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終わりの言葉

おそらくHSCと思われる長女の事を、少しだけ書きたいと思います。

長女は、夫の赴任先の台湾台北市で生まれました。三歳になるまで、台湾や中国などの中華圏で過ごします。台湾人も中国人も、みんな子供が大好き。彼女は、いつもご近所さんや道行く人達に可愛がられて、誰かと目が合うと、たとえそれが強面の左官屋さんの集団だったとしても、にこやかにバイバイをするような、目立ちたがり屋で活発な子でした。娘を連れていると「天真爛漫」とよく言われて、天真爛漫は中国語の日本語読みだったのだと気づいたことを思い出します。

それが、帰国して小学校に入学してから、彼女の性格に変化が見られました。集団の同調圧力を前に、彼女の天真爛漫さが消えていきます。でも、日本に住むのは、そういうこと。割り切っていたつもりだけど、寂しくもありました。

低学年の頃、事件は起きました。小学校の掃除の時間に、体の大きな男の子に頭を打たれて、その子の友達にも蹴られたのです。掃除をしない男の子たちを娘が注意したためでした。ケガはなかったけれど、親にも手を上げられたことがない娘にとっては、相当ショックだったと思います。当時の担任の先生は男の子たちを注意してくれましたが、状況はあまり改善しなかったようです。その後も、同じ男の子に足を引っ張られたとか、その仲間の男の子たちがトイレの前にいたから怖くてトイレから出られなかったとか、そんな話を娘から聞きました。

その頃の個人面談で、担任の先生から「娘さんは私と話してくれません」と言われた時の衝撃は、忘れることができません。私は、娘が担任の先生と話せないことを、その面談の時まで知りませんでした。娘は、おそらく恐怖心から、先生やクラスメイトの一部と話せなくなっていたようです。

「スクールカウンセラーの制度があります」という先生の言葉。それは、まるで娘に問題があるかのようでした。担任の先生には、WISC検査を受けるように勧められます。娘の苦手分野を明確にして、学校で必要な支援を受けさせるためとのこと。巷では、知能検査とか、発達障害を調べるためのテストと言われている検査です。先生にとって、娘は話ができなくて扱いにくい生徒だから、個人指導ができるような支援学級に任せたいのかな。何となく、そう思いました。

その頃、初めて「場面緘黙」という言葉を知ります。勉強のために、こちらの映画を見ました。

家では家族とちゃんと話しているように見える娘が、本当に学校で話していないのか。分からないことばかりだったけれど、夫と相談して、WISC検査を受けさせることはしませんでした。娘に自分が他の子と違って特別な検査を受けるような子だと捉えてほしくないという思いと、学校の先生方に、彼女の苦手な部分を支援するなどの特別扱いをしてほしくないという思いがあったからです。

人は環境によって、こんなにも見られ方が変わってしまう。娘が「天真爛漫」から「場面緘黙」に変わったように。環境というより「人」により変わったのでしょうか。学校の「人」は変えられない。それなら、学校以外に活躍できる場所があれば、少しは気持ちが晴れるのではないか。

そう考えて、それからは中学受験塾に行かせてみたり、男の子を怖がらないようにするために武道を習わせてみたりしました。かなり時間はかかりましたが、塾の先生のおかげで少しずつ勉強に自信が持てるようになってきたようです。護身術のつもりで習わせた武道だったけれど、思いがけず、武道の師範のおかげで普段から大きな声が出せるようになっていきました。

学校では、学年が進むにつれてクラス替えや担任の先生の交代もあり、クラスでの環境が彼女にとって次第に心地よいものになっていったようです。

最近、コロナが収束したこともあり、学校の行事が久しぶりに開かれることになりました。父母も観覧する一大行事で、なんと彼女は学年を代表する「終わりの言葉」に自分から立候補したそうです。

「終わりの言葉」で話す内容は、作文にして担任の先生に手直ししてもらいました。それを覚えて、行事の最後に一人で舞台に立ち、台本を見ずに喋るのです。家のお風呂場で一人で練習しているのを知って、「大丈夫?」と聞いたら、「すごく緊張する」と話していました。でも、どこか楽しそうに。

当日、彼女は舞台の上でマイクの前に立ち、スポットライトを浴びて、一分半ほどの「終わりの言葉」を言い切りました。一度も間違えることもなく。もともと目立ちたがり屋の性格なのに、数年前まで先生ともクラスメイトとも会話できないと言われていた娘。でも、その時、本来の彼女の姿がそこにあったような気がしました。

これまで、学校ではいろいろあったけれど。彼女はそれを乗り越えられたのかな。それとも、彼女を取り巻く「人」が変わっただけなのかな。どちらにしても、娘に自信をつける機会を与えてくれた学校行事に、心から感謝しています。

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