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認知症の母日記 入院編6 

2024年10月25日(金)
 朝、C施設から電話がある。
 ドキリとする。
 母は昨日、Bリハビリ病院からC施設へ転院したばかり。
「聞いていない。知らなかった」
 と昨日怒っていたし、慣れない環境のなか、何かあるのではと心配していたのだが……
 看護師さんの話だと、母が夜騒いでしまうという。それから、昨日車椅子から立ち上がって2、3歩歩いたらしい。まだふらつきがあるため、転んでしまってまた脱臼してしまったら大変だ。
(正直にいうと、お母さん、立てたじゃん! 歩けたじゃん! と嬉しく思う自分もいた)
 おちつく薬を背中に貼ることと、拘束の許可をとるための電話だったわけだ。
 背中に貼る薬は、A病院、Bリハビリ病院でもしていた。
 拘束は、車椅子から立てないようにするバンドのようなものをつけること。
 わかりました、と言うしかない。

 電話を終えたあと、すぐ父に電話をする。病院は父へ最初に電話したのだが、出なかったため私にかけてきたのだ。
 父に母の状況を説明する。
 薬と拘束には家族のサインがいるため、父が面会にいく時にすることに。

 現在母が入っているC施設は面会が厳しい。1人につき週1回。10分間。前日までの予約が必要。枠が少ないので、なるべくまとめて(1回に2名まで可)来てほしいとのこと。

 どんどん予約が埋まっていくらしいので、電話を入れた。
 とれたのは、10月29日(火)。4日後だ。
 以前のように電話で話すこともできないから、私がさみしい。母も当然さみしいだろう……
 今回の入院前まで母はスマホで電話、メール、ラインすべてできていたのだ。年齢の割に使いこなしていたと思う。
 手術して2週間入院のはずが、こんなに伸びてしまって、その間に、まずラインができなくなり、メールができなくなり、とうとう電話もできなくなってしまったのだ。
 本人も最初はもがいてあちこち押してみたりしていた。「今度(面会に)来るときに、スマホのやり方教えて」なんて私に言っていた。しかし、次第に諦めていった。なんともさみしいことだ。

 話を戻そう。
 面会の予約のあとに、母の様子を聞いてみると、相談員のSさんに電話を取り次いでくれた。
 母は、C施設での初めての夜、21時から4時までは寝ていたそうだ。だが4時に起きてからは、大きな声を出して大変だったというのだ。不安になって、看護師さんを何度も呼ぶらしい。入りたてということで、看護師さん達の部屋から一番近い部屋にいる。しかし、4人部屋であるわけで……
 朝ごはんは全部食べたが、昼ごはんは時間かかっていると(つまり、あまり食べないということだ)。
 心配で心配で、たまらない気持ちになって、相談員Sさんに、思い切って母と少し話せないかとお願いしてみる。すると、やんわり「食事中ですけど…」などと言われたが、車椅子の母を電話口まで運んでくれたのだ。
 ありがたい! 感謝です。

 私は覚悟して、電話のむこうの母に呼びかけた。
「お母さん?」と……
 すると、母は、意外にも、まあまあ普通のお母さんだったのだ! つまり、あまり認知症の症状が出ていない、以前の母に近い感じ。
 さっそく薬が効いているのかもしれない……
私「慣れないとこだけど、大丈夫?」
母「大丈夫」
 と言うではないか。あれれ?
母「(面会に)来てくれるの?」
私「ごめん、行けないの。予約しなくちゃいけないんだって。来週、お父さんとあたしが会いに行くからね」
 母は言葉が出てくるのが遅くなった。
 A病院の途中からと、Bリハビリ病院ともに個室だったので(個室だと電話ができるため、父ががんばってそうした)、4人部屋でどうかと思い、「部屋の人達に会った?」と聞いてみるが、まだ会っていないと母は言う。本当に会っていないのかはわからない……
 反応の薄い母をなんとか励ましたい。
「ご飯食べて、リハビリ頑張って、足の装具がとれたら家に帰れるからね」
 と私が言うと、小さな声で母は、
「明日?」
 と言うのだ。
 日にちがわからなくなっている母に、時はどんな風に感じられるのだろう? 明日? と言う母をかわいそうに思う…… 
「A病院の先生に診てもらわないと、装具とれないから。お父さんが診察の予約を取るからね」
 と何度も説明していることを、また説明する。
 母は黙っている。
 しかし、おそらく相談員Sさんがそばにいるのを意識しているのか、
「大変なんだから、そんな来なくていいのよ」
 なんて、私を気遣ってくれるのだ。
私「困ってることない? 看護師さんやSさんはよくしてくれてる?」
母「みんな、よくしてくれるの」
 と言ってくる。更にーー
母「あんまり長電話は悪いから、切るね」
 とまで言ってくる。ちゃんと配慮ができるわけだ。
 電話を切らなければならないので、私は早口で。
私「昨日、Tさん(母の高校の同級生)と電話で話したよ。お母さんのこと心配してたよ」
母「よろしく伝えて」
 友達のことを覚えていたようだ。よかった。

 相談員Sさんと電話を変わる。私がわりと普通に話せたと言うと、「ご家族と話せたからすごく穏やかです」との返答。
 やっと、少しだけほっとできた。

※母の入院の経緯
 7月 8日 A病院にて股関節手術 その際に骨折 
 7月26日 Bリハビリ専門病院へ転院 その夜、おむつ交換時に脱臼
 7月27日 手術したA病院へ救急車で戻される
 8月 1日 足に装具がつく(三ヶ月外せないと言われる)
 8月30日 Bリハビリ病院へ転院
10月24日 C施設(老健)へ転院

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