林の中のアトリエで僕は君を見つけた。 隣接するバレエスタジオでバレリーナの君。 緑輝く窓の外、君の息遣いが聴こえる。 僕は君の美しい姿にため息を漏らす。 バレエシューズの軋む音が好きだった。 この村は今日で最後ね、彼女は言う。 隣町に引っ越す彼女が恨めしかった。 僕は何も出来ずただ黙っていた。 山の麓の小さな村。 雨と火山灰の降る村。 その時湖面が確かに揺れた。 幼い頃の思い出。 君との別れ。 僕は全て忘れてただの石になりたい。
雨上がりの林道を僕らは歩いていた。 熱っぽい僕の手を程良く冷えた君の手が包んでいた。 裕福ではないが、僕らの心は満ちていた。 鮮やかな緑の中、僕らの心は幸せだった。 永遠の中の一瞬が淡く光っていた。 淋しさの中の灯りは点っていた。 2人の一瞬は思い出となり永遠の中に溶け込んでいた。 珈琲にミルクを垂らしたように薄く波紋が広がってゆくようだった。 淋しさも悲しみも君となら乗り越えられる。 いつまでも2人手を繋いでいよう。 神様はきっと2人に微笑みかけるだろう。 いつか訪れ
美しヶ原その先に僕は夢を追っていた。 淋しくも美しい音楽に包まれながら。 ユウスゲの咲くその高原に僕は想いを寄せていた。 まるで恋焦がれる人が僕に手招きするみたいに。 ねぇ、あの小さなバレリーナの天使は誰? 白く輝く万華鏡を覗いてごらん。 君も僕も誰かにとっては大切な人なんだよ。 小さなバレリーナは僕の心を運んでくれる。 天に伸びるあの道は誰かの足跡。 僕の夢はそれに習って進んでいる。 塔の下、見上げればいつでも僕の夢がある。 美しヶ原のその先で僕の夢は待っている。 君
今日僕は旅に出た。 小さな旅だったが収穫は大きかった。 見知った町でも知らない場所は結構あった。 見知らぬ少女が帽子を取って僕に挨拶した。 小さな林道のその先に教会は建っていた。 建物の中から軽やかで厳かな歌声が聴こえていた。 今、山が噴火しないか、僕は少し心配になった。 ささやかな歌声の中、山も僕も沈黙を守っていた。 変化の多い世の中で、この山の町は生きていた。 この先何年続くのだろう。 変化の中にも喜びを見出せれば良いのだが。 小さな喫茶店で僕は長めの休憩をした。
憧れは遠くの空に今でも響いている。 初夏の思い出にその身を委ねれば、 明日の活力は自ずと湧いてくる。 私の勇気よ、前を向いて歩け。 憧れは遠近を繰り返しながら私を揺さぶる。 刺激された私の魂は真昼の太陽のように白い。あまり人を疑うべきじゃない。 青い蟇はどうにも私の心にそぐわないのだが。 さぁ闇よ、その黒いカーテンを開け! 朝日よ、人生の表舞台へ光を刺せ! 人類よ、死ぬべきは今じゃない! 私の魂が光り輝くのは憧れがあるからだ。 憧れよ、現実の川面に浮かんで来い。 私は沈
丘の上を風が吹きすぎてゆく。 風の向こう側を見たくて振り向いてみる。 正面しか見せない風に舌打ちする。 風は横目に私を見て吹きすぎてゆく。 風と対話したくて丘の上のベンチに腰掛ける。 ただすぎる風は私に興味はなさそうだ。 ならば風よ、お前は何故吹きすぎる。 私に興味がないなら消えてくれ。 その時の風にお前を見た。 優しい笑顔を見た。 包み込むような母性を見た。 あぁ、風よ。お前はあの頃の幸福で未来の幸福を妨げようとしているのか。 丘の上、ただ静かに風は吹きすぎている。
あの山々の稜線を見よ。 枯れ木の連なりが雪を纏って鋭く天を仰いでいる。 あれは生死だ。生死を彷徨う者達の道標だ。 山頂の大蛇は死の淵にいる者全てを飲み込もうとしている。 生きる意思を持つ者は生き、絶望に苛まれている者は死ぬ。 私は生を生きる者だが、死を軽んじてはいない。 死は容赦なく我らを襲ってくる。 なぜなら人は生を諦めた者から死ぬからだ。 夏、あの稜線は深い緑に包まれる。 熱波が容赦なく吹く季節。 夏、人が簡単に死ぬ季節。 死の先に何があるのか。 私は死を恐れる者
船の帆は風に孕み、 自然の営みは何も変わらず、 変容を求める心の声は 今日も打ちつける波に掻き消される。 淋しさはただの淋しさであり、 悲しみもただの悲しみ。 苦しさも私を放とうとせず、 嬉しさは夢の彼方にある。 日々の不安は皆の心にあり、 先の見えない世の中に反吐を吐き、 額に髑髏の紋章を刻まれる。 風に吹かれる船は希望を捨てた。 闇に横たわる大海はただ荒れず、 静かに大いなるものを待っている。
