ドラムという趣味 その5 ドラムとフライパンとイヤモニの関連性
以前、ドラムが趣味といっても様々なスタイルがあり、演奏・練習・鑑賞・道具のパラメーターのどこを重視するかで楽しみ方が変わる。
それは環境によっての興味の変化も関わってきます。という話を書きました。今回は、料理道具とドラムとイヤモニの関連性という話をします。
現代調理道具論
エリックサウス創業者の稲田俊輔さんが書いた本「現代調理道具論」。フライパンの項に、ライフスタイルの変化によるレシピの変化や、調理道具の変化の話がまとめられています。「環境の変化によって、軽量単位やサイズが変わる」このような料理の視点はドラムにも当てはまると思います。
私の会社「シライミュージック」のスタッフルームには、簡易なキッチンがありまして、会社で自炊しています。
一人分の料理をするために
・24cmの深いテフロンフライパン
・900ccの大きなユニフレームのステンレスシェラカップ
・18cm1900ccの薄いアルミ片手鍋(とても早くお湯が湧く!)
を使っていました。
昨日、18cmのテフロンフライパンを買い足し、24cmのフライパンは、大人数(パリピ)料理道具の箱に入ってもらいました。
以前はパスタを作ることが多かったのですが、最近はカレーやビリヤニを作る事が増えています。つまり「環境の変化」がやってきたのです。
ドラムの機材選びと調理器具選びの共通項
作る料理が変わったから道具を変えました。
また、出来上がりの人数によって、違うカテゴリの道具郡は別にあります。そして、調理道具が一つ変われば、全体の手順やバランスも変わってきます。
ドラマーにとっての大きな環境の変化「同期」
「同期」というのは、あらかじめコンピューターに仕込まれたトラックと一緒に演奏する事。
コンピューター同士を同期する信号の様に、コンピューターと人間が同期する為のプロトコルが必要になり「クリック」という、テンポ情報をドラマーが聴きながら演奏することで、バンドとコンピューターを「同期」させます。
*クリックはレコーディングでも使われますが、今回はライブパフォーマンスで使うクリックの話とします。
コンピューターのテンポがプライマリとなる一方通行のコミュニケーションで、相互に合わせる人間同士のアンサンブルとは大きく異なる環境となります。
多くのアマチュアバンドの場合、ドラマーが「再生・停止」の操作をします。ドラマーが曲のカウントを出す仕事の延長です。
少し大きな規模では、ステージ袖でローディーさんがトラックのスタート・ストップを担当してくれます。ライブのリハーサルからローディーが付いていて、ちゃんと仕込みが出来ている状況ですね。
大きなプロジェクトになると「マニュピレーター」というパートがあり、もし1つのシステムが止まってもバックアップのシステムを走らせてくれたり…。コンピューターに付いて制御してくれる人がいます。とても安心です。
クリックを使いつつマニピュレーターがいるスタイル自体は、70年代末にはYMOが確立しているのがすごい。シーケンサーの暴走に対処するためミュージシャンとしての演奏能力の高さも必要。
例えば、以下のようなマルチパッドをドラマーがセットしている場合、このパッドに同期用のトラックが仕込まれている事も多々あります。パッドを叩くと、クリックの出力と、曲の出力に分かれた配線で同時に再生される仕組みです。このパッドは、打楽器として使っていないケースもかなり多いのです。
昔から機材トラブルが怖いため、トラブルの少ないMDプレイヤーやiPodのLチャンネルにクリック、Rチャンネルに曲を入れて同期していたこともあります。ドラムセミナーのデモ演奏に使うマイナスワンなどドラムイベントでよく使う手法でした。
イメージ湧きやすいのは↓のページにある 2. クリック&モノラル・ミックスver.(応募用音源)です。(なぜかLチャンネルに曲も入ってしまっているのはリバーブのステレオバスのパン振り忘れですかね?)
プロジェクトの大きさによって同期の再生環境も様々ですが、どんなときでもドラマーがクリックを受け取る命綱それが「イヤモニ」。
それでは、本題に入っていきます。
そもそもモニターは必要?
