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山林昆虫記:昆虫類の写真に名前がついたのでご報告

今年の8月に我々と北海道の奥山のホロカトマム山林で2週間一緒に過ごした🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿昆虫学者のクレイグは、帰国してから殺人的な忙しさ. . . に見舞われたそうで、ほんと〜にすみません。その忙しい合間を見て、我々が撮影した虫類の写真を全部見て、

写真に撮った一枚一枚にできる限りわかる限りの昆虫類の同定

をしてくれました!

全部の写真を丁寧に、拡大しながら詳細まで解析して、日付、撮影者、昆虫の名前をつけて送り返してくれました。私にとってはこんな特権みたいな経験ができて、これまで何度となく歩いてきたうちの山で、ほぼ一度も見たことも考えたこともなかった多数の小さな生き物たちの存在を垣間見ることができ、今でも楽しかった想いが満載で、写真に名前がついて戻ってきて、嬉しくてたまりません。

2024年8月の2週間 ここでやりました
こうやってみるとうちの山はとても綺麗な対称的な二等辺三角形だ
秋には綺麗なオレンジ色になるんです

写真だけでは完全に同定できない種類もあるし、まだアルコール漬けにして送ったサンプルの同定も終わっていません、クレイグからの最終レポートも待ちの状態。

誰もが喜ぶ美しい写真というわけではない(また虫嫌いの人にはすみません)のですが、まとめご報告させていただきます。


水生昆虫

ホロカトマム山林は2012年に水源涵養保安林という保安林(許可や届出がなく木々を伐採してはいけない)の指定をとりました。山からは小さな湧水の渓流が四の沢川やホロカトマム川に注ぎ込んでいます。

四の沢川は浅く流れが早い

四の沢川は浅く流れが早いのです。何となく、小さな生き物は素人目には全部流されてしまいそうに思えるわけです。ここでクレイグが川底を長靴キックして網でさらい、トレイに引き上げ、小さな白いスプーンで小さな生き物たちを見せてくれるまで小さな川がこんなに豊かな生態系になっているとは考えたこともありませんでした。

キックサンプリング(川底のサンプル)と水温
四の沢川にて
白いスプーンで小さな生き物たちを見せてくれる


コカゲロウ=Baetidae
白いのはスプーンの柄の先部分なんです
トビゲラ=Caddis が川底の小石を集めて作った入れ物(ケース)とカワゲラ Perlidae=stonefly
カワゲラ Perlidae=stonefly
サンプル瓶の中に収集されたカワゲラの成虫
分かってはいても、こういう捉えられた自然の生き物の図は辛い
写真で見てもここから出して欲しいと思っているように見える
(でも、成虫になったカワゲラの寿命は数日間なのだそうです)


川は浅くなったり深くなったり
流木や倒木で流れの向きを変えたりしながら
時には水たまりを作っている 
川そのものの多様性が生き物の多様性を支えるのでしょう

多様性はチラ見だけでもこんなにあるんですから驚きです。

そんな川底で小石に隠れたりくっついたりして生きているピコピコ動く小さい幼虫たち大集合
手足の小さな茶色の斑点が愛らしくてお気に入り
思わず息を止めて撮影した
透き通る体のカゲロウ


蝶々やとんぼなど

クレイグが水生昆虫の専門家ということもあり、水生昆虫にメインの座を奪われた感はありますが、素人的には蝶々やトンボが昆虫類オーバービューのスターであることは間違いありません。ここには蛾もちょっと含めますが、今回のオーバービューでは夜のライトトラップで蛾がやってくる前にあまりの羽虫の多さにもう1〜2時間で退散したということもあり、蛾の種類は多くありません。次回の課題として、蛾に注目してみたいと思っています。

夏の終わり ホロカトマム山林内からの眺め


アカフハネナガウンカ

このウンカという虫を蝶やとんぼのカテゴリーに入れるのは、乱暴で間違っていると思われますが、クレイグのお気に入りはこの白い羽に赤い「ふ」が入ったウンカ。見れば見るほどおしゃれな朱色です。羽を広げると波波型の模様が見えますね。

このウンカですが「ウンカ」とググるとお米を食べる害虫、などとの記述が出てきます。仕方のないことですが、虫類はいつも「害虫」として人間 vs 虫のような説明が多くて、知りたいのはあんまりそこじゃないんだけどなあと思うことばかりなのですが、なんと、最近note内で他のクリエイターさんが書かれていた良い情報を発見しました。

ウンカがお茶を美味しくする

ウンカの一種であるチャノミドリヒメヨコバイというウンカの一種が茶の葉を齧ることによって、茶が後に発酵した時、独特の香りが生まれ、お茶を美味しくしてくれるのだということ。こうやってウンカという小さな虫が害虫でも益虫でもなく、生態系の一部である大切さを感じさせるお話です。

車のライトに引き寄せられるモルモマウラ
ミドリヒョウモン
ベニシジミ
マイマイガの一種
メスグロヒョウモン
大好き、ミヤマカラスアゲハ
エメラルドトンボ
赤トンボ(アカネ科)
いわゆる赤トンボのトンボですが赤トンボにも色々種類があり、
見分け方の難しいことよ
マユタテアカネは眉があるのよ
黄色と黒のシマシマ同士、でもスズメバチのシャープな感じが並べるとよくわかる
シャクガの幼虫 シャクトリムシ


