限界を超えた夏祭り
「私もヤグラに登りたい!」
1年前の夏。娘が宣言しました。
近所で開催される夏祭り。
4歳を超えると、ヤグラに登って盆踊り出来るイベントがあります。
親子共々、念願だったこのイベントに、今年は満を持して参加。
娘は、新しく手入れた『すみっコぐらし』の甚平を着て、意気揚々と会場へ向かいました。もう本当に浮き足立つとはこのことかと思うくらいに。多分ちょっと浮いてました。
会場に到着するも、盆踊りが始まるまで時間があったので、屋台を見て回ることに。
「フランクフルト食べたい!」
そう言うので、唯一フランクフルトが売っている屋台に並びました。
たこ焼きと焼きそばもありますが、その屋台はなんと、フランクフルトだけ焼きたて!
ジュージューとホットプレートで焼くフランクフルト。汗を垂らして焼いている男性の背中、立ち込める煙、見るからに美味しそう。
もちろん、皆こぞって注文していきます。1人2つ以上は頼んでいて、そりゃぁもう大繁盛です。ワクワク。
「あとフランクどれくらい!?」
突然、屋台のお兄さんが叫びます。
ん?どれくらい?
何だろう。焼き時間の話かな?
「あ!終わった!?これで終了!?じゃあ紙外して!」ペリペリ。
売り切れました。
うぇぇ!?そんなことあるぅ!?
時刻にして17時ごろ。早すぎない?フランクフルト、めっちゃホワイト。
もちろん娘は大号泣。この世の終わりぐらいに泣き叫びます。いやぁ、そりゃそうだ。まさかまさかの売り切れ。
しかし、泣いても喚いても、無いものは無いんです。
「残念だよね……。じゃ、じゃあ、さ!唐揚げ!踊った後に唐揚げ買いに行こうよ!ね?」
そう言って慰めると、なんとか気持ちを持ち直した娘。
続いては盆踊り会場へ向かいました。
念願のヤグラに登った娘は、満面の笑み!とってもとっても上手に踊り、親子共々、大満足の盆踊り!
そして、踊り終わるや否や、急いで唐揚げ売り場を目指す僕たち家族。余韻もなにもあったもんじゃない。
もはや当初の目的がサブクエストみたいになっています。メインは唐揚げ。
家族3人で急いでいる道中、射的を開催している屋台を見かけます。
「これやりたい!」
娘は立ち止まりました。
「え?いや、唐揚げ行こうよ!これってさ、くじ引きじゃないから、落とせなかったら何も貰えないよ?」
「分かってる!やりたい!」
こうなったら譲らない娘。こんのかわいい頑固者めぇぇい!
一応、妻も屋台の男性に尋ねました。
「あのー。これって、全部外したら何も貰えないですよね?」
「それは……そうですね!」
そうだよなぁ。腹を括ろうとしていると、男性は続けて言いました。
「まぁ、でもそんな人、中々いないですけどね!ハハハ!」
ほう。じゃぁもしかして少し簡単になってるのかな?
そんな期待を胸に、娘と協力しながら射的に挑みました。
数分後。
なにも落ちなかった。
びっくりするくらい成果ゼロ。なんで?無課金だから?もっと装備揃えた方が良かった?(射的の装備ってなんだろう)
え?流石に下手すぎるんじゃないかって?センス無さすぎって?
いやいや、ちゃんと全弾当たってましたし、めちゃくちゃ至近距離で打ったりもしましたよ!?
でもね?はじかれるんですよ!
バン!パァァァン!
バン!パァァァン!
硬すぎるんだが!?『すみっコぐらし』のお菓子!!
そして案の定、ウルウルしはじめた娘。
ヤバい!
「まぁ!そんな時もある!」励ます僕。
「唐揚げ!唐揚げ行こうよ!」当初の目的を思い出させる妻。
そそくさと射的屋台を後にして、唐揚げの売り場にやってきました。
しかし、なんだろう。おかしい。
なんか……片付いてる?
綺麗に整頓されたテーブルにいる店員さんらしき女性に、恐る恐る声をかけました。
「あのー。唐揚げ欲しいんですけども。」
「あ、今日はもう終わりました。」
はぅん!?
変な声出た。
そんなことあるぅ!?見事なまでのアンラッキー3連単!ヒヒン!
どうやら、射的している間に終わってしまったそうです。なんてこった。
恐る恐る娘の方をみると、肩をブルブル震わせて、涙をポロポロ流しながら叫びました。
「わたしっ……!もうダメェェェ!!」
夢も希望も失った4歳児。膝から崩れ落ちます。
なんてタイミングの悪さ。
あまりの絶望感に、僕も笑いを堪えて肩をブルブル震わせながら「そうだよね……ブフッ、踏んだり蹴ったりだったよね。」と慰めます。
しかし、その後も抱っこされながら「もうダメェェェ!」を繰り返す娘。本当にもうダメらしい。
仕方がないので、キラキラすくい・スーパーボールすくい、ナナチキ・アメリカンドッグを買い与えて、何とか夢と希望と笑顔を取り戻しました。
いや、ほんと、子供の胃袋は先に満たした方が良かったと、反省しきりです。
あと。
大人にとってはちょっとした事でも、しっかり絶望出来るくらい取り組む娘って、控えめに言ってかわいいなぁと改めて感じました。