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#109 最近よんだもの(28) 婚活と嘘とソロモンの秘宝

「婚活マエストロ」(宮島未奈、文藝春秋)

 ページを繰るたびに読む喜びがじわじわとこみ上げる。もはやベテランの筆運びの感がある。昨年大みそか、成瀬が紅白歌合戦のけん玉チャレンジに出るかも、と思い見ていたが、今年(2025年)の年末の勘違いだった。「虎に翼」のミニドラマに米津玄師がカットインしてきたときは、身震いした。関係ないか。


「うそコンシェルジュ」(津村記久子、新潮社)

 味わい深く、油断のならない短編集。この著者は時代というものをどうやって捕まえているのだろう。表題作とその続編が最高。物語をつくるためのキャラクターだと、これほど面白くはなるまい。

「宝と夢と幻と」(西田茂雄・写真、古川順弘・文、国書刊行会)

 徳島は剣山にソロモンの秘宝を追った男の半生。充実した人生に、宝などはいらない。写真がとんでもなく良い。主役が魅力的なのは間違いないが、この男を追い続けたカメラマンも相当な酔狂なのでは。国書刊行会の社名は、相変わらず格好いいですね。


「地球と書いて〈ほし〉って読むな」(上坂あゆ美、文藝春秋)

 若き歌人による随筆。すごい。この人生にして開花した才能がなんといってもスゴいのだが、短歌というものの恐るべき懐の深さにも戦慄する。著者による「老人ホームで死ぬほどモテたい」(書肆侃侃房)もざっくり目を通す。歌会始とかに招かれないかしら。


「細かいことが気になりすぎて」(橋本直、新潮社)

 銀シャリ橋本の本。イラストは相方の鰻和弘、なんと帯は津村記久子。この人が本を買うYouTubeの番組も面白かった。お父様の影響か、読書家なんですね。

「小説」(野崎まど、講談社)

 涙が落ちた。真白い原稿用紙の前で内海集司は嗚咽した。情けなかった。自分は十分恵まれている。与えられている。なのに作文一つまともに書けない。恵まれた豊かな心が、自分を呪う言葉を際限なく浮かべ続ける。

 内海集司は俺だ。野崎まどの作品は初めて読んだ。小説というものについて書かれた、語る術のない衝撃的な傑作。うねるような展開、段間がないのに流れるように読み進める。本読みの方と創作に挑む人たち、そして宇宙の真理に触れたい方もぜひ一読を。ずいぶんと気持ちよく肯定されますよ。ただ読めばいいのだ。


 この冬読んだ本は、どれも場外級の大当たりだった。こんだけ当たってしまったら、年末ジャンボなんて当たるわけがない。津村記久子も野崎まども、キーワードは「嘘」。今年も、作家のみなさんの盛大な嘘を楽しんでまいりましょう。

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