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龍と鳳凰の大皿

最近、青花(せいか)磁器を購入した記事を書いたばっかりでしたが、同じ月にまさか二つ目の購入に至るとは。今日は大皿を購入したお話です。

もうお馴染みになった庶民レベルのオークション。

パディントンベアまで売られているのを横目で見ながら . . . 

パディントンベア

テディベアに対抗する有名なくまのぬいぐるみパディントンはご存知ですか。これは児童書向けの物語に由来しています。「パディントン駅で古ぼけたスーツケースの上に座っているところをブラウン夫妻に発見される。彼のコートには「このくまをよろしくお願いします」("Please look after this bear. Thank you.")と書かれた札がついていた . . . 」

幸い、パディントンベアに執着はないので、お目当てのお皿を見に行きます。

写真だけではやはり大きさとか重さとか細かいニュアンスとかそう言うものが伝わらない

実際に見てみると、思ったよりも大きくどっしりとしていて、ところどころ色が薄くなっているところも年季を感じさせ、ふたりとも、これは好き、買いと頷き合います。

ここから車に戻り、車内で、

「あなたならこれにいくら出せるか」

の相談。夫は£510まで出せる、そんなら私は£550(負けず嫌い?)。ドキドキしながらのオークション。相場価格で£200-300と出ていたのですが、蓋を開けてみれば競合者なく、結局のところ£190でお買い上げ。

喜び勇んで大事に包んで持って帰る。
最近購入した青花の染付と並べるとわかるように大きさがかなり大きい
(現在、右のものは食器棚に飾っている)
家のいろんなところに置いてみる、どこがいい?
ここはどうかな
一歩後ろに下がってここはどうかな

ここから、虫眼鏡を取り出してきて、ジロジロと眺める楽しさ。


鳳凰
龍の追いかける玉、如意宝珠(にょいほうじゅ)
裏は牡丹と蓮
線がずれているのも、手書きならではのこう言う不規則さが愛らしい
色は白、青、赤、緑、に?金 ?グレー
拡大してやっと見える金色は時間と共に消失している?
グレーはもしかしたら黄色の着色でちゃんと黄色に出なかった可能性がある?
全体像をもう一度眺めると、私:青よりも赤が印象的 夫:真ん中の青が印象的
赤も朱色のせいか全体的に柔らかい色合い
緩やかに歪んでいるところも手作りならでは


ここからググることしばし。まずは龍、鳳凰、などのキーワードを入れてみます。そうすると中国語の中から引っかかってくるのが例えば

明万历五彩龙凤纹盘
故宫博物院

明万历 五彩龙凤纹盘 故宫博物院

龍=龙 鳳凰=凤 皿=盘、5色=五彩、ちょっと似てますでしょう。

明万历青花五彩龙凤纹で調べると

色味の具合とか龍と鳳凰の雰囲気とか如意宝珠が似ていますよね(四角で囲った部分)
鳳凰の様子(特に切長の目とか)も


最初の「明万历」の部分ですが、考古学者の夫に解説してもらったところ

夫解説

明万历=明時代(中国)の万暦帝のときに作られた
と言う意味らしい。しかし、英語のように中国語の発音をそのままにした方が、日本人も話についていきやすいのかもしれないですね . . .

そして、今回のように裏印がないものは、民間人が築いた「民窯」で焼かれたものと思われるのです。皇帝や皇宮が使用する陶磁器を焼いた「官窯」であれば裏印が押してあることは間違いないのですが、この裏印を含めて模造品が出回ることは想像に難くなく、裏印があるから=本物、と一概には言えないところが要注意なんですね。


  • こう言う多色の磁器の焼成工程と言うのは、まず青と白の材料で生地に一定の模様を描き(絵付)、それを窯に入れて焼成します。その後、焼き上がった磁器に再び赤、黄、緑、紫、黄土色などの色を塗り、もう一度、窯に入れて700度で焼き上げるのだそうです(「二度焼き」の技法)。焼き上げる際に、思ったように色が出ないと言うこともよくあったそうです。

  • 中国で二度焼きによる色絵が豊富につくられるようになったのは明代のことです。特に景徳鎮 (Jingdezhen, Jiangxi, China)では多様な色絵が作られ、成化 Chenghua、嘉靖Jiajing、万暦 Wanli と引き続き栄えており、万暦 Wanli 期の五彩は濃厚で細かな様子が特徴的です。

  • 景徳鎮では青花文様を下地にしてこれに上絵を加える「青花五彩」の装飾法が主流、金色を使い始めたのは1690年ごろ?

