイニングガンダムを語っておく必要がある。

シャイニングガンダムの欠点は「怒りの感情にしか反応しない」ことだけではない

さて、ここでゴッドガンダムこそが「ガンダム・ザ・ガンダム」たる所以を語るが、その前に前半の長い11ヶ月間を戦い抜いたシャイニングガンダムについて語っておかなければなるまい。
シャイニングガンダムもゴッドガンダムもレインの父親であるミカムラ博士が開発したモビルファイターだが、劇中ではカッシュ博士がシャイニングガンダムの欠点を指摘していた。
それは「怒りの感情にしか反応しない」というものであり、それがミカムラ博士の鬱積していた負の感情を顕在化させる引き金となったが、実はシャイニングガンダムの欠点はそれだけではない
カッシュ博士が指摘したのはあくまでも第13回ガンダムファイトが開催される前の開発段階での話であり、実戦で運用されていないためにメカニックとしての見地からわかる理論的な欠点のみだ

しかし、劇中の描写として見て行くと、実はシャイニングガンダムは前半のドモンがまだ荒削りだったことを加味しても、実は様々な欠点がガンダムファイトの中でも、そして対デビルガンダムでも露呈している。

  • エネルギー不足により稼働時間が短い

  • スペックと火力で上位陣の機体に負けている

  • 装甲が意外に脆く、何度か腕をやられている

  • ドモンの明鏡止水に機体が限界を突破してしまった

大体この辺りだが、特にエネルギー不足と単純なスペック・火力不足が特に前半では目立ち、それもまた大きなシャイニングガンダムの目立つ欠点となっている。
例えばエネルギー不足だが、最初のサイ・サイシー戦を見ればわかるように、シャイニングフィンガーは戦いの中で左右一回ずつ、合計で二回しか使うことはできない
何故ならば使用後の関節部分からの「フシュー」という効果音からもわかるように、一度シャイニングフィンガーを使った後は一定時間冷却しなければならないのだ。
そのためにすぐ使おうと思うと左を使うしかないのだが、これが長丁場のギアナ高地編では連戦に次ぐ連戦だったせいか、最終的にマスターガンダム共々ダブルKOとなっている

次にスペック・火力不足だが、マスターガンダムと戦った新宿編ではダークネスフィンガーとシャイニングフィンガーで真っ向からやり合っているが、結果的にシャイニングフィンガーが力負けしていた
最初に出てきたときはレインと2人で押し切ったことで何とか跳ね返したものの、そのあとはギアナ高地でドモンが明鏡止水に目覚めるまで基本的にシャイニングガンダムはマスターガンダムに勝てていない
それはドモンの総合的な戦闘力が肉体面・精神面共に不足しているのみならず、シャイニングガンダム自身のスペックや火力そのものがマスターガンダムやシュピーゲルと比べても劣っているのもあるだろう。
3つ目だが、最初にアルゴのボルトガンダムと対決したときに、左腕をもがれてしまっており、結果的にシャイニングフィンガーで痛み分けに持っていったものの、同じように何度か腕をやられていた。

そして4つ目に関しては前半の集大成であるデビルガンダム・マスターガンダムとの再対決で明らかとなっているが、怒りの感情にしか反応しないというカッシュ博士の指摘は正確さを欠いている。
実際は怒りの感情以外でも反応したわけであり、だからこそ明鏡止水に到達して機体ごと黄金色に輝き圧倒したのだが、明らかにスペックの限界を超えた動きなので、最終的に機体がドモンについていけなくなった
だから、瞬間的な強さだけをいうならば確かに23話の明鏡止水シャイニングは相当な強さであるが、それを恒常的に使いこなせるだけの安定性や継戦能力が諸々欠けていたのである。
そう考えると、シャイニングガンダムは間違いなく強い機体であることは間違いないが、相対的に見るとゴッドガンダムとの比較を抜きにしても強さは二流のA=中の上ではなかろうか。

「瞬間的な爆発力」+「長丁場の継戦能力」という二律背反の両立

そうしたシャイニングガンダムの表層に露呈している欠点を全て克服した上で、文句なしの「ガンダム・ザ・ガンダム」として描かれていたのがゴッドガンダムである。
ゴッドガンダムの何が素晴らしいといって、明鏡止水を得て実質最強となったドモン・カッシュとハイスペックな期待性能のお陰で全戦全勝の展開に全く御都合主義感がない
もちろん構成や見せ方が凄く上手かったのもあるが、ドモンが一回も負けなしで最強を貫き通したことに全く異論がないのは、見せ方が上手だったお陰だろう。
まずゴッドガンダムがノーマルモードの状態でもシャイニングガンダムスーパーモードを上回るというのは決してスペック上のことだけではない。

火力もそうだし装甲もそうだが、ゴッドガンダムにあってシャイニングガンダムに欠けていたものを集約させるなら「長丁場の継戦能力」ではないだろうか。
シャイニングガンダムは基本的に一回の戦闘につき2回しかシャイニングフィンガーを使うことができず、またハイパーモードを何度使用しても大丈夫なようだ。
特にランタオ島の決戦からデビルコロニーの終盤戦はレインのメンテナンスを抜きにほぼ連戦の状態なのにも関わらず、エネルギー切れも機体の損傷も一切ない
まあ物語の都合といってしまえばそれまでだが、違和感が一切ないのはまさにゴッドガンダムというガンダムの強さ自体が「そういうものだ」として納得できる画面の運動になっているからだ。

こちらでも解説されているように、ゴッドガンダムはただでさえ武装が少なかったシャイニングガンダムから更に武装を減らしてバルカン・マシンキャノン・ビームサーベルの3つとなっている。
だが、その分代表的な必殺技「爆熱ゴッドフィンガー」にバリエーションを持たせ、火球を気弾のように飛ばすものから遠距離攻撃までできるようにしてあるので、決して遠距離戦が不利なわけではない。
更に接近戦においても、アームカバーをスライドすることでエネルギーの放出に無駄の多かったシャイニングフィンガーと異なるエネルギーを内側に収束させることで破壊力を上げている。
しかも関節部分がドリル回転なのも威力を底上げするものになっており、背面ジェネレーターでエネルギーを増幅しているため消費に無駄がなく、しかもアレンビーとのタッグ戦では消費を最小限に抑えるチップもつけていた。

これら機体性能の底上げがなされたことに加え、ドモン自身の戦い方も無駄が多かった前半に比べて後半は無駄が少なくなり駆け引きも上手になったため、総合的な経験値により長丁場に強くなったのである
ゴッドガンダムはサイサイシー戦でゴッドフィンガーが破れた時以外に明確な破損がなく、マスターガンダムのダークネスフィンガーとも対等に遣り合えていたこともあり、総合的な強さは文句なしに最強だろう。
グランドマスターガンダムやデビルガンダムに追い詰められることはあっても無敗だったのは、明鏡止水という会得したパワーを引き出すハイパーモードの瞬間的な爆発力に長丁場の継戦能力が付加されたからだ。
この「瞬間的な爆発力」+「長丁場の継戦能力」という二律背反を破綻なく両立し、その理想的なオーバースペックを安定して使いこなせたからこそゴッドガンダムが完勝無敗でも違和感がないのである。

強いものが勝つのではなく勝ったものが強い」、この至極シンプルな理屈を画面の運動として貫き通したゴッドガンダムこそ「ガンダム・ザ・ガンダム」の称号に相応しい理想の機体だろう。

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