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Rebellious People Vol.1 〜反抗する起業家たち〜 (#イベントレポ 前編)

社会や既存システムへの怒り、反抗意識などはしばしばネガティブに捉われがちですが、それらの感情をポジティブにフィーチャーしたらおもしろいのではないかと、先日Impact Hub Tokyoにて「Rebellious People〜反抗する起業家たち〜」というイベントが開催されました。

ゲストは、カミングアウトを経て、ゲイであることをオープンにしながら、政策や法制度などLGBTQに関する情報を発信している一般社団法人fair 代表理事の松岡宗嗣さん

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もう一人のゲストは衆議院議員秘書、チームラボキッズの採用責任者を経て、学生向けのコーチングプログラム、1on1 College を実施している長谷川 亮祐さん

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既に起業家や活動家として一歩踏み出しているお2人ですが、ここまで何を原動力にきたのでしょうか?
そして彼らを突き動かすものとはなんなのでしょうか?
事業を起こすに至った社会への怒り、抱いている問題意識、やりたいことの見つけ方、モチベーションの保ち方、そして発信源としてのSNSとの付き合い方など、インタラクティブな空間で「怒り」をもとにして生まれた数々の議論を前編、後編に分けてレポートしていきます!

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怒りはなぜネガティブに捉えられてしまうのか

まずはじめに今回のイベントの発案者であり、当日のファシリテーターであったImpact HUB Tokyoでコミュニティ・ビルダーを務めているKodyさんにお話を伺いました。

Kody:今回はオフラインでイベントを開催したのですが、それはコロナの影響で、私たちが怒りや不満、疑問に思っていることなどを発散する場所がほぼネット上に限られてしまったということに問題意識を持ったことが始まりでした。人と生産的な議論を生むというのが難しくなってしまったということで、このイベントではなるべくカジュアルに各々の怒りについて向き合える場を作りたいと思いました。また、Impact HUB Tokyoにはたくさんの起業家がいますが、ここに集まってくる人たちは必ずしもお金儲けが目的ではなく、それよりも強い感情や原体験の元に行動を起こした人たちが多くいます。
そして、私自身も既存の社会構造に対する疑問や怒りを原動力に学生の頃から社会運動に携わってきました。そのときに「怒っているだけじゃなにも生まれないよ」「言い方を変えてくれたら話を聞いてあげるのに」というトーンポリーシングのように意見を言われることが多くて、それに対してなぜ怒りってネガティブに捉えられてしまうのだろうとモヤモヤしていた部分がありました。これらのことがトリガーとなって、今回このイベントを開催するに至りました。

怒りからはじまった「コト」はアウトプットすることで解像度が高くなる

ゲストのお二人はどんな流れがあって、起業をするに至ったのでしょうか。

松岡:私は高校を卒業してから、自分自身がゲイであるとカミングアウトしました。そこに至るまでは隠すのも嫌だなと思い悩んだ時期もありましたが、実は自分がいじめられてたとかセクシュアリティが理由ですごく辛い思いをした経験はあまりないんです。大学時代は、学校を訪問してLGBTQについての講演をする活動をしていたのですが、その時も主催者の人やその周りの人たちも知識はないかもしれないけど、ある程度の理解がある人たちが多かった。
でも蓋を開けてみると、同じ世代であってもたまたま生まれた地域が違うからという理由でゲイであることを理由に家から追い出されたり、今このタイミングでも辛くて死にたいと思っている人がいることを知り、自分の目の前の人たちを変えていくだけではやっぱり限界があるなと思いました。どんな人、どんな地域であってもきちんと安心して生きられる世の中にするためには、社会を支えている制度を変える必要があると思ったんです。
そこにアプローチする上で、必要な情報を他のプレーヤーたちに届けることで、社会変革がより加速するのではないか、そう思ったことがきっかけで現在の情報発信活動をはじめました。

長谷川: 大きな流れでみると社会は緩やかによい方向に向かっているのではないかと思います。とはいえ、あくまでも緩やかなので、そこには解決すべきことが残っていて。なぜこの瞬間に同時多発的に問題が解決されないのだろうか、と根本的には思っています。解決する手段は色々あると思うのですが、若い時は政治家になるのが近道だと思っており、4年間ほど衆議院議員の秘書を経験しました。
同時多発的に解決していくには、一人ひとりに問題意識があって、強くなっていくのか、1万人、100万人のレベルでそういう人たちが出てこないとだめなのか。たとえば市長になったとしても、その市を支えるための市議会議員や市の職員も必要だと考えると、多分1人じゃできないし、一つの市で実現するためだけでもどれだけ人数がいるのだろうかと・・・このことから、自分が政治家になるのではなく、チェンジメーカーやリーダーを育成することが必要不可欠だと思い、人が可能性を最大化していくことに興味を持ったんです。
独立する直前はチームラボというところで採用をしていましたが、そこで会った学生や大人たちは基本的に自分がやりたいことがわからない。99.9パーセントの人たちがそういう人たちでした。しかし、よく聞くと親や学校は実は、子どもたちに対してやりたいことを見つけて欲しいと思っているんです。けれど99.9パーセントがそれを実現できていない。そこに疑問を持ち、どうやったら皆が可能性を最大化できるようになるのだろうという問題意識を持ってはじめたのが現在の1on1collegeです。

