「紹興酒は、だいたい一緒」と言われてしまう理由。
干杯!黄酒入門著者のdonです。
先日、ふとある考えが浮かんで、Xでこんなポストをしました。
「紹興酒なんて、だいたい一緒」
これは僕が中華業界の大先輩から言われた言葉です。他にも似たような感じで捉えている方は少なくないんじゃないかなと感じています。
それを否定して揉めたいわけではありません(苦笑)今後中国酒文化の発展についてとても大切なことなので、改めてしっかりまとめておきたいなと思った次第です。
「紹興酒なんて、だいたい一緒!」と言われる理由。
紹興酒は日本で高い認知度を誇る、海外のお酒のひとつです。「黄酒は知らないけど紹興酒なら知ってる!」という方は多いでしょう。
ただ、これまでの紹興酒は"年数"や"甕出し"をウリとして販売されてきました。「紹興酒8年」「紹興酒20年」「甕出し紹興酒」としてメニューに記載されてたのが一般的です(だいぶ変わってきましたが
これは紹興酒の認知を上げるという点ではプラスなことだったのだと思います。「中華に行ったら紹興酒だよね!」といったイメージを創造することには成功したのかなと。
一方で、そこで止まってしまった側面もあります。”紹興酒は紹興酒であって、それ以外の何者でもない”という地点に留まってしまった。
昔から僕は言っておりますが、紹興酒にだって銘柄はあるし、それぞれの個性があります。これは日本酒やワイン、ビールなど他のお酒と一緒です。
それなのに「紹興酒は紹興酒」で止まってしまっていたのはなぜか?要因はいくつもありますが、その中のひとつとして「解像度が低いままでもニーズを満たせたから」ということが挙げられます。
▼この点について以前に違った角度からまとめたこともあるのでよかったらご参考ください
"解像度が低い"とは?
他のお酒と比較してみるとわかりやすいです。
例えば、日本酒。
かつては多くの居酒屋で「日本酒 1合」とだけ書かれていた時代がありました。多くの日本酒が"日本酒"であった時代。
でも今は大体のお店で銘柄で書かれていることが多いですよね。ひとつの銘柄でもさまざまなタイプがあったり。
飲む側の間でも「私、みむろ杉が好き!」「これはまさに雄町らしい味!」「これ本当に9号酵母!?意外〜〜〜」みたいな会話がごく自然に発生しているように見受けられます。
なぜ「日本酒」とだけ書かれていた時代から、ここまで深堀され、多様化しているのか?
それは、ひとつに"解像度を上げていく先導者"がいたからではないでしょうか。
「そもそも、お酒の解像度ってなんなん?」
って話ですが、僕が考える解像度というのは「対象物が明確に見える度合い」なので、簡単にいうと「お酒にまつわる情報量の多さ」かなと。
日本酒の解像度が上がった。それは情報量が増えた、ということでもあります。
日本酒は米の酒。これは昔から誰しもが知っていたひとつの情報です。
でもそこから、この味わいは何が由来なのか?どうして果実のような香りがするのか?辛口と甘口ってどのように分類するのか?どのように作ったら辛口の酒になるのか?そんな疑問を解消するような情報が明らかになってきた。
米の品種、精米歩合、発酵期間、使用酵母、火入れ回数など製法に関する情報だけでなく、アミノ酸度や酸度、日本酒度などの成分も明確になってきています。
「米の酒」というざっくりとした解像度から、「秋田産、山田錦、精米歩合45%、K14号酵母使用、日本酒度-1度、アミノ酸度1.7、酸度4」みたいに細かな情報がわかるぐらい、くっきりと高い解像度で見えるようになっている。
この解像度の上昇は、自然に発生するものではありません。最初に誰かが積極的に動かないと上がっていきません。
自然と上がっていくものなら、紹興酒もとっくに上がっているはずだからです。
これは、日本酒にまつわる協会の方々、日本酒専門家、日本酒を分析する研究者、専門店、雑誌などのメディアといった方が情報をしっかり形式だった知識として整理し、深堀し、発信してきた成果なのだろうと思います。(もちろん、造り手ありきです)
こうして日本酒が細やかに明確に見えてきたときに「面白い酒だ!」と感じる人が増えていく。飲む人たちが増えていく。その人たちもまた深堀して、消費者の情報も積み上がっていく。全体の解像度レベルがまた上がっていく。
もちろんこれは日本酒だけじゃなくて、ワイン然り、ビール然り、ウイスキー然り、ジン然り。
お酒の本当の楽しさは、解像度があがってきて実現するんだなと思いました(年々解像度が上がっているのはカメラやプリンターだけじゃなかった!)