こちらの演奏
モニタースピーカー使っていませんよね?
こんなに広くて大勢なのにモニタースピーカー使っていませんよね?
西洋音楽じゃない場合も。使っていません。ここまでは想定の範囲ですよね。
では、こちらは?
ほら
足元にあるモニタースピーカー(WEDGE)がありません。
よく見るとステージ袖からのサイドフィルというモニターがあるのみです。
この頃からイヤモニをつかっていた…わけではなく、ボーカルがサイドフィルから出るくらいで。楽器(アンプ)から出る音でアンサンブルしている事が分かります。
私がこれに気がついたのは、Shirai Keet Acoustic Drumsという、「アコースティック現場で使いやすいドラムセット」の試作を繰り返していた時期で、PAの歴史を復習していた頃。
OFFICE INTENZIOの土屋さんに、「当時のモニターはサイドフィルくらいだよ」と聞いて、猛省したことを覚えています。先輩達の話や歴史はマジで大事!
自分が使っている道具の歴史は、ざっくりでも良いので学んだほうがよさそう。
ドラムセットという音の指向性が低い楽器を使って、ステージ中央でリズムを出す。マイクやミキサー、モニタースピーカーを通っていない相手の素の音を聞いてアンサンブルする。現在、本質的な設計が変わっていないエレキギターが音量に関してはシビアで大変な楽器なのかもしれません。
モニター以前の音量バランスに関して一度バンドで再考するのも大事
同期は、コンピューターとの一方通行とのコミュニケーションにより、演奏ハードルが上がります。人間同士でも音量バランスや音を出すタイミングが悪かったり、相手とコミュニケーション出来なければ演奏を成りた立たせるハードルが上がるわけです。
クリックのようにステージや客席に鳴らさない音を聞く必要が無のであれば、一旦モニター無しで演奏が成り立つバランス作りからやり直すのもよさそうです。
鉄のフライパンを使って、テフロンのフライパンの便利さと、使えなくなる「火力」を実感するのは大切です。「人間は忘れます」からね。
イヤホン選び
さて、同期演奏にクリックは必須。基本的に遮音性の高い、インイヤーイヤホンを使います。ドラマーは有線にした方がトラブルが減ります。
イヤホンは、買いやすい価格で演奏に使えるイヤモニの入門編として優秀なShureの215
位相感が良い意味で曖昧でステージで使いやすいZildjianのイヤホン
演奏で使いやすいケーブルの長さにしてある有線ピヤホン3のミュージシャン仕様 などなど
好きなものを選んでください。音楽を聴くためにも使うならピヤホン買っても安いかな?と思います。
次にドラマーが操作する為の「ミキサー」を用意します。
一般的には、YAMAHAのMG10のようなミキサー。縦フェーダーで音量調整するミキサーより、ノブの方がコンパクトかつ不用意に触る事故が無く安心という方が多いです。MACKIEの1202VLZ世代なのでこの価格で手軽にこのタイプのミキサーが手に入るのは嬉しいですね。
調理器具に例えるなら、これは24cmのフライパンです。
そして、18cmのフライパンみたいなミキサーはこちら。ライブ配信用としても有名な、YAMAHA AG06MK2。iPhoneユーザーやPCを繋いでの調整が必要ですが、このコンパクトさでコンプレッサー内蔵。ACアダプターもUSBの電源が使えます。
今回は、この小さなミキサーYAMAHA AG06MK2を使って説明します。
今回のnoteの補足として使える動画も作りましたので、参考になればと思います。
イヤホンはヘッドホン🎧️アイコンのジャックに挿せます。2箇所あって、MONITOR OUTとは別にHEADSETにステレオミニアウトがあります。
変換コネクターいらずで嬉しいですね。
入力チャンネルの注意点
CH1にはCOMP EQ、CH2にAMP SIMボタンがあります。しかし、iPhoneやPC/MACを繋げると、CH2もCH1同様のCOMP EQに設定できます。ここはカタログからはわかりにくい部分ですね。