Kody:二人とも問題意識を持ってはじめた活動のアウトプットの形が初期の頃よりもアップデートされていると感じました。松岡さんはイベントや学校での講演から、法制度の情報を発信へと。長谷川さんは自身が議員になるということから人を育てることに。アウトプットの形が変わっていっていますよね。でも根本の問題意識とかは変わっていないんでしょうか?

松岡:変わっていないと思います。次第に解像度が高くなるというか、構造が見えてきたという言葉が感覚的に、近いのではないかと思っています。はじめは自分の見ている世界が狭かったので、目の前の人が変わっていく体験を見るだけで社会がよくなっていると思っていました。もちろん変わってはいると思うのですが、さらに外を見るとまた全然違う絶望が待っていて、そこで怒りが湧いてきて...。自分には何ができるのだろうと考えて、それぞれの地域に制度を作る上で、より早く広くプレーヤーの人たちに情報を届けることができたらと思っていたので、そういう意味では初心の頃の思いと繋がってはいると思います。

一歩踏み出せるどうかに関わるジェンダーの問題

kody:とにかく踏み出してみる、つまりまずはやってみることが一番大事だったりしますか?

松岡:振り返ってみると、LGBTQ関連のイベントにはたくさん参加していましたし、ボランティアとして運営に携わることも多かったです。その中には、趣旨に違和感を持つこともありました。何が自分はやりたくて、何はやりたいくないのかなど、実際に関わってみると気が付くことはあると思います。

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長谷川:それはありますね。政治家の秘書を経験しないと、政治の世界は分からない。365日、政治家が何をやっているのかは、表面的な情報だと正直分からないと思います。私はそれが知りたくて、その世界に足を踏み入れました。国会議員だけでも700人以上いる中で、どういう人が政治、行政に携わっているか、そこで自分ができることも知りたかったんです。

Kody:お二人は「石橋を叩く」方ですか?

長谷川:すごい質問ですね笑 全然叩かないですね。

Kody:叩かなさそう!私はよく叩き壊してしまうタイプと言われることが多いので、少し羨ましいと思います。だから私は自分自身が起業をするというのにはまだ距離を感じているのかなと。

松岡:すごく親しい女性の友人とよくジェンダーやセクシュアリティに関することを議論しているんですけれども、私の場合は、一旦色々考えて「やってみよう!」となりますが、その友達は、「よしやろう」となかなか踏み出せなくて。そこには私が社会の中で男性として過ごしてくる中でトライする環境が結構用意されていたのではないかと思うことがあるんです。その友人は、何かを起こそうと思った時に周囲から「やめた方がいいよ」と言われていたり、今まで「やろう」と思った時にトライする環境がなかなかなかったと言っていました。もちろん要因はジェンダーだけではないのですが、一つの側面としてあるのではないかと思いますね。

長谷川:私は逆に、最近の印象としては女性の方が「石橋を叩かない」人が多いような気がしますね。

松岡:そういう人が近年は”見えやすく”なっている、というのはあるかもしれません。それはいいことですよね。

長谷川:なるほど。採用に携わったときに感じたのですが、いわゆるベンチャー企業だとエンジニアは男性ばっかりなのですが、そうじゃない職種においては、まずそもそも応募してくる人が女性ばっかりなんですよね。

Kody:先ほども言った通り、私は「石橋を叩きまくるタイプ」なんですが、今日のもうひとりのファシリテーターであるYukoは渡った後に「あ、石橋だったんだ」って気づくタイプなんです。

Yuko:私は高校を卒業して、海外にいくという道を選びました。受験に対する怒りがモチベーションになって、こんなの勉強したくない!と思って、海外に行きたいという思いを優先して行ったんです。その時に、全然私は止められなかったんですが、周りは止められている人が多かったので、たしかに女性が何かを起こそうとした時にあまり積極的には応援しないというような構造はあるかもと思いました。

松岡:もちろん性だけじゃなくて、年齢や出身、学歴、家族構成など色々な社会的な属性が関わってきているとも思います。

長谷川:親や先生も及ぼす影響が大きいですね。親と先生という関係性は子供にとっては身近な大人なので。僕も今高校生、大学生をコーチングするなかで、親とか先生にそんなこと言われているのかと怒りが湧くことがありますよ。

