映画館の思い出
一番最初に映画を観に行ったのは、家族全員揃ってのものでした。
それから成長に伴い、兄姉と行くようになり、友人と行くようになり、そのうち一人でも観に行けるようになりました。
私は、映画が切り替わるたびに観に行っていた常連客の一人だったので、当時はスタッフとも顔見知りでした。
スタッフ『あっ!来たね。新しいの始まったもんね。あー、でも前のがあと20分掛かるから、少しだけそこに座って待ってな。』
売店の横にあるその席は特等席で、エアコンも効いているし飲み物や食べ物が近くで手に入る特別な場所でした。
お客さんが居ない時は、子供の暇つぶしにといろいろお話ししてくださったのを覚えています。
市内には3つの映画館があったのですが、偶然にもそのうちの1つで父の友人が館長を務めていました。
また、別の映画館でも父の知人が働いていたため、私が映画を観に行く日がわかると、父がこっそり電話でお願いをしていたようなんです。
初めて一人で映画を観に行く日の朝、父はお金とチケットと共に父の名刺をくれました。
裏には手書きで『よろしくお願いします』とだけ書かれていて、何をよろしくなんだ?と思った記憶があります。
きっと、家の子が初めて一人で映画を観に行くようだから、何か困っていたら助けてやってください。とでもお願いしていたのでしょう。
映画館に着くと、館長さん自らがお出迎えしてくれた記憶があります。
父は昔気質の人でしたが、時々こっそりとこういったサプライズをしてくるような人でした。
ある日、映画館に行くと、受付スタッフの方から子供映画のグッズやお菓子の入った袋を突然手渡されたんです。
私が驚いていると、そこに通り掛かった館長さんは笑ってこう言いました。
館長『ああ、それね。昨日、お父さんが近くに仕事で来たからって、ここへ寄って先にお金を払って行ったんだ。だから、家に帰ったらお父さんにお礼を言うといいよ!』
あの時は、ちょっと照れ臭かったけど、私と映画館には、こうしたたくさんのいい思い出があります。
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