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エックス線作業主任者試験 対策まとめ

2023年5月の試験でエックス線作業主任者試験に合格した者です。

ここでは、エックス線作業主任者試験をこれから受験される方向けに、私の勉強法や経験をもとに、合格に近づく内容を紹介します。

※法令に関しては、2023年時点での内容です。ご利用・ご活用の際は、念のため、ご自身でも確認の上、お願いいたします。間違いがあれば、ご指摘いただけると大変助かります。よろしくお願いいたします。


勉強法

エックス線作業主任者試験の範囲は、以下の4つに分類されます。

①エックス線の管理に関する知識
ほぼ高校物理の範囲内です。

②エックス線の測定に関する知識
高校物理+放射線測定器・線量計の知識+若干の統計学的知識が問われます。

③エックス線の生体に与える影響に関する知識
放射線生物学の範囲です。高校生物を学んだ人は理解が早いと思います。私は物理と化学で大学受験したため、生物に苦しみましたが、体系化して整理すれば理解が深まります。

④関係法令
「電離放射線障害防止規則」(略称:電離則)に関する問題です。電離則は、労働安全衛生法の特別規則として定められています。法令関係は、基本暗記のため、試験直前に集中してやるのがオススメです。

これらの4分野を、少なくとも試験の1か月前から、過去問を利用して勉強すれば、合格にかなり近づきます。私は以下の過去問集を使って勉強しました。

ほかにエックス線作業主任者試験問題集が販売されていますが、あまりオススメできません。理由としては、例えば「エックス線作業主任者試験 合格問題集(オーム社)」は、直近年度の問題と解答が掲載されておらず、特に法令分野は最近の試験と傾向が全く異なります。

また、2021年に4月に電離則が改正されたため、2020年以前の法令の過去問は使わない方が無難かと思います。

エックス線作業主任者試験を受験される方は主に社会人かと思います。日々の業務で多忙な中、ご家族がおられる方も多いかと思います。効率的に勉強し、合格を勝ち取り、職場での評価向上に役立てるには戦略が必要です。また、短期間で、自身のX線に関する知識のアップデートにもつながります。

過去問集のみを集中的に、最低過去4年分(春季と秋季があるので、合計8回分)を1周以上繰り返すことで傾向をつかめます。

①エックス線の管理に関する知識、②エックス線の測定に関する知識、③エックス線の生体に与える影響に関する知識、④関係法令の4点について、要点を解説します。


①エックス線の管理に関する知識

(1) 制動X線と特性X線の違い

X線は、制動X線(連続X線、制動放射線、白色X線)特性X線(蛍光X線、固有X線、単色X線)に分かれます。

図表 制動X線と特性X線の違い

制動X線の発生イメージは、以下もご参照ください。

(2) 光電効果、コンプトン散乱、電子対生成

「電子が入射する物質が鉛(Pb)のとき、このエネルギーだと、コンプトン散乱が支配的だっけ?光電効果だっけ?」と迷うことが多いかと思います。以下はコンプトン散乱が支配的なエネルギー領域になります。これを覚えておけば、迷わずに済みます。

  • 高原子番号物質(Pb、Feなど):数0.1MeV~数MeV

  • 低原子番号物質(水や空気など):数0.01MeV~数10MeV

図表 コンプトン散乱が支配的な領域

(3)X線の全強度と波長、エネルギーの関係

紛らわしいため、以下に整理しました。横軸がX線の波長またはエネルギーの場合で、X線の全強度がどのように変化するのか、覚えておきましょう。

X線は光の一種(光子線の一種)であり、光は波動性と粒子性の2つの性質を持ちます。(波でもあり、粒子でもあるという2面性をもちます。)

波動性に関しては、波長が短いほど、エネルギーは大きくなります。

粒子性に関しては、管電圧を変化させると、全強度(単位時間及び単位面積あたりに通過するX線光子の数※)のピーク値が変化し、管電圧の2乗で効きます。管電流を変化させても、全強度のピーク値は変化せず、管電流の1乗(比例)で効きます。
※これをフルエンス率と呼びます。フルエンスは物理量であり、防護量である線量とは異なるものです。この辺りは、放射線取扱主任者試験を受験される際、必要な知識になります。

図表 X線の波長 vs X線の全強度
図表 X線のエネルギー vs X線の全強度

補足すると、管電流の変化で全強度のピーク値が変化するということは、透過能が変化するということです。管電圧を上げると、透過能は向上します。この辺りの知識は、医療用レントゲン撮影や、非破壊検査(放射線透過検査)で必要になります。

(4) 距離の逆2乗則を使った計算問題(遮蔽計算など)

