#97 出雲蒸され旅(2) 蟹と魯山人
山陰の空は朝から嘘のように青い。米子のホテルを発ち、足立美術館を目指す。今どきのコンパクトカーは運転しやすいが、ナビにお任せとはいえ知らない道を走るのは苦手で、やはり気疲れする。ひとりは気楽と言えないこともないが、助手席に話し相手がいないのはさみしい。ポッドキャストやAudibleの歴史小説を聞きながらひた走る。
足立美術館は茫然自失となるような美しさだった。紅葉には少し早かったが、この庭園の美しさをうまく表現できる言葉を私は知らない。魯山人も大観も春草もいいけど、やっぱり庭だなあ。借景のスケールが違う。団体客が少々騒がしかったので、コーヒー1杯1,000円の喫茶室に逃げ込み、存分に堪能した。今回の旅行プランを立案した妻も、必ず連れてきたいと思った。魯山人のレプリカの皿は、また今度来たとき妻と相談してから買おう。
訪れた日は、常設展のほかにたまたま院展をやっていて、これはこれで実に楽しかった。「ブルーピリオド」(山口つばさ、講談社、既刊15)を読んで、創作の世界をほんのわずか垣間見ていたからかもしれない。「センスの哲学」(千葉雅也、文藝春秋)も、アートを楽しみたい方におすすめしたい。いや全然偉そうなこと言えた身分ではないですが。
再びハンドルを握り、松江を目指す。おお、こんなところに冥界への入り口、黄泉比良坂があるのか。看板を見つけちょっと寄ってみたい気もしたが、スルーした。
魯山人の器を見たからか、強い空腹を覚え、あらかじめ目星をつけていた敷居の低そうな寿司店へ。妻に申し訳ないと思いながら、蟹を中心においしいお寿司をいだだく。地魚の身の甘さに陶然とする。カニミソには、カニの身をほぐしたのがふんだんに入っており驚いた。
サウナにまだ入っていませんが、続きます。ほとんど日記ですな。老親の世話のため出雲旅に行けなかった妻をねぎらう温泉宿で、筆を走らせています。