甲虫とか


ヤホシゴミムシ
「ゴミムシ」とはゴミに集まる小昆虫などを捕食する虫であることに由来するとか。
このヤホシゴミムシは樹上性
この白い斑点を「華麗」と表現しているブログも見つけました

ヤホシゴミムシの右側の写真、奥に見えるのは、カロリーメイト、メープル味。夫もクレイグもカロリーメイトはメープル味がお気に入り。私はカロリーメイトがいまだに太る元になるのではないかと心配しているのですが、本当のところどうなんでしょうね。あとは二人でゲラゲラ楽しそうにコンビニで買うものはポカリスエット。「Pocari Sweat」の大きな印字を見て、どうして「汗」にお金を払って買うのさ?と、思うのだそうです。余談ですが。

瑠璃なんだね
ハムシたち
アワフキムシ
容易に泡を噴くムシなのであろうことが想像できる
カメムシは臭いらしいのですが、クンクンとする暇もなく
(あなた方忙しそうだから)
こういう小さくて目立たないのも見逃しません
なんか小さくても凶暴そうですが . . .
こんなに着飾っているから、まさか臭いとは思いもよりませんでした
(林道に停めていた車のボンネットの上)
編集している時に、隣にハエを置いてしまいました
北海道にのみ生息するという死骸のお掃除やさんヒラタシデムシ
そういう役割も大事なの、わかるよ

甲虫の王様といえばもちろんクワガタ、カブトムシ。
何度となく登っている自分の山ですが、なんと10年以上、クワガタに出会ったことは一度もなかったので、こういう王様たちは古くて朽ちているような巨木のある森にいるはずでうちの森はまだ若いからなあとなんとなく思っていたのですが、昆虫学者たちがヒョイっと倒木の影を除くと、いるいる。本当にいる。

倒木をヒョイっと
立派なクワガタを発見

倒木は以前は歩道にかかっているものなどが気になってノコギリで切ったり片付けたりしたこともあったのですが、数年も経つとほぼ目立たなくなり、こうやってクワガタなどの住処になっていくのですね


歩いていてよく見かけたのがコエゾゼミ

抜け殻
コエゾゼミ
拡大されてみると、緑色の縁の羽が美しい


バッタ、そのほか

フキを食べるというサッポロフキバッタ。その名の通り、フキバッタの中でも札幌に特有の亜種とのこと。

サッポロフキバッタ

面白いのは、サッポロフキバッタには飛べる羽がないので移動能力があまりなく、ローカルに生まれローカルで育つようです。そして更に面白いことにサッポロフキバッタの性染色体 XY/XX(メス、オスを決める)には他では見られない転座と呼ばれる集団が存在するのだそうです*

*サッポロフキバッタには,オスがX染色体を1本,メスが2本持つ「本来の集団(X0/XX集団)」と,X染色体が常染色体に転座(translocation)を起こして生じた性染色体を持つ「新しい集団(XY/XX集団)」が存在します (琉球大学の論文より

ローカルに生まれ育つため、近親相姦を避けるための苦作なのでしょうかね。ホロカトマム山林内のサッポロフキバッタはきっと典型的東部田舎もんに間違いないでしょう。

このフキバッタは確かに長い羽がある
ハネナガフキバッタ

こちらはひし形をした模様があるのでヒシバッタ。

ヒシバッタ
前野ウルド浩太郎博士でお馴染みの、トノサマバッタ


鳴く虫でお馴染みの、スズムシとコオロギももちろんいました


キンヨウグモ(ドヨウグモがいるなら金曜も、と名付けられたのだそうです)
忘れられない存在感のキバナオニグモ
カニグモ、ハエトリグモ
クモではないけれども、クモのような形のザトウムシ

ザトウムシなんですけどね、長い前足があることからめくらの座頭市の持つ杖のように見えることからつけられた名前だとか。虫の名前のつけられ方ってホント興味深いです。

この写真だと座頭市の持つ長い杖の感じがよく現れている
とは書いたものの、名付け親の想像力がすごくて感心してしまう


古代から生息しているというイシノミ
紙を食べるシミムシ
サナギ
カタツムリ

人間の目線では一見静かな森。今まで見えていなかったものが見えるようになった2週間。以前ちょっと虫は苦手だなと思ってた私が、挑戦して良かったこと。

家の中で出会う虫たちはいまだに苦手だけども
森の中ではこちらから探しに行きます!


最終的にクレイグにより写真などで同定された種は180種類ほどになりました。エクセルで表になっていますので、ご興味のある方用に。ダウンロードできます。


今村さんにもらったカマで笹刈りにたくましく取り組んでいる私
とにかく毎日楽しかった

こうやって奥山の山中で出会う虫たちがなんのためにいるのか、どんな役割を果たしているのか、どうしてこんな形になり色になっているのかなどと疑問に思い出すとキリがなく、その答えもほぼ見つけることはできません。そういう、答えを出そうとするのではない過程、世の中は、自然は、大きくてどこまでも複雑であるということを体験すること、はとても大事だと最近思います。

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山林
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