毎月短歌14(口語連作部門)/早瀬はづき選

先月から引き続き、毎月短歌14の選を担当しました。今回も印象に残った連作について投稿順に評をしていきます。


半分のせかい/りんか

タイトル通り「半分」がキーとなる連作。
比翼の鳥に代表されるように、相聞と「半分」という概念は相性がいいということを改めて感じさせられた。

半身が愛で焦げゆくようになりケンタウルスに相談してる

半分のせかい/りんか

虹の龍/みつき美希

母である主体が、夏休み中の息子と庭で虹を作っているシーンを切り取った連作。
虹が消えてゆくことも、この連作における主題の一つである時の流れや記憶を象徴しているのだろう。

シャワーより親子のごとし虹の龍上下にならび煌めいており

虹の龍/みつき美希

第一回納涼ニュータウン夏祭り/汐留ライス

ニュータウンで企画された新たな夏祭りに対し、シニカルな眼差しを向けた一連。
先月の同作者の連作に対しても述べたが、起承転結がしっかりしているため、非常に面白く読めた。

伝統も由来も何もないけれどそれに文句を言う人もいない

第一回納涼ニュータウン夏祭り/汐留ライス

ルックバック/ケムニマキコ

どうしようとも拭えない孤独感のようなものが通底しているように感じた一連。
この連作に対してはわたしが語るよりも実際に読んでもらったほうがいいと思ったので、気になった方はぜひ読んでいただきたい。

約束がなくてもきっと会えるから風になるまで走り続ける

ルックバック/ケムニマキコ

印象に残った一首

美しくなくちゃ見つけてくれないよ 眠りは鍵の形の呪い
/納戸青『モア・ザン・プリンス』

イチジクの皮を上手にむくひとのゆびを裸眼の端に絡める
/梅雨すみれ『主文』

あの古いよく分からないアパートにメリーゴーランドがほしいよね
/菜々瀬ふく『ピンクいゆりちゃん』

一日に五時間だけは社会人 あとは社会じゃない人 人?
/つじり『光に落ちる』

検索を区切るためのスペースのような距離感で座る僕ら
/箭田儀一『満員なんて比じゃない電車』

しゃべらない少年に果物をむく母のナイフは母だけのもの
/睡密堂『変声期』

夕空にたなびく雲にさす光 買い物リストにない欲しいもの
/まちのあき『家事をするひと』

月へ行く それだけのことで今までの全てが許された気がした
/湯田カニ『歌』

抑えきれない想いで夜の鳥となりあなたへ飛んでゆきたい
/松浦『BIG MACHINE』

カラフルな土産袋をぶら下げて空港の端へと伸びる影
/はざくらめい『島へ』

コミュニケーションってほんとに難しい気を抜くとコミニュケーションってなっちゃう
/畳川鷺々『あたしのバ先』

ターナーの絵画の中にいつも君はいて夜明けの海で佇んでいる
/古井朔『傘をもたずに』

声優になりたいですと言ってたね、ヴィオラのような優しい声で
/水川怜『逆縁』

Zとか先行き不透明 次は(エクセルならば)AA世代
/海老珊瑚『のっぺり』

アンコウのランプが光る手のひらを透かすにはまだ足りぬ強さで
/せんぱい『みなそこへ行く』

まどろみを往けば私の真ん中にこんこんと湧く水脈がある
/中白春海『青い流れ』

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