苦情とクレームー基準が決まれば管理できる。
労働災害に関して「ハインリッヒの法則」という物の見方があります。死亡事故1件の背後には29件の傷害事故があり、さらにその裏には300件のヒヤリ・ハットがあるという考え方です。「死亡事故が起きた以上、日常的にヒヤリ・ハットを見落としていたはずだ」と考えるのです。
管理レベルの低い組織ではそうした状況が放置されています。逆に管理レベルの高い組織ではヒヤリ・ハットを見落とさないような意識づけが行われています。意識するだけで結果は大きく異なります。
管理の基本は再発防止です。管理用語では「是正処置」といいます。「修正」が間違ったことを単に直すだけにとどまるのに対し、是正処置では、間違った原因を究明してつぶします。原因を無くせば、同じ原因でアクシデントは起きないというわけです。
ところが、管理レベルの低い組織は是正処置は行われず、修正だけを行っています。すると、同じ原因でまたアクシデントが再発するのです。何度も同じ事故を起こす組織、人は「是正処置」という物の見方を持っていないのです。
顧客との接点の多い現場には苦情やクレームがつきものです。その違いはあまり意識されていませんが、キチンと定義して明確に使い分ければ管理レベルが向上します。
まず、苦情とは「表明された内心の不満」という意味の言葉です。不満には表明されたものと表明されないものがあります。表明されなければ不満に気づけません。不満と苦情をこのように定義しておけば、「ひょっとしたらお客様は不満を抱えているかもしれない」と考えることができるのです。
また、クレームとは「要求を伴う苦情」という意味の言葉です。たとえば、アクシデントが起きて顧客から「おい、気を付けてくれよ!」と言われれば苦情ですが、「どうしてくれるんだ!弁償しろ!」と言われればクレームなのです。
これらの説明はハインリッヒの法則と同じ形式をとっています。つまり、不満、苦情、クレームの順番で問題が大きくなるので、できるだけ不満の段階で手を打つ必要があるということになります。
そのポイントは、できるだけ不満の部分を苦情として捉え直すようにすることです。苦情は、「表明された不満」ですが、「表明」とは必ずしも口で言うことではありません。不機嫌な態度、いつもと違った雰囲気なども「表明された不満」なのかもしれないのです。
顧客対応の良い組織・人は、苦情の些細な兆候を敏感に察知します。すると他の組織・人が気づかない不満に気づくことができるのです。その第一歩が、不満、苦情、クレームの違いを明確に知ることなのです。