『マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」』 冨田 浩司著
マーガレット・サッチャーは1980年代、アメリカのレーガン大統領やソ連のゴルバチョフ書記長などとともに当時の国際政治を主導したリーダーの1人。
本書は、サッチャーの幼少期から首相引退後のイギリス政治にまで触れ、彼女の政治家としての優れた資質や政治手法の先進性を明らかにする。また、今の日本にもつながる現代政治の現状や課題を浮かび上がらせている。政治に興味がある人だけでなく、組織でリーダーの立場にある人にとっても得るところがある本である。
外交官である筆者は、豊富な文献や資料を基に、サッチャーの幼少期からの出来事を筆者の分析を加えながら描写していくが、レーガン大統領を始め各国首脳などとの関係を「相性」という視点でも捉えているのは面白い。
サッチャーの政治家として特筆すべき点は「強い信念」である。自らを「確信の政治家」と評して憚らなかったということであるが、この強い信念が、“機会を捉える勇気(決断力)”につながっている。
フォークランド紛争の際には、軍事に関して全くの素人であったにもかかわらず、奪還に向けて「作戦艦隊」を組織するという海軍参謀長からの提言を即決している。
また、強い信念は政策の一貫性にもつながる。当初は成果が出なかったものの、国営企業の民営化など「サッチャリズム」といわれる、現在の経済政策の先駆けとなる施策の実施や労働争議の解決などの実績を上げている。
そして、最後に、政策的に正しければ人々に望まれないことでも実施するという「愛されることを望まなかった態度」(筆者はそれを“知的真摯さ”と表現)である。サッチャーの首相辞任につながった人頭税の導入がこれにあたるのだろう。
夏目漱石の『草枕』の冒頭の言葉は“知に働けば角が立つ,情に棹させば流される”。であるが、リーダーになることは、“角が立つ”ことを恐れず、自分の信念にしたがって行動することも必要ということである。