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空の虫籠のはなし

カマキリが苦手だ。近所のお兄ちゃんに「おもしろいもの見せてやる。」と言われて見せられたハリガネムシの嫌悪感も覚えているが、なにより目が苦手だ。

小学3年生の頃、気まぐれに捕まえた一匹を虫籠に入れたはいいものの、餌として他の虫を捕まえてやる勇気もなければ、自分が食べているものを与える知識もなかった。

車庫の中に吊るしていたが、チラリと中を見る度にその黒い点をぐるりとこちらに向けていた。餌をあげないのに離さない自分を咎めているようで怖くなった。より一層触らなくなったし、できるだけ目を合わせないようにした。正直早く死んでくれとさえ思っていた。

一週間くらい放置していて、恐る恐る見ると少し干からびて動かなくなっていた。本当に死んでいるか確かめるために籠を揺らしてみると、ガサガサ音が鳴るだけで動くことはなかった。

シンとして薄暗い車庫の中で、死んだカマキリを見てホッとした。その後は家の庭ではなくて少し離れた公園のできるだけ隅の草むらに捨てた。空っぽの虫籠にもう何かを入れることはなかった。

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