次の時代の日本型雇用
次の時代の日本型雇用とは?
まず、”日本型雇用”とも呼ばれる雇用形態とはどのようなものか?
それは、ポスト可変型であり、企業が強力な人事権を持つという点が最大の特徴だ。終身雇用も新卒一括採用もポスト可変型の結果であり、本質的なポイントはポスト可変型にある。詳しくは、以前の記事でわかりやすく説明しているため見てほしい。
さて、次の時代の日本型雇用はどうあるべきか?
雇用は複雑に絡み合い、一言では言えないため、日本型雇用の慣行を維持すべきか廃止すべきかという観点で考えていく。
・ポスト可変型は維持すべき。ただ、途中からポスト固定型(ジョブ型)に移行できる選択を設けるべき。
・新卒一括採用も維持すべき。
・終身雇用と年功序列、定年制は廃止すべき。
以上が結論となる。
ポスト可変型
まず、日本型雇用の真髄であるポスト可変型は維持すべきである。
職業未経験者でも就業機会を得ることができるからだ。これにより、特に若年層が就業機会を得やすいこと、学生が学業に専念できるというメリットがある。また、全員に昇進昇給の道が開かれる。
ポスト可変型の対極にあるポスト固定型(ジョブ型)では、ポストで雇われる。そのため、職業経験のない人が就業機会を得ることは困難だ。ポスト固定型の国の学生は、就業機会を得るために、学生のうちに1年や2年の長期インターンと称した業務訓練を行う(かなりの低賃金)。もしくは、公的な職業訓練所での業務訓練を行い、はじめて就業機会を得ることができる。また、昇進昇給するためには自らポストを変える必要がある。移動したいポスト先が空かなければ昇進も昇給もできない。
対して、ポスト可変型であれば、ポストではなく、人物の将来性や企業との相性などで雇われるため職業経験が必要とされない。そのため、学生は学業やその他の活動に専念することができる。そして、企業が人事権を使い、企業内の玉突き人事で上位ポストが回ってくることもあり得る。
ポスト可変型には大きなメリットが存在するが、全員にポストが上にも横にも開かれているがゆえ、長時間労働、勤務地変更という働き方が前提となる。長時間労働、勤務地変更に応えられない高齢者や女性(女性が伝統的に家事の役割を担ってきたため)を排除してきたのがこれまでの歴史だ。また、女性と高齢者を排除しても、長引くデフレ下でポスト可変型のメリットを維持できなくなったため、非正規という形での排除も行ってきた。
だからこそ、次の時代の日本型雇用では、この問題を解決する必要がある。解決法は、ポスト可変型の中途ポスト固定化だ。言い換えれば、ポスト可変型からポスト固定型に途中で移動できる制度を設けることだ。これは会社と労働者のどちらにもメリットがある。
なぜポスト可変型において女性や高齢者、非正規を排除してきたか?それは、全員に昇進昇給の道を用意したためだ。そのため、全員にこの道を用意しないのがポスト可変型の中途ポスト固定化だ。
労働者は10年、15年と働ければ自分の立ち位置や可能性というのがある程度見えてくる。その段階でポスト固定型に移行する選択肢を提供する。そして、ポスト固定型に移行した労働者は、そのポストごとに決められた勤務地で決められた仕事をこなせばよいため、長時間労働にもならなければ、勤務地変更も発生しない。しかし、決められた仕事をこなせなければクビになるうえ、昇進も昇給もない。このメリットとデメリットを勘案したうえで労働者は今後のキャリアを選択することができる。
ポスト固定型が増えれば、会社側は人件費が抑えられ、労働者は多様なライフプラン、キャリアプランを選択することができる。
また、社会全体として職業未経験者でも就業機会を得ながら、長時間労働、勤務地変更という働き方が前提にならないことで、これまで排除されてきた人たちの処遇を改善することもできるだろう。
新卒一括採用
既に述べたように職業未経験者でも就業機会を得ることができるのがこれまでの日本型雇用のメリットの1つだった。そして、これは雇用の前提として維持していくべきと私は考えている。その前提で考えれば、職業未経験の学生を卒業時に採用する新卒一括採用という慣行は会社側からしても学生側からしても合理的なやり方だろう。