長谷川:「OOはするな」だったり、「公務員になれ」だったり、「地元に残れ」と言われている人もいるし、言い出したらキリがないほどいくらでもそういうのはあります。

〇〇だから、こうしなければいけない、大人にそう言われたことで当たり前のようにそうだと思っている人がいるかもしれません。一歩踏み出してきた2人の言葉から、やってみようと動き出すときの周りの環境は大きく関係してくるのだと思います。逆に言えば、1人の人との出会いで人生が大きく変わることも。
情報発信をすることで、自分を受け入れてくれる世界があると知り、置かれている環境の見え方が少し変わったり、ネット上で同じような人たちとつながるきっかけになったり。メンターとの出会いで、学生が、大人や親に言われたことだけではなく、他にも違う世界が広がっていて、考え方はたくさんあることを知るきっかけになったり。それが一歩を踏み出すきっかけにもなるのではないかと思いました。

怒りのコントロール、「総感情量」が減った世の中

Kody:怒りや問題意識を持って活動や情報発信をしていると、ヘイトや理不尽な批判を受けることもあるかと思います。そんなとき、どうやって事業と心を切り離しているのでしょうか?

松岡:やっぱり社会構造の視点が重要だと思っていて、それが自分の怒りのコントロールにもつながると思っています。最近、「同性愛が増えると足立区が滅びる」という発言をした議員がいますが、もしそれが地元のおじいさんだったら、私はあまり怒らないと思うのです。
その人がそれまで学んでこなかったのは、教育や社会の制度の問題でもあるから、その人もある種の被害者だなあと思う面もあります。つまり、その人に怒るというよりも、その人の置かれた立場や地位、バックグラウンドを想像して、構造を変えていかないといけないという意識が強いんだと思うんです。

長谷川:私も同意ですね。議員がどういう立場かというと、その人の発言が政策に結びついて、それが具体的に教育の制度になって、子どもたちに影響します。そこが怒りを感じるべきポイントだと思っていて、その人がどういう状況にいるかによって怒りを適切にぶつけることが大事ではいかと思っています。

Yuko:怒りのポイントをコントロールしているという感じでしょうか?

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長谷川:そうですね。怒りって難しいですよね。発信をする上で大切だと思っているのは、ある程度の怒りが自分の中で見えていたり、受容できていないでその怒りをただ発信することは自分を傷つけてしまうことになりかねないということです。

松岡:たしかに。仮に自分自身が受け入れられていないまま怒りを発信したとして、それを他人から否定されてしまったら傷つくと思うんです。でもそこを受容できた上で、広い視点から発信する意識があれば、批判的なものがきても、なぜこう考えるんだろうと、もしかしたらこういう背景があるのかなと考えるようになると思います。もちろん自分の身も守らなくてはいけないから、そっとミュートする時もあるですけど、そういう判断をすることも怒りを原動力にして動いていく上で大事なのかなと思っています。

長谷川:私は逆で、どうでもいいことに関して怒りは表に出しますが、いわゆる社会的なものはあまり表に出さないですね。出すときは解決を図り、冷静に考えます。


Kody:「自分がやらなきゃ」とか「自分が発信をしたほうがいい」とか、お二人の持つ怒りは使命感というものに近かったりするのでしょうか。

長谷川:イコールではないですね。でも使命感に辿り着くまでの原点かもしれません。怒りをもとに何かをやりはじめていって、物事への解像度が高まってきて、ここをやると決まっていくと使命感になっていくのだと思います。

松岡:同じくですね。自分以外にこういう活動はできる人はたくさんいると思っているし、むしろ代替え可能で誰でもやれるようになったほうがいいと思っています。ただその中でもやっぱり、社会に必要なこと、好きなこと、得意なこと、その三つが重なる部分の活動がおそらく自分がやりたいことで、求められていることだと。

長谷川:怒りに限らず、憧れ、悲しみ、寂しいなども、プラスでもマイナスでも振れ幅の大きさが重要な気がしています。

Kody:あとはコロナの影響でオンラインになったことで、逆に感情の出し方を忘れてしまったのもあるかもしれないですね。

長谷川:残念ですが、「総感情量」みたいなものが社会的に減ったと思います。

松岡:もしかしたら1%の見えやすい感情が見えているだけかもしれませんが、一方オンライン上で増幅される負の感情は見えやすくなったように感じます。二分化されているというのは、懸念としてあるかもしれません。このイベントのようにオフラインだと空間の持つ力があるので、言い方、前後の文脈で想像力を働かせて、接続点を探し出すことはできますが、オンラインだとなぜそんなこと言うのだろうと、最初から敵、味方みたいになってしまったり、感情が増幅されているように見える部分はあるように思います。


マイナスに受け取られやすい「怒り」は決してネガティブではなく、使命感に辿り着くまでの原点になる。またその「怒り」による批判も、背景を考えることで、マイナスに囚われ過ぎずニュートラルな視点で受け取ること。それを踏まえて自分自身も発信をしていく。怒りを含む、感情と事業との付き合い方のヒントが見えた気がしました。

後編に続きます!



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