単位時間あたりの線量である線量率は、距離の2乗に反比例する性質があります。これを距離の逆2乗則と言い、以下の式を使います。(I:線量率(強度)、x:線源からの距離)

図表 距離の逆2乗則の式

(5) X線減弱の式と半価層、1/10価層の関係

X線は、遮蔽により、指数関数的に強度が減少します。X線の強度が1/2になるのに必要な物質の厚さを半価層、1/10になるのに必要な物質の厚さを1/10価層と呼びます。

半価層をh、1/10価層をHとしたとき、試験でよく使う式変形は以下のようになります。

図表 半価層と1/10価層の式と式変形

(補足) X線とγ線の違い

γ線もX線も光子線です。違いは発生源です。γ線は「原子核」から放出され、X線は「原子」から放出されます。また、γ線は放射性同位元素の核種によってエネルギーが決まりますが、X線の場合は、管電圧(または加速電圧)を上げることで、エネルギーを高めることができます。


②エックス線の測定に関する知識

(1) 放射線測定器と線量計の特徴

放射線測定器と線量計の特徴について押さえます。以下は、試験前に私が整理したものです。エックス線作業主任者試験の範囲ですが、放射線取扱主任者試験を受験される方にもおすすめです。(より詳細な知識が求められます)

図表 放射線測定器の特徴
図表 線量計の特徴
図表 線量計の特徴(続き)

(2) 時定数と測定器の関係

時定数を大きくすると(安定するまでの時間が長くなり)
→ 指針のゆらぎが小さく 指示値の相対標準偏差小さく 応答速度遅くなる

時定数を小さくすると(安定するまでの時間が長くなり)
→ 指針のゆらぎが大きく 指示値の相対標準偏差大きく 応答速度速くなる

図表 時定数の説明(電気回路と対応させました。C:電気容量、R:電気抵抗値)

時定数と放射線測定器の実際は、以下をご参照ください。

(3) 計数値、計数率の標準偏差

放射線測定器で計測した結果のばらつきを求めるのに必要な知識です。

図表 計数率x[cps]、計数時間t[s]、計数値N[count]、時定数T[s]とした場合

(4) 真の計数率と数え落としの計算方法

GM計数管での放射線測定で必要な知識です。

図表 真の計数率n0、計数率n、時定数tとした場合


③エックス線の生体に与える影響に関する知識

放射線生物学は、放射線取扱主任者試験でも出題される内容です。体系的・視覚的に整理しておくと、理解が深まります。放射線取扱主任者試験でもかなり役に立ちます。

(1) 細胞周期

横軸に時間、縦軸に感受性が書かれたグラフをよく見受けますが、視覚的に覚えておくのが難しいと思います。「M期、G1期、S期、G2期、どの時期が放射線感受性が高かったっけ?」と混乱します。

私のオススメはコレです。試験場で以下の図をすぐに書き込みます。円を描き、それを4分割。その後、M期、G1期、S期、G2期を記入。最後に、矢印と感受性高・低を記入し、完成です。これで迷うことなく、確実に得点できます。

図表 細胞周期と感受性の関係図

(2) OERとRBEの関係

OER(酸素効果比)とRBE(生物化学的効果比)の特徴を掴みます。こちらも、グラフを使って視覚的に理解します。

OER, RBE:
いずれも線量の比(無次元数)で、必ず1より大きくなる

OER:
低LET領域では、2.5~3.0の値を取る

RBE:
・低LET領域では1をとる(X線)
・LET増大とともに増大し100keV/umで最大、以降は減少

図表 線エネルギー付与(LTE) vs OER, RBE

(3) 血液細胞の感受性

  • リンパ球は感受性が高く、すぐに減少(ほかは感受性低い)

  • 白血球は上昇後、減少

(4) 生体組織の感受性と組織荷重係数

感受性は骨髄・リンパがトップ、次に生殖腺

図表 生体組織の感受性

組織加重係数は生殖腺がトップ、次に骨髄※

図表 生体組織の組織加重係数(確率的影響に対するもの)

※組織荷重係数はICRP Pub.60 1990年勧告とPub.103 2007年勧告のものがあります。両者で各組織の値の大きさと順位が入れ替わっているので、注意してください。
※ここで示したものは、現国内法のICRP Pub.60 1990年勧告のものです。ちなみに、海外ではPub.103 2007年勧告が使用されています。

(5) 確定的影響と確率的影響

確定的影響と確率的影響に関する内容を一覧にして整理しました。大きな特徴として、確定的影響は閾値があり、確率的影響は閾値がない、です。

図表 確定的影響と確率的影響

(6) 平均致死線量

  • 半致死線量 LD50/60 個体の50%が60日以内に死亡

  • 全致死線量 LD100/60 すべての個体が60日以内に死亡

  • 平均致死線量 LD37 放射線感受性に関係(この値が大きいと感受性は低い)

