風の面影
丘の上を風が吹きすぎてゆく。
風の向こう側を見たくて振り向いてみる。
正面しか見せない風に舌打ちする。
風は横目に私を見て吹きすぎてゆく。
風と対話したくて丘の上のベンチに腰掛ける。
ただすぎる風は私に興味はなさそうだ。
ならば風よ、お前は何故吹きすぎる。
私に興味がないなら消えてくれ。
その時の風にお前を見た。
優しい笑顔を見た。
包み込むような母性を見た。
あぁ、風よ。お前はあの頃の幸福で未来の幸福を妨げようとしているのか。
丘の上、ただ静かに風は吹きすぎている。
※堀辰雄の「風立ちぬ」よりのインスピレーション。
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