CH3/4は、Lジャックだけに挿せばモノラルチャンネルになります。
5/6はモノラルになりません。
AUXチャンネルもあります。(USBオーディオもAUXチャンネルにアサインされます。)
まず、同期の音声信号は、オーディオインターフェイスからダイレクトボックス(DI)に繋げてPAへ。ダイレクトボックスは音響さんが用意しているので基本買わなくても大丈夫。
DIのパラアウトからミキサーの5/6CHへ、PHONE-RCAのケーブルで繋げます。クリックの信号はCH3/4の3へPHONE-PHONEのケーブルで挿せば同期のモニター環境は準備完了です。
他に単体デジタルメトロノームなどがあったらステレオミニのAUXに入れます。
PAとの連携
PAから返ってくるCH1は過大入力から守ってくれるリミッター ∞:1 に設定してます。CH2のアンビエントマイクはコンプレッサーとして音質調整しています。
THRESHはTHRESHOLDの略。この音量からコンプレッサーが効く「しきい値」の意味です。
RATIOは比率で元の音量を1とした時にしきい値を超えた音量を何対1にするか。画像のINFは無限大の略なので、-10dBを超えたら音量はすべて10-dBに抑えます。
ATTACK と RELEASEはTHRESHOLDを超えてからコンプレッサーを効かせるタイミングと効果をなくすタイミング。
抑えた音量分足すのがGAINです。
モニタースピーカーに出す音と同じように、音響の人とコミュニケーションして基本的なイヤモニの中の音を作っていきますが、なかなか難しい。
そこに1本 アンビエントマイクを加えると、ストレスがかなり減ります。マイクを置く場所は色々あって、ピエール中野さんは真後ろ上方から10:36が見やすいです。クリック使ってないけどイヤモニですね。イヤホンに返すからこの位置にマイクを置いて返してもハウリングしないんです。
私はここにセットしています。スネアのシェルの音を狙っているように見えますが違います(笑)シェルは発音しません。
以前は SHURE SM57を使っていたのですが、今年5月に発売したYAMAHAのマイクYDM505がこの用途に最適でした。4pcキットのキック、スネア、タム、フロアタムが非常にバランスよく聞こえます。スネアのシェルを狙うことでヘッドから遠ざかってマイクが拾うスネアの音量が抑えられるんです。
その他、様々なアイデアを大きなライブの現場に行くと見ることができます。アンビエントマイクが2-3本使えると大きな多点セットにも対応できますが、その場合はミキサーのチャンネルが多いものを選ぶことになります。
ライブ配信の喋りにはYAMAHA のYDM707Wを使っています。
これをドラムにセットすると、505よりライドの音を拾いタムやフロアタムはあまり拾わなくなります。価格じゃなくて用途でのマイクの指向性選びは大切です。
このようにイヤホンの中で使う「PAに使ってないモニター用のマイク」の存在を知っていると、モニターのしやすさが大きく代わります。
配線をまとめると
*サポート外ですが、私はUSB-CでAndroidスマホと繋げています。
図にあるアンビエントマイクからのケーブルはこれがオススメ
DIのPARAからはこれ(私は4E6Sで自作のケーブルを作っています)
メトロノームからは
番外ですがミキサーやイヤホンをこのトレイに載せています。
Sカンにイヤホンが掛けられるのが超便利。
こう考えると、YAMAHA AG06MK2は、小さなライブ現場でとても便利なミキサーだと思いませんか?オンライン会議やゲーム配信だけでなく、こんな使い道もあります。
ということで18cmのフライパンで作った料理はこちら
小盛りを2人分くらいなら作れる容量でした。1人前で230gほど。昨日作った鶏のキーマとライタを付けて…。
自炊しない人って、意外と多いんですよね。なので、調理器具の例えが理解のサポートになっていないかもしれません。しかし、ドラマーはカレーを作るのが好きな人が多いということで、以下のPodcastを埋めておきます。
次回もドラムの話を書く予定です!