終身雇用
従業員の会社に対するエンゲージメントが高いかどうかという点は経営において非常に重要な側面だ。このエンゲージメントという観点から考えると、終身雇用は従業員のエンゲージメントが低い原因となっているとする研究結果が多い。もちろん終身雇用で雇用を保証したうえで、エンゲージメントを高められれば良いのだが、それは容易なことではなく、多くの企業にとっては終身雇用を廃止した方が従業員のエンゲージメントを高めることができるのではないか。
しかし、極端に有期雇用にしたり、短期での成果を求めたりするようにしてもいけない。そもそも、会社の存在意義も、働くことの本質的な理由も、社会を支え、より良くしていくためにあると私は考えている。社会をより良くするためには長期間かけゆっくり進める必要があるものも多いだろう。例えば、ユニクロのヒートテックなどで使われている繊維、あれは東レの長期戦略があってこそだった。
とは言え、従業員のエンゲージメントを高めるためには終身雇用は廃止していくべきだろう。廃止したうえで、会社は従業員とどう向き合うかという点は課題になる。
年功序列
年功序列とは本来、職能資格制度のことでありで、自己研鑽をし、能力を成果に繋げればポストが上がらずとも昇給できるというシステムだった。しかも、これを提唱した楠田氏は、職能ランクアップから2年が経ったら、職能ランクを見直し、能力が足りてなければ職能ランクを降格させるように運用すべしとしていた。しかし、この点がおざなりになり、職能資格制度は次第に機械的な年功序列に陥ってしまった。これにより、生産性の低い中高齢層が生まれる。
だからこそ、年功序列は廃止すべきだ。機械的に年齢により給与を決めるのではなく、能力や成果で給与を決め、定期的にその妥当性を評価する必要がある。そして一番大事なのが、楠田氏が提唱していたように、一度上げた給与から下げることも行わなければならない。
定年制
最後に定年制も廃止すべきである。年功序列の項で、生産性の低い中高齢層が生まれると説明したが、企業にとって欠かせない中高齢層が存在していることももちろん間違いない。しかし、そんな大事な従業員が定年という理由だけで退職をしなくてはならない。そもそも、欧米では定年自体が禁止されている国も多く存在する。働ける人、働きたい人は働けばよく、退職したい人は退職する。これを年齢にこだわらず行える社会になればよいだろう。
定年制は、新卒一括採用とセットで企業という組織の安定を生んでいるという側面もある。定年制が存在すれば、毎年退職する人数が把握しやすく、それに応じて新卒を採用する人数を決め、空いたポストを企業側が人事権を発動し玉突きで動かす。これにより、組織が安定すると同時に、労働者は昇進の機会を得ることができた。
定年制を廃止すれば、このメリットが解消されてしまうかもしれないが、人手不足の現状なら問題はない。高齢層が会社に残ろうとも、多くの企業にとっては人手不足であり、どちらにしろ新卒採用は必要になるだろう。
つまり、人手不足の現在、定年制を廃止すれば、社会全体として若者の雇用機会を減少させずに、企業としては即戦力の高齢層に働いてもらうことができる。また蛇足にはなるが、年金問題に関しても払う側が増え、よい方向に向かうのではないか。
まとめ
これまでの日本型雇用の本質的な部分はポスト可変型であることでにあった。しかし、それゆえに女性や高齢者、非正規の排除を行ってきた。これを解消するために途中からポスト固定型を選べる「ポスト可変型の中途ポスト固定化」を推奨したい。それと同時に、社会として就業経験のない労働者の就業機会を確保するためにも新卒一括採用は続けるべきである。
ただ、従業員のエンゲージメントが低い原因になっている終身雇用、生産性の低い中高齢層が生まれる年功序列、年齢という理由だけで働ける人が働けなくなる定年制は廃止すべきだ。