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穏やかで健やかで永遠

かなり久しぶりに
ぐっすりと寝た気がする

部屋の中に穏やかな風が流れる

ゆっくりと目を開けた
優しい陽の光を感じたからだ

とても長い間
深い眠りについていたとは思えないくらいに
すっと身体を起こすことが出来た
どこもつらいところはなく
健やかだった

家の天井には大きな穴が空いていた
屋根が崩れ落ちたようだ

不思議と僕には被害がなく
崩れた屋根もどこへ行ったのか見当たらなかった

その抜け落ちた天井の先には
白く柔らかな雲と澄んだ空があった

文明の発展を願った体制にとって
ここはもう
朽ち果てた世界となったらしい

人の作ったあらゆるものが
植物に飲み込まれている

横に置いていたスマートフォンの画面も割れ、そこから小さな双葉がいくつも顔を出していた

それほど驚かなかった
寧ろ平安な気持ちだった
これはずっと僕らが願っていた事だからだ

風通りの良くなった部屋には
僕の眠るベット以外の壁や天井、床、家具に至るまで色とりどりの草花がビッシリと咲いていた

部屋に差し込む光と通り過ぎる風で
骨組みに絡んだ蔦の葉が
キラキラと木漏れ日のように影をゆらした

ベットから足を下ろすと2階まで茂った芝がちくちくと足に当たりくすぐったかった

家の床や階段が抜けないかと心配したけれど
想像したような事は起こらなかった

置いていた観葉植物は僕が育てていた時よりも遥かに立派に伸びていて、天辺は屋根よりも高いところにあった

隙間だらけで吹き抜けになった家には
根が張り巡らされしっかりと支えられていた

一階にあるお風呂も台所も茶の間も
すべてから新芽が出て鉄は錆ていて、木は脆くなり、プラスチックなどのものはどこにも見当たらなかった

外に出てみると
空気はなんの重さも含んでおらず
自由で
家の近くを流れていた川は
これ以上ない程に透明だった

隣の空き家は朽ち果てて倒壊し
もう草花の下になっていた

近所の家はどこももう誰もいなくなっているようで
賑やかだったはずの隣の家も同様だった

電柱やビルや家、高速道路
視界を阻むものはなく
遠くまで美しい草原と化していた

穏やかな風が吹き
それが平原の草花をどこまでも揺らしていた

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