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コスパ最強のアトラクション「大回り乗車」をバズらせてはいけない
中学生の息子が友達と「大回り乗車」に行くという。片道一駅分200円以下で、1日中鉄道に乗れるらしい。そんな訳ないだろうと思って調べると、JRも公式に認めている乗り方の様だ。要はJR各路線を改札を通る事なく乗り継ぎ、一筆書きのように駅を重複する事なく出発駅の一駅隣りに戻ればいい。色々条件はある様だが。息子の予定ルートは8路線をたっぷり9時間かけて廻るというもので、運賃はわずか170円だ。
これは凄い。
周知の通り鉄道車両は、熱心なファンや子供にとってテーマパークの乗り物にも等しい。その鉄道車両に乗って、わずか200円以下で県跨ぎの旅を一日中楽しめる。控えめに言って、世界でもっともコスパの良いアトラクションである事は間違いない。鉄道オタクでも何でもない私でさえ話を聞いてワクワクするくらいだ。
しかし素朴な疑問がある。この大回り乗車に対する当のJRの見解はどうなのか?普通に考えて、ある意味単なるタダ乗りに思えるが…。大回り乗車はJRの公式な呼び方ではない様だが、親切にもそのルートはHPに記載されている。経緯はおそらく、こうではなかろうか。
①昔から、ファンの間には大回り乗車なる裏技があり、それなりに行われていた。
②JRはそれを止めて欲しかったが、なす術がなかった。改札を通らないのだから止めようがない。
③どうせ止めようがないのだから、JRは逆に「このルールなら大丈夫です」をさりげなく公表する事にした。
④こうして、一部の鉄道ファンは、後ろめたさを感じる事なく大回り乗車を楽しめる様になった。
⑤お墨付きを貰った一部の乗り鉄たちは、ブログやYoutubeで大回り乗車の楽しみを盛大に投稿する様になった。
⑥スマホを与えられた全国の一部の鉄道キッズ達は、乗り鉄系Youtuberを通して大回り乗車と出会い、その計画を立てる。
⑦その計画を聞いた一部の親達は、不思議に思うが調べると違法ではない。むしろ家でスマホばかり見てるより健全で子供らしい。そしてお金持もかからない。良い趣味ではないか… これなら老後の趣味にももってこいだ。いいぞ…うんうん。そうだ、両親にも教えてあげよう。いつも暇そうだし…
⑧「もしもし、父さん?大回り乗車ってのがあるんだけど… えっ?もう知ってる?来週行くって?母さんと?えっ…町内会の人達と? 何人…?えっ…30人?いや、団体割引?…いや、流石にそれはないと思うけど…」
JRの人達は、大回り乗車を楽しみたい人々の気持ちを誰よりも理解している。何せ彼ら自身が鉄道好きなのだから。しかし、営利団体として、事実上の無賃乗車を奨励する訳にはいかない。これは、鉄道ファンに対する愛情溢れるお目溢しなのだ。
そしてこの状態は、大回り乗車の利用者が、とはいえごく少数である事で均衡を保ってる。
しかし私は知ってしまった。鉄道ファンで無いにも関わらず興味を持った。昨今の値上げラッシュに気を揉む庶民として、この尋常でないコスパに心を惹かれるのは自然な流れだ。そして、私同様大回り乗車に興味をもったごく普通の人々は、上記の如く親に勧める事もあるだろう。
考えてみて欲しい。日本の人口ピラミッドで構成比の多くを占める団塊世代はすでにリタイヤして、暇を持て余している。必ずしも老後資金が潤沢で無い彼らに大回り乗車が知れ渡ったとしたら…
上記の想像はあながち間違っていない。
そうなると、もうJRも思い腰を上げざるを得ない。大回り乗車は禁止だ。今の技術を駆使すれば、大回りの乗客を検知することなどは容易い。
こんな未来を避けたいなら、大回り乗車のことは誰にも言わない事だ。そして、身近な人とひっそりと楽しめばいい。
日本が誇るコスパ最強のアトラクション「大回り乗車」をバズらせてはいけない。
noteに投稿するなど、もっての他だ。
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