#110 最近みたもの(7) 音を視る 時を聴く 寄席に行く
昭和のテレビっ子は令和の初老になった。年末の紅白にはじまり、数々のお笑い番組、ドラマは野木亜紀子の「スロウトレイン」を皮切りに大河「べらぼう」バカリズム脚本「ホットスポット」と、テレビをみまくっている。奥さんおすすめのヴェンダースと役所広司「PERFECT DAYS」もPrimeVideoでみた。しみじみとよかった。歳のせいか?
「音を視る 時を聴く 坂本龍一」(東京都現代美術館)
子どものころYMOが好きでよく聴いていたが、坂本龍一のアルバムは数枚買った程度で、それほど熱心なファンではない。と、思っていた。それでも晩年の演奏する姿や、社会的な発言や、未来を生きる子どもたちのための活動は、次世代のことを考え始めた年齢の自分の胸に迫るものがあった。
生前の坂本の展覧会構想を軸に構成された、多彩な音や映像のインスタレーション作品が多数展示されている。急な休みになった金曜日、開館間もない時間帯はほとんど並ばずに入場できたが、混んではいたと思う。あれだけの人が、それぞれの静謐な空間にいた。皆が染谷将太や二階堂ふみのような表情になっていた。没入型というのだろうか、坂本の世界に浸れる、よい展覧会だった。
曲名は後から調べて知ったが、都現美の展覧会プロモーション映像でも流れている、Parolibreが染みる。パロリブレって読むの?
熱心なファンではない、と書いたが、ずいぶんと坂本龍一の音楽に肯定されて生きてきたことを思い知った。励まされ、勇気づけられてきた。
坂本龍一は死んだけれど、そこにいた。喪失感は霧散し、もう彼はいなくならない、と確信できた。でも会期中に、もう一度会いにいきたいと思った。会場を出て、冬の青空の下を、Aquaを聴きながら歩く。涙があふれそうだが、流れ出ることはなかった。清澄白河駅を目指しつつ、蔦重の吉原はどっちの方角なのだろうと思った。
「新春壽寄席」(鈴本演芸場)
もうひとつ別の展覧会に行こうかと悩んだあげく、やっぱりお笑いかなと思い直し、大江戸線で御徒町へ。一之輔の高座を聴く。偉そうな言い方だけど、力の抜け方も入れ方も、本当に見事だなあ。気負ったところもなく、ただただ面白かった。ロケット団は元SMAPメンバーの名を巧みに盛り込み、桃月庵白酒もいい味を出していた。楽しいねえ。もう少し座席が広いといいんだけどな。
あの日から毎日、ずっと、坂本龍一を聴いている。なぜだかずっと晴れている。