ただの肉まん、されど肉まん。
「店長、ごちそうさまでした!!」
体育会系の部活のあいさつのように、大きめの声でお辞儀をした。
「そんな、肉まん一個でそこまで言わなくてもいいよ。でも、今回だけだからね!笑」
干支が一周する12年ほど前のこと。
私はアクセサリーやカバンなどを扱う服飾雑貨屋さんで働いていた。
ディスプレイを考えさせてもらったり、プレゼント用のラッピングもしたし、時計のコマ詰めなんかも私たちのお仕事。
常連さんとの会話や、初めて来るお客さんと打ち解けられた瞬間はとっても楽しくてやりがいもあったし、店舗別で売上を競う時なんかは燃えに燃えて、見事に1位を獲ってバッグを一つずつもらったりもした。
その反面、めんどくさいこともたくさんあった。
アパレルとは違って扱う点数も多く、細かいものも多いため、毎月の棚卸しは地獄だし、シーズンごとのタイムセールではのどがちぎれるほど声を出して盛り上げたり、鬼のようなレジ打ちで神経がはち切れそうにもなる。
女だけの職場だし、特に物事はっきりばっさり言ってしまう私は陰でこそこそと言われていたりもして、そういった面では働きずらさもあって、良さも悪さも半々といった感じだった。
年末年始が特に忙しい。クリスマス、年末セール、福袋。
だいたい12月1月のアパレルや服飾雑貨の店員さんは、よーく見ると目の奥のほうが死んでいる。
他の店舗さんとすれ違うときも、いつも以上に共に戦う戦士のように感じる。
年末セールが始まったすぐ直後にする棚卸しはもう本当に生き地獄。
在庫は積んでるし、お客さんも多いし、倉庫ではだいたい何か消えるし、バックヤードはごった返してるし。
そんな局面を総出で乗り越え、みんなで帰ろうとしたとき、店長が「みんなで肉まん食べない?私おごるよ」と言ってくれた。
すぐ近くのコンビニに入り、各々好きなものを頼んで寒空の下、大げさなくらい出てくる肉まんからの湯気にはしゃぎつつはふはふと食べた。
陰口言われてたし、あまり気持ちが良くないできごとも多々あったけど、なぜかこの肉まんのことは冬になるといつも思い出す。
ただ肉まんをタダで食べられただけのことだとは思えないくらい、私にとっては特別なことみたいだ。
そして、この店長がお誕生日プレゼントでくれた名前入りのサニタリーショーツは、10年以上経ってもいまだに現役で使わせてもらってる。
ワッペンでくっついてた名前はとうの昔に取れちゃったし、お恥ずかしながら実は穴も空いてるんだけど。