(7) 死因と線量の関係

  • 100Gy 中枢神経死

  • 10~100Gy 腸死

  • 3~10Gy 骨髄死(造血機能がやられる、30日以内

  • 2~3Gy 寿命低下、老化促進

(8) 放射線障害と線量の関係(しきい値あり⇒確定的影響)

急性放射線障害(嘔吐や全身倦怠感など)の閾値を覚えておきましょう。

  • 0~0.5Gy 0.25Gyで血球数に変化

  • 0.5~1.0Gy 放射性宿酔

  • 急性放射線障害の閾値は1Gy

  • 3~5Gy(4Gy) 半致死線量

  • 7Gy 全致死線量

(9) 皮膚症状(しきい値あり⇒確定的影響)

  • 1~3Gy 3週間潜伏 主に軽微な脱毛

  • 5~12Gy 2週間潜伏 充血、膨張、紅斑

  • 12~18Gy 1週間潜伏 水泡、糜爛、永久脱毛

  • 20Gy以上 数日潜伏 長期にわたる潰瘍

(10) 胎児ひばく(しきい値あり⇒確定的影響)

奇形が発生する恐れのある時期は、器官形成期のみであることを覚えておきましょう。

  • 着床前期 → 胚は早期に死ぬが、生き残ったら出生児は正常。0.1Gy程度

  • 器官形成期 → 0.15Gy以上で奇形が発生する恐れ(この時期以外では奇形は生じない)

  • 胎児期 → 0.2Gy以上で精神発達遅れ、0.5Gy以上で発達の遅れ


④関係法令

電離則の内容からポイントとなる部分を抜き出して整理してみました。テクニックの話ですが、法令関係は、直前に覚えると効果が大きいです。

(1) 健康診断結果の提出要否

  • 定期 → 必要

  • 雇い入れ、配置換え時 → 不要

(2) 健康診断省略有無

皮膚検査、被爆履歴は必須となります。

  • 定期 → 医師が必要でないと認めた場合のみ、被ばく履歴調査を除いて、全部または一部が省略可能

  • 雇い入れ、配置変え時 → 線源の種類によっては省略可能(白内障は省略可能)

(3) 30年保存、または、提出して5年保存するもの

  • 外部被ばくの個人線量

  • 健康診断結果

(4) 管理区域の外部被ばく算定

男性:

  • 5年間において、1年の実効線量20mSvを超える → 3月、1年、5年(水晶体と同じ)

  • 5年間において、1年の実効線量20mSvを超えない → 3月、1年(水晶体以外の部位と同じ)

水晶体:

  • 等価線量 3月、1年、5年(男性の20mSv超えと同じ)

  • ほか(ヒフなど) → 等価線量 3月、1年(男性の20mSv超えないと同じ)

女性:

  • 1か月の実効線量1.7mSvを超える恐れのある → 1月、3月、1年

  • 妊娠中 → 腹部等価線量 1月

(5) 事故報告

以下項目を5年間保存すること。

  • 水晶体、皮膚の等価線量

  • 場所、日時

  • 状況、原因

  • 障害

  • 事業者がとった応急処置内容

(6) 被ばく限度(緊急作業時除く)

  • 男性:5年100mSv、かつ、1年50mSv

  • 女性:3か月5mSv(妊娠者:腹部等価線量 妊娠~出産までに2mSv)

  • 水晶体:5年100mSv、かつ、1年50mSv

  • 皮膚:1年500mSv

(7) 緊急作業時限度(男女関係なし)

  • 実効線量:100mSv

  • 眼の等価線量:300mSv

  • 皮膚:1Sv

(8) 安全衛生管理

  • 総括安全衛生管理者 → 製造業では常時300人以上の事業所

  • 専属の産業医 → 常時1000人以上の労働者かつ常時有害放射線 または 深夜残業500人以上の労働者

  • 専任の衛生管理者を少なくとも1人 → 常時1000人超えの労働者 または 常時500人以上かつ常時30人以上有害

  • 専任の衛生管理者かつ衛生工学衛星管理者免許を少なくとも1人 → 常時500人以上かつ常時30人以上有害

  • 安全衛生推進者 → 常時10人以上、50人未満 (小規模事業者の場合)

(9) 管理区域設定のための線量測定のポイント

  • 1cm線量当量

  • 高さ1m位置で低い方から高い方へ

  • BG(バックグラウンド)を差し引くこと

(10) 外部被ばく量の算定

(11) 作業環境測定(労安法に基づく)

  • 1cm線量当量

  • もし、70um線量当量が1cm線量当量の10倍を越えるときは、70um線量当量で行う

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