Rebellious People Vol.1 〜反抗する起業家たち〜 (#イベントレポ 後編)
Impact Hub Tokyoにて「Rebellious People〜反抗する起業家たち〜」というイベントが開催されました。その模様のレポートの後編です。
前編はこちら。
理想の社会像とは
Kody:お二人が考える理想の社会像というものはありますか?
松岡:私は団体名に常にこめているように、「公正な社会」です。公正は平等とも異なります。平等は、例えばモノや機会が単純に平等に与えられていることだとしたら、一方で、公正はその人が置かれている立場や状況によって、適切なサポートを受けられたりして機会の平等が保障されるという観点が入ってくる、そういう社会だと思っています。それをどう社会で実現できるかは難しいと思いますが、自分が特に特化しているLGBTQイシューに関して言うと、どんな地域の、どんな時代の、どんな場所に生まれても、少なくとも安心安全に生きられることが一つの理想の社会像だと思います。セクシュアリティとジェンダーにおいては、その存在自体が当たり前なものとして制度的、文化的にも受容される、これがセットになってはじめて公正と言えると思っています。この2つの柱を持って情報発信をしていますね。
長谷川:僕は課題解決だけだと暗いので、基本的に一人ひとりその人にしかできないことを実現していく社会になって欲しいと思っています。個人も、社会にとっても、可能性が最大化している状態が、結果的に社会目線でも一番ハッピーな状態だと思っています。別に課題解決だけが素晴らしいことじゃないし、SDGsがクリアしたら全部ハッピーなのかというともちろん興味がない人もいます。小さいことでもいいし、何か新しくその人しかできないことで、世界が溢れると結果的にSDGsも全部クリアしているんじゃないかと感じているんです。学生たちはSGDsを強要されているのでかわいそうで。確かに重要なことが書いていますが、興味を持つかどうかは人によるかと思います。
松岡:2年くらいかけて本質的に理解してやるには、価値のある指標かもしれませんが、ただ形式だけ振られても難しそうですよね。
長谷川:人間についての理解がなさすぎるのではと思います。好奇心はみんな違うところにありますから。ここに関しては、学生に対してかわいそうだなと怒りに近い想いがありますね。
セクシュアリティとジェンダーが当たり前のように可視化されていて公正な世の中、そして一人ひとりがやりたいことを見つけて、それぞれの可能性が最大化している社会。その社会像に向けてすでに動きはじめているお二人の言葉だからこそ説得力がありました。
響き合わない人とはどう付き合うのか問題
ここからは会場からの質問で生まれた議論についてレポートしていきます。
今を生きる人たちにつきまとうSNSでの問題をはじめ、熱い議論が繰り広げられました!
ゲスト:私は仲間を見つけるとき、熱を感じるとすぐ結びつきがあるなと思うんですけれども、それをすればするほど、「私とそれ以外の世界」という見方になってしまって。この人は話が通じない人だなあと思うとその人と壁を作ってしまうようなことがあるんです。ジャッジメンタルになるし、響き合うものがないと絶望を感じたりも。エコーチェンバー現象(限られた人々とのコミュニケーションを繰り返すことによって、特定の信念が偏向して増幅または強化されてしまう状況の意)にもなっていると思うのですが、そういうことにはお二人はどう対処しているのでしょうか?
長谷川:私は変わらない人は変わらなくていいと思っています。分かり合えない人はいると思っているし、そのほうが健全な気がしています。
私は、自分と考え方が違う人たちに対してネガティヴには感じていないんです。納得するのか、好き嫌いかは別にして、理解はすべての思想に持ちたいとは思っています。一生理解できないと自分も絶対に理解されない世の中になってします。自分と違う種類の人と交流を断絶している人は損をしているように感じますね。政治家でも、他党の人と一切喋らない人とコミュニケーションをする人がいて、もったいないように感じますね。
松岡:基本的には同意で、全員が同じ考え方をするのは無理だと思っています。ただマイノリティに関する話によく上がるのですが、「多様性は多様な意見を認め合うというのであれば、差別する自由も多様性の一つじゃないか」と考える人がいます。しかし、それはやっぱりちょっと違うんじゃないかと思っているんです。
長谷川:それをやりすぎると「人を殺したい人は殺してもいい」みたいな話になってしまいますよね。
松岡:すべての人と分かり合うことはできないけれど、同じ社会を生きる、共生するためには、どんなことを思っていたとしても一定のラインを守ることが必要だと思います。、
SNSでの問題定義には背景とトーンが重要
松岡:仲間を増やしていくことにおいて、仲間だと思っていた人が突然差別的なことをいってきて辛いみたいなこともありますよね。
長谷川:そういう話はよく聞きますね。僕はあまりないんですけど。
Kody:同じ属性をもっているから安心して繋がれていたのに、別の属性の部分に偏見を持っていたとか、差別的な発言をしているところを耳にしてしまった、などですね。
松岡:このときに自分が大切にしているのは「アライ」という考え方です。アライアンスという意味と同じで、同盟や味方という意味です。LGBTQに関することでは、自らは当事者ではないが、当事者たちを支援したいと思っている人のことを差します。やっぱり「アライ」が増えていかないと現実が変わらないと思っています。でもだからと言って、例えば自分がカミングアウトしたときに、「わたしアライだから大丈夫だよ」と簡単に言われてしまってもちょっと信用ができない。その人がどういうフェーズにいるかにもよりますし、味方や仲間と思う人にも、グラデーションはあって、もしかしたらアライになるステップの途中なのかもしれないという考え方をもつことも大事だと思っています。
