終わらないウォームアップ。走らずに汗をかこう

ランニングを始める時、ほとんどの人が思うことは一つ。「まずはウォームアップから始めよう。」しかし、ウォームアップという言葉には危険が潜んでいる。ウォームアップを始めると、気がつけば終わらない迷路に迷い込んでしまうことがあるのだ。私はかつて、この終わりのないウォームアップの沼にハマり、走らずに汗だくになった経験がある。  

ランニングをする気満々で玄関を出た私は、最初の5分間で体をほぐそうと軽いストレッチを始めた。肩を回し、腕を振り、脚を曲げ伸ばし…気づけば、その動きだけで汗がじんわりと浮かび上がってきた。「おっと、これはいけない。これ以上は汗だくになる前にランニングを開始しなければ…」そう思い立ち、走り出そうとしたが、その前にもう一つ大事なことを思い出した。「そうだ、股関節のストレッチを忘れていた!」  

股関節を回し始めると、今度はハムストリングスの張りが気になり始めた。「これは良くない。念入りにほぐしておこう。」その結果、立ったままハムストリングスを伸ばし、屈伸を繰り返し、ついには地面に座り込んでヨガのポーズまで始めてしまった。すると、目の前を通りかかるランナーたちが不思議そうな顔をしてこちらを見ている。私の姿はさながら「ランニングをしようと決心した人が、なぜかヨガ教室の入り口にいる」ような状態だった。  

それでも私は気にしない。何しろ安全第一だ。あれだけたくさんの怪我防止の記事を読んできたのだ。足首を念入りに回し、アキレス腱を伸ばし、さらには体幹トレーニングも少しだけ取り入れることにした。こうしてウォームアップがどんどん進化していく中で、私の体からは次第に汗が噴き出してきた。  

「おかしいな、まだ走ってもいないのにもう息が上がっている…?」そう気づいた時、すでにウォームアップは30分を超えていた。これだけ準備運動をしたのだから、さぞかし良いランニングができるだろう、と自分に言い聞かせたが、現実は甘くない。体力はすでに消耗しきっていた。「もしかして、これはもうウォームアップじゃなくて本番だったのか…?」そんな疑念が頭をよぎる。  

その時、ふと隣を走るランナーたちの軽やかな足取りに目を向けた。彼らは息も切らさず、余裕の表情で走り抜けていく。「彼らは一体、どんなウォームアップをしているんだろう?」と考えるも、私はすぐに悟った。彼らはきっと、ウォームアップなんてしていないのだ。彼らのウォームアップは、おそらく走り出してからの最初の数分に過ぎない。つまり、私のように準備運動に命をかける必要はなかったのだ。  

ようやくそのことに気づいた私は、肩を落とし、息を整えながら思った。「今日のところは、ウォームアップだけで終わりにしておこう。次回はきっと、もっと早く走り始めるんだ。」そんな決意を胸に、私は重い足取りで家路についた。帰り道、体はもちろんクタクタだが、心はどこかスッキリしていた。今日のランニングは、走らずして完走した気分だったからだ。  

こうして私は「終わらないウォームアップ」を卒業することを決意した。だが、それはまた別の話である。次回の挑戦では、きっと新しい理由を見つけて走ることを先延ばしにしてしまうのだろう。いや、それもまた一つの「ランニング」の楽しみ方と言えるかもしれない。走ることの全てが足を動かすことにあるとは限らない。時には立ち止まり、そして歩み出す勇気も必要なのだ。

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深北男塾note
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