元々、そんな解像度云々関係なしに好きだった人からすれば、こうした解像度向上活動に対して「余計なことするな!」「飲んでおいしけりゃそれでいいんだわ!」という意見もあるかもしれません。
でも、文化を発展させていくためには多くの人からの支持が必要。文化として発展していかないと、結果的に造り手が報われない世界になってしまう。
だから、こうした活動って大切なことなんだなって、中国酒に携わるようになって痛感しています。
紹興酒はまだ解像度が低い。だからこそ、ポテンシャル無限大!
紹興酒の話に戻りますが、紹興酒は全部同じ、というのは、解像度が低いところから見ればそうだと思います。
逆に言えば、解像度を上げて見てみると全然違う。(っていうかそもそも違う蔵で造っているので違って当然なのですが)
「全部一緒」というのは、さまざまな紹興酒にモザイクをかけて一緒くたにして見ているようなもの。粗い画素数で対象物を見て、まぁ大体一緒だよね、と。
これは、仕方のないことでもあります。
なぜなら、それでもよかったからです。十分だったから。甕出し紹興酒があればお客さんのニーズは十分満たせていた。8年、10年、20年物でニーズは十分満たせていた。
解像度を上げるために必要な情報も、今まではほとんどありませんでした。
そしてさらに今は日本酒やナチュール、ジョージアワインなど中華料理に合うお酒はいくらでもあります。
要は、こうした環境の中で紹興酒引いては黄酒に対して解像度を上げる必要性を感じている人が少なかった、ということ。今のままでも何ら問題がない。お店として普通にやっていけるんですよね。
だから「紹興酒は全部一緒」のままだったんだろうなと思います。僕も中華の現場で10年以上働いてきましたし、中国酒の卸営業を通して事情はよく理解しているつもりです。
でも僕はなぜみんながこのお酒にもっと興味を抱かないのか、不思議でした。
よく「なんで黄酒なんですか?紹興酒なんですか?」って聞かれますが、僕からしたら「なんでこんな面白いお酒に興味湧かないんですか?」って思います。
今の紹興酒、引いては黄酒という酒は、まだまだ低い解像度の状態で評価されています。この解像度が今より高くなっていったときにこそ、正当に評価されるべきではないでしょうか。
最近は、紹興酒入門セミナーであったり、紹興酒ソムリエ制度を作る動きなど解像度を上げていく活動も増えてきました。さまざまな黄酒も日本に入り始めています。
解像度を上げていく作業、引き続き僕自身もお手伝いできることがあればやっていきたいなと思っています。
▼お知らせ
僕が店主をしている中国郷土酒酒場「酒白白」で不定期開催の黄酒入門講座ですが、祝!初!大阪開催が決まりました!
主催は台湾料理に詳しい料理家の宮武 衣充さん。当日は宮武さんの"台湾アテ"と黄酒のマリアージュを楽しみながら、「黄酒ってどんなお酒?」といった基礎知識を学んでいただく会となります。
関西方面にお住まいの紹興酒好きな方はもちろん、日本酒やワインなどお酒全般好きな方にもぜひご参加いただけたらと思っております。紹興酒のイメージを覆します(いい意味で)ので、ぜひ!
詳細は会場となる錢屋本舗さんのHPをご覧ください↓