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心拍数の謎:心臓とランナーの対話~心拍を知れば、走りが変わる~
序章:心拍数は「ランナーの声」か、それとも「心臓の叫び」か?
ランナーにとって、心拍数はただの数値ではない。
• 「今日は心拍が低いから調子がいい」
• 「心拍がすぐ上がるから、疲れているのかもしれない」
• 「ゾーン2トレーニングをしているが、本当に効果があるのか?」
心拍数はランニング中の身体の状態をリアルタイムで示すバロメーターであり、適切に管理することで、持久力の向上や疲労の軽減につながる。しかし、多くのランナーが「ペース感覚」や「距離の記録」に意識を向ける一方で、「心拍数」という最も重要な生理学的指標を正しく活用できていない。
心拍を意識することで、ランニングの効率は大きく変わる。ロードランニングとトレイルランニング、それぞれの視点から「心拍を読む力」を鍛え、最適な走りを目指す。
第一章:心拍数が教えてくれるもの
心拍数は、単に「速い・遅い」を示すだけではない。
ランニング中の心拍は、負荷の強さ、持久力の向上度、回復状態などを示す指標となる。
① 最大心拍数(HRmax)
• 最大心拍数(220-年齢)はあくまで目安。個人差が大きいため、実際に測定するのがベスト。
• 「最大心拍数の何%で走るか」によって、ランニングの目的が変わる。
② 心拍ゾーンとトレーニングの関係
• ゾーン1(50~60%):ウォーミングアップ・リカバリー
• ゾーン2(60~70%):脂肪燃焼、持久力強化(いわゆるLSDやMaffetone理論)
• ゾーン3(70~80%):テンポ走、マラソンペース向上
• ゾーン4(80~90%):閾値トレーニング(LT走)
• ゾーン5(90%以上):インターバル、高強度トレーニング
ロードランナーは心拍管理が比較的しやすいが、トレイルでは上り坂や不整地による負荷の変動が激しく、心拍のコントロールが難しい。この特性を理解し、適切な心拍の管理が求められる。
第二章:ロード vs. トレイル、心拍数の違い
ロードランニングとトレイルランニングでは、心拍の使い方が大きく異なる。
① ロードランニングの心拍管理
• 比較的一定のペースを維持しやすいため、ゾーン2~3のコントロールがしやすい。
• フルマラソンでは「平均心拍数の管理」が重要。例えば「30kmまではゾーン3を維持し、35km以降にゾーン4へ移行」することで、最後までペースを維持しやすくなる。
② トレイルランニングの心拍管理
• 上り坂では心拍が急上昇しやすいため、意識的にペースを落とす必要がある。
• 下り坂では心拍が低下するが、筋肉への負担が大きくなるため、回復を意識する。
• 長時間のレースでは、ゾーン2~3の維持がカギ。ペースよりも「心拍で管理する走り」が求められる。
トレイルでは、一定ペースを維持するよりも、「心拍を見ながら適切なペースを選ぶ」ことが重要になる。
第三章:心拍と疲労、そしてリカバリー
心拍は「走っているとき」だけでなく、「走った後」にも重要な情報を教えてくれる。
① 安静時心拍で回復をチェック
• 朝の安静時心拍が普段より高い場合、疲労が抜けていない可能性がある。
• 逆に、安静時心拍が低下してきたら、持久力が向上している証拠。
② トレーニング後の心拍回復速度(HRR)
• 運動終了後、1分間で心拍がどれだけ下がるかで、心肺機能の回復力がわかる。
• 1分で30以上低下すれば回復力が高く、20以下だと疲労が抜けにくい可能性がある。
リカバリーのためには、「何km走ったか」よりも「どれだけ心拍が回復しているか」に注目するべき。
第四章:心拍数を意識したランニングの実践
ロードとトレイル、それぞれのシーンで心拍を意識した走りをするための実践的な方法を紹介する。
① ロードランニングでの活用法
• フルマラソンに向けた「ゾーン3の管理」
• インターバルや閾値走で「ゾーン4~5を狙った刺激」
• 回復ジョグで「心拍をゾーン1に維持する」
② トレイルランニングでの活用法
• 上りで心拍を上げすぎない「ゾーン3制御」
• 長時間レースでの「ゾーン2を維持するペース感覚」
• 急坂の下りで心拍を落としすぎないコントロール
ロードではペースと心拍の両方を管理しやすいが、トレイルでは「心拍を優先してペースを調整する柔軟性」が求められる。
結論:「心拍を知ること」が、ランナーの成長を決める
心拍数は、単なるデータではなく、ランナーと心臓の「対話」である。
• ただ速く走るのではなく、心拍をコントロールすることで「適切なトレーニング」が可能になる。
• ロードとトレイルでは心拍の使い方が異なるため、「どの状況でどのゾーンを意識するか」が重要になる。
• 心拍の回復や安静時心拍をチェックすることで、トレーニングの質を高め、故障を防ぐことができる。
最終的に、「速く走れるかどうか」ではなく、「自分の心拍を理解し、最適な走りを選べるか」がランナーの成長につながる。
心拍は、単なる数値ではなく、自分の身体からのメッセージである。
この対話を大切にすることで、より賢く、より強いランナーになれる。
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