【レビュー】映画:461個のおべんとう

ミュージシャンの父が、息子が高校に通う3年の間、毎日おべんとうづくりをした記録。

「これは毎日のおべんとうについての話だ
それ以上でもそれ以下でもない」

冒頭にも最後にも、この語りが入るように、いたってシンプルな話だ。



高校入学時、父が毎日欠かさずおべんとうを作る代わりに、息子は毎日休まず学校へ行くことを約束した。


おべんとうを通して、今まで息子にあまり干渉してこなかった父と、反抗期を迎えた息子の心の交流が進んでいく。


両親が離婚し、受験に失敗して高校も1年遅れで入学した息子の心境は複雑だ。
自由な生き方をし、好きなことをやれという父親をなかなか受け入れられない。

大学受験を控えたある日、息子は無断欠席をしてしまう。

現実逃避した息子を引き戻してくれたのも、家に残された父のおべんとうだった。

「やっぱり父さんのおべんとうだ」
父の愛情を噛み締める息子の表情が何とも言えない。


高校のおべんとう最終日のシーンは、卒業式にも勝る感動的な場面だ。

3段のおべんとうに敷き詰められた、色とりどりのおかず(おかずは材料から作るが父の信条)はまさに3年間の集大成と言える。

その出来栄えに、同級生も思わず唸る。

3年間の学校生活のそばにはいつも父のおべんとうがあった。走馬灯のように思い起こし、思わず涙が溢れる息子。


ラストに、「大学でのお昼ご飯も父さんのおべんとうがいい」、と言う息子に対して、父は「友達と学食で食べる時間も大切だ」と答える。

おべんとうを通して育んだ二人の絆、これからはおべんとうなしでも繋がっていくはずだ。


さすがミュージシャンが作るおべんとう。
彩りも考えられた一つ一つはまさにクリエイティブな作品。

100円ショップで買ったもので調理器具を自ら編み出したり、いきつけの料理屋の秘伝の卵焼きを習ったり、大変なはずの作業も楽しんでいるところも好感持てる。


お弁当作りもどうせ続かないと思っていた息子も、美味しくてバリエーション豊かなおべんとうのおかげで同級生との距離も縮められた。



「たかがお弁当、されどお弁当」

お弁当の持つ豊かな力とそれにまつわる人間模様にフォーカスした、心温まるストーリーだった。



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