
「エクソシストを堕とせない」が良すぎる
漫画とか映画の感想はあまりうまく書ける気がしないけれど、ジャンプ+で連載中の「エクソシストを堕とせない」を1話から最新の83話まで、1日で一気読みしてしまったので感想などを書いておく。
神に選ばれし少年は、最強のエクソシストとして魔王たちと死闘を繰り広げていた。人類の命運を背負いつつも本当は静かにお菓子作りをしていたい、そんな彼に訪れた一人の少女との出会い…。これは壮絶な聖戦の中で芽吹いた、恋と希望の物語。
作品紹介を読むとほんわかラブコメかな?と思うのだが、7つの大罪をテーマのひとつにとっており、それを現代の問題に落とし込むとどうなるかをうまく描いている。「反出生主義」を「怠惰」に位置付けるなどはすごく面白い解釈だと思った。(産まない増やさないは神の御言葉に反する!とかそんな単純な話にはしていない)
7つの大罪ーー暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬は、結構現代社会では「人間ってそういうものだから仕方ないよね、無理せずいこう」というか、しょうがないものだしあまり否定せずに自然にしていた方がストレスがないよね、みたいな受け入れられ方をしているように思う。同性愛もキリスト教ではものすごいタブーだけども、今やLGBTQの権利保護や理解促進はキリスト教全盛期の中世の人が見たら卒倒するくらい当たり前に正しいこととされている。作中ではそれらの他にも、キリスト教のいろいろな問題に切り込んでいる。それらを今後どう解釈し、まとめていくのか、とても楽しみ。
作中の7つの大罪の魔王たちはまあ、悪魔なのでクズではあるのだが、どこか憎めないキャラクターをしており、魅力的な悪役として描かれている。逆に迫力あるバトルシーンなどでは、主人公の神父くんをはじめとするエクソシストたちの方が恐ろしい悪魔のようだと感じさせるシーンがある。(バトルシーンの見開きのコマなどは本当に描き込みが細かく、かっこいいものが多い)
「善悪とは?」という哲学的で難しいテーマにも迫るが、「堕とせない」というタイトル通り、このお話の大きなテーマとして主人公神父くんとヒロインであるイムリの恋愛がある。その進展を見るのもまた楽しい。親や教会からの凄絶な虐待、エクソシストとしての任務など、16歳にして過酷な人生を生きてきた神父くんが恋をしたときの感情や世界の見え方の変化も、少しずつ丁寧に描かれていて、説得力がある。
(恋愛や性が大きなテーマになっているので、性描写もあり、そしてそれがポップなものではなく主人公にとって重いトラウマとして描かれているので、苦手な人は読んでいるとめちゃくちゃ苦しくなるかもしれない)
結局「難しいこと考えるより恋しよう!生きてる今を楽しもう!」みたいな着地になるのだろうか……そんな雑なことにはきっとならないだろうけど。作者のお二人(原作:有馬あるま先生、作画:フカヤマますく先生)が、圧倒的な画力と丁寧なストーリーテリングで読者を納得させる結末を用意してくれることを期待している。
第5章が終わった現在、恋の力じゃ片付かなそうなくらいお話は深刻になってきているが、どうかどうか、神父くんが幸せになる結末を迎えてほしいなと思う。隔週連載を楽しみにしたい。そしてもっともっとこの漫画が注目されることを願う。
(#エクソシストを堕とせない のnote投稿、20件もなくてびっくり……素人としてはぜひ哲学や宗教学を学んでいる方に読んでいただいて、たくさんの感想や考察を見たい)