トレイルランにおけるクワイエットアイ
。何それ、目をつぶって走る練習? いえいえ、それは危ない。クワイエットアイとは、視線の焦点を定め、次の行動に備えるテクニックだそうだ。つまりトレイルランで足元の石や木の根を踏み外さないために、瞬間的に注意を集中させるやり方……って、なるほどと頷きながらも、ふと心の中で突っ込みたくなる。
だって、理論はわかった。でも実際はどうだろう? 険しい山道で「次のステップに集中」といっても、こっちは息切れしながら自分の足もとすら怪しい状態。クワイエットアイどころか、「あ、今あの木の根っこ、踏んだ瞬間にやばいかも…」と、つまずく予感だけは常にビンビンに働いている。まるで、クワイエットアイの逆を行く「アクティブアイ」で、あらゆる障害物に視線がぶつかりまくりだ。
さらに言えば、クワイエットアイで「集中!」と力んでいると、すぐに訪れるのは膝の笑い。そんな状態で、石を避けつつ、枝をかわしながら「静かに目線を保つ」なんてできるわけがない。むしろクワイエットアイを意識して走り始めると、やたら周りの風景が気になり始める。「あの山頂の景色、すごいなあ」とか「今度こそオトコジュクーポーズで写真を撮りたい」など、走りながら空想の世界に入ってしまい、足元はますます疎かになる。
しかし、奇跡的にクワイエットアイがピタッと決まる瞬間も、確かにある。下り坂で勢いがつきすぎ、まさに「これは転ぶぞ」という瞬間に、不思議と静かに視線が一点に集中するのだ。そのときの集中力たるや、日常生活では味わえないほどのクワイエットなものだ。でもその結果、たどり着いた結論は「まあ、転ぶ時は転ぶ」ってこと。これがトレイルランの真理かもしれない。
クワイエットアイが本当に活きるのは、むしろトレイルラン後の打ち上げかもしれない。疲労困憊の体で、目の前に出された冷えたビールにクワイエットアイを決める。周りの会話も耳に入らず、ただ静かにその一杯だけに視線を注ぐ。これこそが、トレイルランで培った「静かな集中力」の究極形だと思う。