  • 景徳鎮は日本にも大きく影響し、日本でも色絵磁器が作られ、肥前有田地方で17世紀に色絵磁器が完成し、古伊万里、柿右衛門、鍋島などの様式が誕生しました。皆様もご存知、伊万里などに代表される華やかな色絵文化が咲きました。

  • 五彩磁器は必ずしも5色あるという意味ではなく、装飾の必要に応じて色を増やしたり減らしたりすることができます。ここにベースである「白」も含めて数えるのだそうです。

  • 五彩磁器は、明代の万历=万暦年間に最盛期を迎えたそうです。ただし、そのころの五彩焼成は難しく、生産量も少なかったため、伝承されたものは多くありません。主に小型のものに見られ、大型のものは稀です。文様や装飾は龍や鳳凰、花や植物が中心です。

  • 万暦時代の多彩磁器は色鮮やかで形も多彩で、日本人・ヨーロッパ人に愛され、珍重され、高額で買い取られたそうです。

  • 市場には万暦時代と名を打つ多彩磁器が数多く出回っていますが、そのほとんどは景徳鎮の模造品です。


今回買い求めたものが上記に触れたような景徳鎮で作られたものだと思うのですが、と言うのも、縁の模様が今でもチャイニーズスーパーマーケットなどで容易に手に入れることのできる大量生産される青と白の龍の模様の景徳鎮製(ホタル焼き 龍柄)のふちの模様が一緒だからなんです。

左:現在工場で大量生産される景徳鎮製 ホタル焼き 龍柄のふち、
右:今回買い求めたもの(手描き)

ここで、本物と偽造品の違いについて、質問を投げかけてみます。注意深く観察すると、違い・欠陥が見えてくるのだそうです。


  • 形状:万暦時代の色彩豊かな磁器の形は多様で、皿や椀のほか、様々な形の箱(丸箱、四角箱、六角箱、八角箱など)が多く、シンプルな形と独特の模様が特徴です。しかし、当時の焼成技術が未熟だったため、形が不揃いで、歪んでいたり、小さな突起があったりといった欠陥が多くありました。一般的に言って、万暦の多彩磁器の生産量は多くなく、小さな作品が多く、大きな作品はほとんどありませんでした。偽造品の形状は規則的すぎることが多く、デザインがつまらなく、古風な魅力に欠けています。

  • 素地:万暦時代の彩磁器の素地は厚く、土は細かく洗われておらず、素地には多くの気孔があり、継ぎ目の跡が目に見える状態です。偽造品は、陶器の製作技術が異なり、粘土も異なり、一般に質感が細かいのが特徴です。

  • :万暦時代の色鮮やかな磁器には、天然の原料を使用しているので、青は紫がかった色で、落ち着いた純粋な色合いで、長期間使用すると自然に落ちていきます。逆に偽物は現代の化学材料を使用しているため、青と白の色が浮いていて、時には明るすぎてカラフルすぎることがあります。

  • 装飾画:万暦時代の絵付け技法は素朴で単純、模様は不規則、線は細いが密度が濃いようです。テーマ柄は龍や鳳凰の柄、花や鳥、人物物語、遊ぶ子供たちなどが中心です。筆遣いはフリーハンドで大胆、模様は鮮やかです。贋作の装飾画は、現代の画家の技術が古代人のレベルに及ばないため、一般的に硬直しているような印象があり、造形が不正確で、スタイリッシュではありません。



今回買い求めたこの龍と鳳凰の大皿ですが、

形状:お皿だけどもかなり大きい直径46cm。形は緩やかに揺らいでおりやや歪、裏に小さな突起がある様子を見ると、大量生産・工場生産のものでないことは明らかですね。

裏に小さな突起
目跡というそうです

素地:やや粗め

色:天然の原料ぽい朱色や青色、落ち着いた色合いで明るすぎとか、カラフルすぎていない。長期間使用すると自然に落ちていきます。

左:大量生産品 右:買ったもの
色味が全然違いますよね
経年劣化で自然に色落ちている様子がとれる


装飾画:本物(アンティークもの)は素朴で単純、模様は不規則、線は細い、筆遣いはフリーハンドで大胆。

左:現在工場で大量生産される景徳鎮製 ホタル焼き 龍柄、
右:今回買い求めたアンティークの龍柄
確かに、左は繊細さに欠け、動きがなく硬直しているような印象がある。 


「贋作の装飾画は、現代の画家の技術が古代人のレベルに及ばないため、一般的に硬直しているような印象があり、造形が不正確で、スタイリッシュではありません」というところに妙に納得したものです。確かにこんな細い線で正確に絵付けができるようになるまで、どれだけ練習したらいいものなのでしょう。

「本物は天然の原料を使用しているので、青は紫がかった色で、落ち着いた純粋な色合いで、長期間使用すると自然に落ちていきます。逆に偽物は現代の化学材料を使用しているため、青と白の色が浮いていて、時には明るすぎてカラフルすぎることがあります」

景徳鎮は日本の伊万里焼にも多きな影響を与えたらしいですが、古伊万里とやや似ているところもありました。

古伊万里と似ている部分もある 左:伊万里色絵龍花鳥文大皿(ネットより) 右:購入したものの裏側

レプリカだったとしても、前回の青花のようなモデルになるデザインが出てこないので、散々調べましたが、現在時点で一点ものとして私的に認定です。

夫の1973年の古書まで取り出してきて眺めています

こういう一点ものは夢があって良いですね。もしや!?と鑑定に持っていって→がっかりするよりも、家に置いておいて、これはいつの時代かと色々考えているだけでも楽しい。これは、やや、はまりそうな沼になりつつあります。ある意味、女性でハマる人が多いというバッグとかあのケリーはXXがOOだから偽物よとか、このケリーは希少なのよとかそういう気持ちと似ているのかも?(ケリーほど高額でなくてよかったです)。

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山林
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