印象を印象で上書きして今日の朝が始まる。 言葉が出てこない時、皆さんはどんな事物にインスピレーションを受けて言葉を紡ぐのだろう。 人生半ばにして知りたい事は沢山ある。 沢山あるくせに図書館に行っても、喫茶店にこもっても、街の雰囲気を味わっても、何も浮かんでこない。 いわば、感動がない。 不能だ。 旅にでも出れば、あらゆる場所に感動を覚えるのだろうか。 これは詩ではない。日記だ。あるいは手紙。 色々な人と繋がりたい。でもそんな勇気もない。 失礼極まりない事だが、皆さんの詩作の際
様々な苦悩が束の間溶け込む朝。 優しさの女神が奏でるビルエヴァンス。 一杯の珈琲と一本の煙草で心を満たす。 昨日の約束は今朝の現実に追いつけない。 長旅の疲れを長旅の始まりで掻き消す。 どこに行けば忘却の彼方に辿り着くのだろう。 寂しさの連鎖に涙を忘れた鳥は、 曇った大空を眺めながらただ佇む。 ワルツフォーデビイ、彼のために。 ワルツフォーデビイ、彼女のために。 ブルーイングリーン、みんなのために。 さぁ、朝は去った。 始めに鳥が鳴き、人々は船に乗り込んだ。 いつまでも
透明な冬の朝日に猫が寄り添う。 庭園には薔薇が咲き、強い香りを放っている。 哀しみは一行詩に戸惑い、 喜びは淡い紅茶に溶け込む。 白髪の老人に猫が寄り添う。 テラスのテーブルに焼き立てのパンが踊る。 詩にはならない苦しみは 濃いめの珈琲にゆっくりと描き合わせる。 寒々しい空は新たな氷を生み 今にも降り出しそうな雪を憐れみ 立春の季節に風を流す。 遥かな歌声は春の訪れにハミングし、 庭園の灯りは不思議な感じを醸し出す。 透明な冬の愛に猫は笑う。
いつも君の事を想ってる。 君が怒らなければいいけど。 お揃いの指輪は今も輝いているよ。 君が離れていかなければいいけど。 いつも君の事を考えている。 寂しさと嬉しさはコインの表と裏。 どちらが出るかはわからないけど。 君が愛おしくて堪らない。 電話はしないよ。メールもしない。 自分の気持ちを試してるんだ。 君の本気が知りたい。 自分の本気も知りたいんだ。 君が遠く離れても僕は耐えてみせる。 誰かが僕らの中に入る事は出来ないよ。 だって僕らは愛し合っているんだから。 神様
羽ばたく翼は朝日に溶けて 天高く飛んでゆく いくよ、いくよ、君のもとへ 闇夜を切り裂くナイチンゲール 美しい鳴き声で くるよ、くるよ、君のもとに 淋しさも悲しみもすべて投げ捨て 新たな明日のその先へ 煌めく波間にそよかぜ舞って 砂の音響いてく いくよ、いくよ、君のもとへ 月夜の晩にキラボシ輝き この街を明るく照らす くるよ、くるよ、君のもとへ 喜びも嬉しさもすべて包んで 新たな明日のその先へ
産まれた国や肌の色、性別を超えて、私は人を愛す。 嬉しさの絶頂にいる人も、哀しみのどん底にいる人も、分け隔てなく私は愛す。 感情から生まれる現実は不思議と連鎖する。 だから私は人を憎まない。 憎しみは連鎖してやがて自分に返ってくる。 自分が不幸になる。 短い人生、無駄な時間は過ごしたくない。 だから私は人を憎まない。 人を憎んだら私は鬱病になった。 つらかった。 人を憎んだ自分を憎んだ。 自分を許し、自分を大事にしたら、人は優しくなった。 だから私は人を愛す事にした。
11月の寒空に小雨降り出す朝。 ただ1人、喫茶店にてシベリウスを聴く。 こういう朝があっても良い。 誰とも喋らず、人生を疑いもせず。 冷めた珈琲を舌で転がす。 酸味が舌を刺激する。 大した珈琲でもないな。 我が人生のような味わい。煙草が吸えれば良いのだが。 曇り空は嫌いなので水を一口。 朔太郎を読みながら水を一口。 寒さには強いから水を一口。 珈琲は冷めてしまった。 誰にも話せない寂しさ。 明日はずるくなろうかな。
旅館の中庭で紅葉が赤く色付いている。 白い冬の手前、晩秋の匂いが立ち込めている。 漆黒のピアノからベートーヴェンのピアノソナタが流れてくる。 別れを惜しむ人々が涙する。 もう半月もすれば雪が降るだろう。 寒さの冬におろおろするだろう。 赤く燃える炎に手をかざすと、 懐かしさに未来を知るのだろう。 その曲の転調にアゲハは舞散り 身体は熱く滾り 死を心から呼び込むのだ。 さぁ、今日の朝焼けは雨を降らせ 一杯の珈琲は穏やかにその名を刻む。 その時初めて諸君は孤独から解放される