「灯籠祭り」 小説 本多裕樹
「灯籠祭り」 小説 本多裕樹
うやむやにして、だらしなく日々を過ごしていた。描きかけの画布の絵を見ながら夕日を眺めるように眠たい。この前、女友達から花火を見ないかと誘われたことを、思い出しつつ、まどろみを旅する。その女の子は、友達以上恋人未満の関係の契約彼女だった。その人に会いに、電車で遠く旅をする。普段着で、ワイシャツにチノパンにベルトを締めて帽子をかぶり川辺の駅まで電車にゆられる。
「なぜ、こんなことになったのだろう」そうつぶやきながらウイスキーを舐めながら夕刻から夜の世界にいく。そうすると、灯火が点々と点きなんとも幻想的な空間が広がっていく。
「灯籠祭りに行こう、君に見せたいものがあるの絶対いいところだよ」そう言われたところはこれか、私は電車を下車し駅改札口で待ち合わせしタバコに火を点けた。煙をくゆらせながら女の子を待つ。「きっと君にとっていい思い出になる絶対来てよね」その言葉を思い出し、ヤニを脳に入れ込む幻想と夜の妖しげな世界を探訪する。「やあ、」
「おう、」
彼女は浴衣を着ていた。大人びた控えめな色、ほとんど染め物の藍染と言っていい。花の紋様があしらわれていて、大人の美しさが醸し出していた。メガネに頭髪はいつものように清潔に締まっていた。私はタバコを地面にねじ伏せ火を消した。吸い殻はコンパクトサイズの鉄製の箱に入れて捨てた。しばらく、浴衣にみとれて異次元を彷徨った。
「どう、浴衣」
「いいんじゃない。」
「じゃ行こう、今日は私が先輩だからね」
「ああ、」
「君は服、いつもと変わらないね。」
「そうだね。じゃ行こう」
われわれは駅を出て、幻想の街に行く。非現実の世界にもう後戻りはできない。何か妖しい幻惑の世界に二人は歩き行く、彼女はいろいろ話しているようだが、私はうんうんとうなずいてEラーニングしていた。しばらくすると神輿のような本格的な祭りの様子に踊りだのなんだのあった。
「君にこれを見せたかったの、いい絵が描けるといいね。ほら、川を見て灯籠だよ、」
「ああ、」
ここはもはや自然光もなく火の光のみの空間が何か妖しさも魂の慰霊でもあるのだろう。死者の祭りであるのだ。
「おう、そこの」
「はい、ご夫婦の方よ、かき氷はいかが」
「はい、ブルーハワイ二つ下さい」
「はいよ」
かき氷を彼女に一つ渡して「いいの、」「どうぞ、」「嬉しいわ」
「私たち、夫婦らしいね」
「お互いいい歳だからね、そう見えて常識の目があるのだろうよ」
「そうなのかな」
「今度、何かおごらせてね」
「・・・・。」
「ほら」
夜空は花火でいっぱいだった。死者たちの天への、もしくは極楽浄土でも言おうか。その神輿の行方、
「ほら、ほら」
私は沈黙して、その夜の花火を眺めた。途中、ビールを買い求め飲みながらこの彼女のことを少し考えた。
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賑やかだった夏の灯籠祭り、「そろそろお腹すかない」
「そうか、何も食べてなかったっけ」
「君にとっておきのお店紹介してあげる」
「何、」
「駅まできて、君、もう帰るでしょう」
そうして中華料理屋に入った。祭りの途中ではある所為か席がちょうど二つ空いていた。
「オーダー決まったかい」
「ええ、」
そして、注文して、彼女の話をただひたすら聞く、それだけでなんだか楽しいものだ。私は頑張って語らなくていい。何を話しているのかさまざまであった。ラジオを聞く感じだ。それでその話に相槌を立てたりうんうん言ったり、中華料理を楽しむ、そして「君に餃子を二個分けてあげる。かき氷のお礼、あと、これはお願いだけど、君の知っている本格中華料理屋を紹介して、そして一緒に行くこと、いいね」
「ああ、いいよ」
それで会食は終え、もう夜が暗い、祭りの名残はあるものの、「送ろうか」
「いいわ、家の車が待っているから、」
「そうか、」少し心配になり私はポケットから魔除けの石を彼女に渡す。
「何、これ」
「これはね、無事家に帰れる魔除けの宝石だよ」
「これ、もらっていいの」
「いや、後日、返してもらえればいい」
「わかったわ。ありがとう。またね、」
「じゃあ、」
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そうして、私はまだ、空いているのか夜の電車に乗って自宅に帰るのだった。何か不思議な体験だった。
ウイスキーの瓶を取り出して舐めながら食後のお腹の調子を整えつつ、果てしなき旅を迂回するのだった。
「今日は帰宅したら、すぐ寝よう」明日もまた制作なのだ。
そうして夜の電車は闇に消えていくガタンゴトンの音とともに静かで沈黙の果てまで、
2024年9月9日 本多裕樹しるす