普段の私の葛藤なのですが、たとえばTwitter上である人が差別的な発言をしていた際に、「これはこういう理由で差別的な発言です」と批判しながらリツートすることは必要だと思います。でも、その人はもしかしたら勉強中で、頑張って発信したいと思っていた途中での発言だったかもしれません。その時に、直接リプライを送るのか、引用リツイートなのか、それとも自分のタイムラインで一つのツイートとして批判するのか、その方法は考えなくてはいけないし、背景を考えることはかなり重要なことだと個人的には思っています。そのときにさっきの足立区議の話とつながるんです。一般のおじいさんなのか、議員なのか、企業の広報アカウント、個人のアカウントだったり、立場を想像して、これはどのように批判すべきだか、発言前に考えています。
Kody:本当はアライの側に来てくれるはずの人だったのに、叩かれすぎて対極な場所に行ってしまったりする、というのも結構目にしたことがあります。そこでもまた、どういう表現方法で批判するのかが鍵になってくる気がします。
SNSで誹謗中傷が怖くて発信できない。そんなときの対処法
ゲスト:たとえば「起業したい」「イベントをしたい」というときのように誰かと繋がりたいときはSNSはすごく便利な場所だと思います。けれど多様な背景をもつ人が混在しているグラデーションの世の中で、不特定多数に対して発信することが私は恐怖に思ってしまうのです。うまく意思疎通ができないなと感じることもあり、お二人はどういった風にお考えなのか知りたいです。
松岡;私もTwitterで発信するとき、とても怖いです。でもそれは自分が批判されるのが怖いのではなく、自分の発信が誰かを追いやったりしているのではないか、と思うことが怖いんですね。むしろ批判してもらうことはありがたいと思っています。自分も本当はそうとは言い切れないと思いながら、一旦この場はここまでは言い切る必要があるのではないかなど葛藤しながら、やってみるということをしています。特にTwitterの運用に関してはすごく気を付けています。100%自分の気持ちや考え方を反映しているわけではないし、その切り取った一部を語っているにすぎないと思うのです。
だから逆に誰かのTweetをみても、この人はこういう考え方をしている人なのかなと想像して、全部をそこだけで判断しないように心がけているので、常に恐怖と向き合いながらも割り切りをしながら使えると思います。インスタはゆるりとした使い方をしていますので、ご自身の好みによってアカウントやプラットフォームで使い分けていくというのも大事かもしれませんね。
長谷川:目的によりますよね。トランプさんは誇張したほうがファンが増えるから、Twitterは彼の理にかなっている。SNSの使い方も目的次第だと思っています。その発言を真正面から受け止めるのではなく、それは一部を語っているに過ぎない、と思うことで自分が発信するときも、自分が発信を受け止めるときも少し違った目線で、SNSに関われるのではないでしょうか。
一歩の踏み出し方。モチベーションの保ち方
一歩を踏み出そうとしても、踏み出せない、踏み出しても、その後のモチベーションが続かない...そんな方は多いのではないでしょうか。ここではモチベーションの保ちについて議論が及びました。
ゲスト:問題意識をどういう風につなげていくのか、実際に一歩踏み出すことでその解像度が上がったという話があったと思いますが、今まさに、私がジェンダー関係のことに興味があって、大学院で学びたくて準備をしているのですが、向かう方向性が見えていなくて。まずはやってみるのが大事とおっしゃっていましたが、どういうアプローチで解像度をあげていったのかをお聞きしたいです。
松岡:怒りと向き合いながら、自分がどういう風にスコープを定めていったかというと、ひとつやっぱり知識というのがありました。例えば研究でも、まず先行研究を読んでからはじめるのと同じように、たとえば国内や他国だと、どういう団体や活動方法があるんだろうと調べて、これはマネができるのか、でもちょっと日本に合っていないかもなどを考えながら、スコープを定めていきました。
長谷川:やっぱりやってみることことが大事かなと。些細なことでいいので、イベントの受付を手伝ってみるとか、見えることもあるかもしれません。そうするときっと、何かモチベーションが生まれると思うんです。こういうの流行っているんだ。とか全然人がきていないじゃんとかなにか違和感があったりするかもしれません。ネット、本などで読むだけだと、脳への刺激が足りない気がするんです。
残念なことにコロナで正直減ってしまった分もあるとは思いますが、体ごと体感して、意図的に自分の中で感情の振れ幅を作っていったほうがやる気になると思います。
やる気になっていくとすこしづつ行動量が増えていって、いろんなところに顔を出すようになって、実践して、好きとか嫌いとか面白いものが見えてきて、どんどん解像度が高くなっていくのかなと思います。なので僕は学生にはそういうことを促しています!
少しずつ、行動することで、感情の振れ幅を作ることに繋がったり、自分の好き嫌い、やりたいことへの解像度が上がっていき、そのことでモチベーションも上がっていく。自分のしたいことがわからない、やりたいことがわからない、そんな時は、まずはできることから行動していくことが大事なのですね。「怒り」や「問題定義」を元にしながら、お二人が解像度を上げながら行動し続けていることが、これから起業を始める人や、「怒り」をもとにした想いがありながらもなかなか一歩踏み出せない人へのヒントになったのではないかと思います。
松岡さんは、LGBTQとハラスメントという本を今年出版しました。よくあるLGBTQに関する勘違いをパターン20個くらいにしてわかりやすく解説しています。
長谷川さんが代表を務める1on1 collegeのウェブページには今を生きる学生たちの声が聞けるレポートが掲載されています。
ぜひご一読ください。
Impact HUB Tokyoでも、教育、LGBTQ、ジェンダーなどテーマを決めて今後もイベントを開催していく予定です!次回はどんな起業家の「コトを起こしたストーリー」が聞けるのでしょうか。
乞うご期待です!