短歌連作「おはようトースト」

「おはようトースト」


望まれずに産まれたワタシが望まれて海に捨てられタツノオトシゴ
 
 
統計によればすなわち私よりあなたのほうが先に死ぬ あなたが
 
 
ミッキーはなんたい? ランドとシーを持つ人間は嘘をつけない(はず)
 
 
この街は光ばかりで暗闇をさがす私がかき消されるの


スグ電を心で受けたあの日から上手く話せなくなったような
 
 
新訳にすっ飛ばされたメルヘンを拾い集めて生きていくんだ
 
 
のぶ代ではなくてわさびのからだから、それいわれてもわからないから。
 
 
すこしずつ青酸カリを盛りながらにこりにこりと微笑むにこり
 
 
キスキス なに、今日ちょっとうるさいモード?でもかわいくてすきだ キスキス
 
 
数をこなすことしかできないからさいつまでたっても孤独なままだ


ひさかたの【テディデキャンタ】担当が姫にささやくホスピタリティ
 
 
夜明け前あなたがふかす金マルを一本盗んでみたいと思う
 
 
後朝のごとつややかに蜂蜜を塗り広げたり おはようトースト
 
 
『これは彼氏に頼まれて買いました結婚したいです』とのレビュー
 
 
肉体はどこまで重ねられるのだろう わたしは海になりたかった
 
 
あの人はいつか私が死ぬときにいちばんそばにいてほしい人


がんばるよ おうえんしてよ ほら わたし 誰かの道具になる時間だよ
 
 
ふーあむあい おどうぐばこにつめられてももいろピンクに染まっていくよ
 
 
すり減ってゆくただそれだけのからだ マニキュアは黒 わたしはわたし
 
 
恋人のそばでも眠れぬ日があって思い出せないぬくもりを知る
 
 
「忘れろ」としきりに話す友がいて「忘れられぬ」と返す吾がいて
 
 
またねとはさよならまでのヘルプだと言われればそうおもえてしまう


予測変換の候補として生きる たとえ堕ちてもうつくしいから
 
 
追いかけても(追いかけても)届かない世界にたったひとりでいるよ
 
 
 


初出:つくば現代短歌会『つくば集 第二号』 2022年



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