#133 自己啓発書の源流を探る:19世紀ニューソート思想
「自己啓発書」というジャンルがあるらしい。
「らしい」と書いたのは、私自身買ったことはないからです。
本屋さんや図書館にそういうコーナーがあるのは知っているし、パラパラめくったことはある。
新聞広告などで人生やら仕事やらの指南をする本の項目を目にするたびに「またかよー」という感じになる。スピリチュアルっ気が入ってくるともうダメ。
自分は読まなくても、これだけあるということはニーズやら悩んでいる人がたくさんいるということだろう。
どんな書き手がいるのか探してみた。
カーネギー「道は開ける」「人を動かす」・・・永ちゃんの「成り上がり」に書いてあったな。
「7つの習慣」著者はあまりデキそうにないお顔ですね(失礼!)
ナポレオン・ヒル「思考は現実化する」むしろ田中孝顕という人が怪しいと思っていた。
「本多静六」日比谷公園などで有名な造園家だけど投資家として成功して、いまでも奨学金でお世話になっている学生がいる。
「中村天風」経歴がやばい。古い日本の経営者で、はまる人続出してたな。
「落合信彦」今をときめく落合さんの父。スーパードライ。なにしろ話がでかい。
「春山 茂雄」脳内革命ってあったな。ポジティブになる⇒ホルモンが脳から出る ⇒ 生き方が変わる
・・・まあどれも怪しい。でも売れた。
日本における最初の本としては、英サミュエル・スマイルズの『Self-Help』(1859年)だと思う。
これはジョン・スチュワート・ミルの翻訳で有名な中村正直が「西国立志編」(1871年)に明治時代のベストセラーになった。
私の世代ではラジオ講座の物理学者の竹内均訳「自助論」(2003年)で知った。東進ハイスクールの金谷俊一郎による現代語訳(2013年)が読みやすい。
要するに成功者の人生指南書。
1902年ジェームズ・アレンの「As a Man Thinketh」『「原因」と「結果」の法則』が自己啓発書のブームの先駆けとなった。
この頃は日本でも超常現象や神秘体験がブームになっている。
ここで自己啓発書の本質は「ポジティブシンキング、引き寄せの法則、とそのビジネスへの応用」であると断言してしまう。
そうすると自己啓発書の源流は「ニューソート」に行き着く。
『ニューソート その系譜と現代的意義』高橋和夫ほか訳、日本教文社、1990年1月より、その内容を抜粋しておく。
「New Thought」とは19世紀アメリカ合衆国で始まったキリスト教の流行の一つ。
カルヴァン派への反発で起きた異端的な思想。聖書の別解釈で、「人間の意識は宇宙とつながっている」とする。
1800年代の半ば、催眠治療家のフィニアス・クインビーの病気観(心で病気が治る)、クリスチャン・サイエンスの創始者メリー・ベーカー・エディが中心となって、ラルフ・ワルド・エマーソンの哲学を取り入れて普及していった。
これがアメリカにおいて「ポジティブ・シンキング」成功哲学や自己啓発のルーツとなった。
ジェームズ・アレンの2冊目「The Way of Peace」(1907年)はニューソートそのもの。
その後、インド呼吸法(ヨガ行者)、気息(プラーナ)の民間療法など取り入れはじめた。
日本では昭和初期に翻訳が出版されて、中村天風、谷口雅春(生長の家)、京セラ稲盛和夫、船井幸雄などに影響を与えた。
今の日本の自己啓発書は手を変え品を変え同じことを書いている。
最近の著者自身がわかって書いているのかはわからない。たぶん無意識。
その内容は、著者の広告、自己顕示、セミナー、商材の購入への引き込み程度。
こうなると無益どころか有害。
さらに、このニューソートは20世紀後半には疑似宗教「ニューエイジ」運動につながる。
80年代の音楽のジャンルにもあるね。(ヒッピーから始まったインストでイージーリスニングから変化した。自然系、癒し系、ヒーリング・・・ってやつ)
グノーシス※的・超越的な考えから、物質的世界から真実を得ることを目指す運動である。※「物質と霊の二元論」の地中海世界の思想
チャネリングという怪しい言葉を聞いたことがあるかもしれない。
ニューエイジ系の自己啓発セミナーも欧米を中心に盛んになってきた。
マクドナルドの創業者レイ・ロックの映画『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(2017年)The Founder(2017年)
レイ・クロック(マイケル・キートン)がいつも聞いているレコードが気になる。これはノーマン・ヴィンセント・ピールという元牧師の人が吹き込んだレコードで、『積極的思考の力(Power of Positive Thinking)』というレコード。これは自己啓発書の最初のもの。「アイデアを出せ。ビジネスでは成功した者だけが勝ちなんだ。戦いで掴み取るんだ!」(町山智浩さんの解説より)
日本でもセミナー、コース、「奇跡の~」、「夢を叶える」などという自己啓発セミナーもある。「自分らしさ」「気づき」「自分を愛する」「波長」などというワードが出たらそれ。
高度成長期にあったセールスマン向け「自分の殻を破る」「地獄の特訓」と大差ない。
この辺りになると集団催眠、洗脳、オカルト、スピリチュアルから新興宗教カルト、勧誘、詐欺まがい、マルチまがい商法になっていて批判も多い。
デヴィッド・フィンチャー監督の『ゲーム』(1998年)(原題: The Game 1997年)出演:マイケル・ダグラス、ショーン・ペン、は自己啓発セミナーを扱っている。
怖い。
まあ皆さんも気を付けて欲しい。自己啓発本もほどほどに。
なお、紹介した2つの映画はかなりおススメです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?