短歌十首連作『王位』
王位
馬上杯のかたちに花をひらかせて木蓮は老ゆ灼かれしやうに
人より花の多き季節に装へばわれはわが最愛のトルソー
喚びだせば無人の籠と引き換へに落ちゆくエレベーターの錘よ
腰のごとくびれて瓶はかかげたり百合の花とふましろき顔を
紫木蓮の色に塗られし黒鍵を渡れよわれの水色の爪
白百合の造花へ百合の香水を 百合のかたちの影を もろさを
人形のための舞曲を聴きながらうつむきぬ我も人形として
五線譜のおはりにひとつ振りあてる二重まぶたのやうなる記号
人形は人よりもろき箱にしてたましひはその箱を選ばず
はなびらをすべて散らして花蕊は王位を捨てるやうに散りゆく