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異界駅日記2 『く×がく×駅』

2022/04/18
何だか駅が混んでいるなと思ったら、新一年生らしき学生たちでホームがいっぱいだった。いつもの時間には乗れないだろうから、乗る電車を一本遅らせることにして、ホームの椅子に座って『つげ義春コレクション』を開いた。つげ義春の描く、全く楽しそうに見えない旅漫画が好きだ。

視界に人の影が映り込んできてぱっと顔を上げると、うちの学校の制服の女の子が立っていた。不安そうにこのホームで待っていて大丈夫かを聞いてくる。新入生だな、と思いながら「大丈夫ですよ」と答えると、お礼を言って去って行った。

私はたびたび、学校の最寄駅でないところで降りてまっすぐ学校に行かないことがあるから、私のあとに着いて降りなくてよかったなと思う。

ここのところ、いつも考える。
私は、間違えておかしな駅で降りたまま 間違った町で暮らしているような気がする。それを周りに悟られないように、人間でないことがばれないように生きているように思う。
不安になって、袖口の自分の匂いを嗅いだ。いちばん好きなクロエの香水の匂いがして、長く溜息をついた。

乗り慣れた車両がホームに入ってくる。乗り込んでからイヤホンを両耳に押し込んだ。人の声を聴きたい気分ではなかったから、渋谷慶一郎の「Scary Beauty」を聴く。アンドロイドの唄声を聴きながら、ずっとどこにも着かない電車に乗っていられたらいいのに、と思った。


帰り道、「く×がく×駅」(聞き取れないし看板がない)で降りて、公園でひとり桜を見た。空が夕暮れのオレンジから、夜の藍色に変わっていくのを眺めた。空を蝙蝠が一匹飛んでいた。

ちかちかと明滅する電灯の下で、『八本足の蝶』を読み終わった。本当に没入していたから、ここ数日著者と感覚を共有しているようだった。その分、自分の中の希死念慮も化け物みたいに大きくなってしまった。

「私」に結論が出るのはいつなんだろう。
蝙蝠もどこかへ行ってしまったので、電車で家まで帰った。明日もまた「私」は続いていくんだなと思ったら、寂しくなった。

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